やっぱりシルバーホワイト

油絵具の話です。

五日前の本コーナーで、油絵具の扱いについて書きました。

その中で、絵具の白はパーマネントホワイトがいいと書きました。早くも考え方が変わりました。やはり、シルバーホワイト(鉛白)を使わなければ思うような絵が描けません。

昨日も油絵具に接する時間を持ちました。

油絵具で絵を描いたことがなく、絵画作品を眼で見て楽しむだけの人は、自分で描く人に比べて、絵を見る視点が異なるかもしれません。そして、その結果、好みの絵画の傾向にも異なりが生じるだろうと思います。

私が最も敬愛するのがレンブラント16061669)であることはことあるごとに書いているとおりです。

そのレンブラントの描法に近い描き方をする画家が印象派画家の中にいます。

それは誰だと思いますか?

モネ18401926)です。それだから、私はモネも好きな画家で、モネが描いた作品を見るのも好きです。

描く対象は違います。レンブラントが描いた作品の大半が人物でした。一方のモネは睡蓮など、自然や風景などが描く対象でした。

このふたりの画家の油絵具の扱い方に共通点があります。

Painting modern life: Monet’s Gare Saint-Lazare

ふたりの画家と対照的なのはレオナルド・ダ・ヴィンチ14521519)です。ダ・ヴィンチとレンブラントやモネの作品を並べると、同じ油絵具を使って描かれているのに、大きな違いがあるのがわかります。

ダ・ヴィンチの技法でよく語られるのが「スフマート」です。ダ・ヴィンチは人間を描くのであれば実物に近づけなければならないと考えました。

自分の顔を鏡に映して見れば、肌は滑らかです。肌の色は、全体が同じような色をしています。それを絵具で表現するため、ダ・ヴィンチは、絵具を薄く塗り、それを指の腹などで伸ばすことをしています。これが「スフマート」と呼ばれる技法です。

This Mona Lisa video has been updated, please see link below

私も昔、油絵具に興味を持ち、使い出しました。試行錯誤の連続でしたが、その過程では、ダ・ヴィンチのスフマートの真似ごとなどもしました。

私の場合は、指を使うのではなく、筆を使いました。筆を二本持ち、一本の筆についた絵具をカンヴァスに置きます。そのあと、乾いた筆でその絵具を塗り伸ばすようなことをしました。

絵具の色は、他の色と混ぜれば混ぜるほど発色が鈍くなります。中でも、白を加えると、明度は上がりますが、それと引き換えに、彩度が急激に低下してしまいます。

昔の画家が使った油絵具の白はシルバーホワイトだけでした。当時の彼らはシルバーホワイトとはいっていなかったでしょう。欧州の画材メーカーは、同じホワイトをフレークホワイトと称しています。

ともあれ、白といえばその白色の絵具を使っていました。

今はその他に、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、パーマネントホワイトがあります。ホルベイン工業の絵具だけに限られるかもしれませんが、ほかにセラミックホワイトもあります。

私がアクリル絵具を使うときの白はチタニウムホワイトです。アクリルではシルバーホワイトはありません。

チタニウムホワイトは被覆力が強い白で、白さをすぐに出すことができます。それだけ強い白で、ほかの色と混ぜると、混ぜた色の彩度を奪ってしまいます。

これは油絵具でも同じです。パーマネントホワイトやセラミックホワイトをチタニウムホワイトを改良して作られた白です。それでも、他の色の彩度を奪う傾向を持つことは同じです。

私はジンクホワイトは使ったことがありません。かつては日本でよく使われたりしたようですが、乾くと塗面がひび割れするなどといわれ、敬遠する人が多くなったようです。

五日前の本コーナーで書いたように、一度は、私はパーマネントホワイトが一番扱いやすく感じました。しかし、昨日、そのホワイトを使って描くうち、やはり、シルバーホワイトに限ると考え方を変えました。

レンブラントやモネが描いた絵の魅力は、塗られた絵具が輝いて見えることです。同じ傾向はベラスケス( 15991660)やゴッホ18531890)にもあります。その魅力を生み出しているのは、生の絵具の色を活かす使い方をしていることです。

Velázquez, Las Meninas

ゴッホといえば、ゴーギャン18481903)と共同生活をして、ふたりで絵の制作をする夢を持ちました。それは短期間で破れ、ゴッホは発作を起こして自分の片方の耳を斬り落とす事件を起こしています。

ゴッホとゴーギャンは、作風からして相いれないものを持っています。

ご存知ようにゴッホは絵具を厚塗りします。ゴーギャンは、カンヴァスの折り目が感じられるほどの薄塗りです。対照的です。厚塗りすることでしか実現できな油絵具の魅力を、ゴーギャンは生涯気がつかなかったといえましょう。

絵具は混色すればするほど発色が鈍くなると書きました。逆のいい方をすれば、なるべく、ほかの色と混色せずに使うのが、彩度を高く保つ秘訣となります。

Rembrandt, Self-Portrait

色と色の境目を指の腹で混ぜるように描いたダ・ヴィンチの技法とは対照的です。

レンブラントのような描き方をするのであれば、シルバーホワイトが欠かせません。パレットの絵具を筆の先にたっぷりつけ、それをカンヴァスにのせるようにして描いていきます。

塗ったばかりの生乾きの絵具の上に、別の色の絵具を同じように、たっぷりとのせていきます。どうしても白い絵具が必要になります。それをシルバーホワイト以外の白ですると、それが青白く見え、色の印象が冷たくなってしまいます。

シルバーホワイトの白は温かみを感じさせます。チタニウムホワイトなどの白に加えて、ほかの色との馴染が良く、それでいて、材質的な存在感を持っています。

このような描き方をするため、筆跡を残した描き方になります。それが、レンブラントやモネの描き方の特徴です。

油絵具は油を主な成分で練られています。油は水蒸気が乾燥するように乾燥はしません。長い時間かけて、塗られたままの状態で固まるのです。

昨日塗った絵具を眺めています。筆跡がそのまま残り、筆を置いたときの状態が保たれています。特別なメディウムを使わなくても、チューブから絞ったままの絵具を厚く塗れば、この表現を実現できます。

これ以上愉しいことはないです。今日も油絵具と接する時間を持ちましょう。

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