最近、ある考えが浮かび、自分の考えが正しいかもしれないと思えることがひとつあります。そして、もうひとつ、これまでの悩みが解決できたことが自分に起きました。
ひとつ目もそのうちに本コーナーで取り上げるかもしれません。今回はふたつ目について書きます。
私が油絵具に接するようになってどれほど経ったでしょうか。
油絵具を使う以前、私はアクリル絵具を使って絵を描いていました。
ご存知ない方のためにアクリル絵具について簡単に説明します。この絵具は、おそらくはイラストを描くのを主な用途に作られた絵具でしょう。
最大の特徴は、色の基となる顔料と染料が、アクリル樹脂を主成分とするもので練られ、油絵具と同じように、チューブに入っています。
この絵具は、使う人の用途で、不透明にも透明にも使えます。絵具と同じ成分を薄めて絵具を溶くこともできますが、手軽なのは、水彩絵具のように、水で溶くことです。私はいつも水で溶いて使います。
水彩絵の具と違うのは、絵具が支持体(紙やカンヴァス)の上で乾燥すると、水に溶けない性質を持つことです。
絵具は短時間で乾燥します。ドライヤーの熱風をあてて、より速く乾かすことができます。
絵具が速く乾いてくれるのは助かるのですが、油絵具を使っていた人がアクリル絵具を使うと、パレットで混色している間にも絵具が乾いてしまうようになるなど、扱いにくく感じるでしょう。
この性質を利用し、NHK FMのリクエスト番組「夕べの広場」やそれが改名した「サンセットパーク」宛のリクエストカードに、アクリルで描いた絵を添えることをしました。
アクリル絵具で絵を描くことを続けることで、この絵具の性質を活かした描き方を自分のものにすることができました。古典絵画の描法を研究し、自分なりにそれを実践したものです。
私が最も参考にしたのは、敬愛する17世紀オランダの画家レンブラント(1606~1669)です。レンブラントの画集や、レンブラントの描法を研究した本を参考にして、レンブラントがどのように絵具を扱ったのか、自分なりに研究しました。
レンブラントの描法で最も特徴的なのは、使用する絵具の数がごく少数に限られることです。レンブラントに限らず、当時の画家は、自分で絵具を練る必要があり、今のように、多くの絵具は使っていません。
そうであっても、レンブラントが使う絵具の数は限られていました。
絵を描く支持体は、現代のカンヴァスのように真っ白ではありません。カンヴァスも自分や弟子が地塗りをし、その上に、下色をつけて使いました。
レンブラントより前のイタリアの画家カラヴァッジオ(1571~1610)は、暗い下色をつけ、その上に、明部をつけるようにして描いたと見られています。
それに倣って、リクエストカード用の絵を描くときも、葉書大の紙にジェッソで地塗りをし、その上に、バーントシェンナなどで下色をつけて描きました。
私が主に使った色は次の5色です。
- チタニウムホワイト(アクリル絵具はこのホワイトだけ。下の色を覆い隠す被覆力が強いホワイトです)
- イエローオーカー
- レッドオキサイド
- バーントシェンナ
- バーントアンバー
暗部はバーントシェンナやバーントアンバーを使い、水分を多くして、より透明に塗ります。明部は、水の量を少なくし、不透明に塗り重ねます。
少ない色数で土台を作り、その上に、透明性が強い絵具を水で溶いて塗り重ねます。これをフランス語ではグラッシ、英語ではグレーズといいます。
こんな風にして、自分なりにアクリル絵具の扱いには慣れました。そのあと、油絵具を使いたくなり、実際に使い始めました。
はじめは、アクリル絵具と同じように油絵具を使えないか試しました。しかし、アクリル絵具とは性質が大きく異なります。
油絵具は固まる性質を持つ油分を主成分もので、顔料と染料が練られています。着色性の強い染料には、それを弱めるための成分が含まれています。
食用に用いられる油もそうですが、乾燥することはありません。長時間をかけて固まるだけです。それは絵画用の油も同様です。
昔の画家は、私がアクリル絵具でやったようなグラッシを使ったりしていますが、それをどのように実現したのか、私には未だに謎です。
今も書いたように、油はいつまでたっても乾燥しないからです。油分で溶いた絵具は、支持体の表面で乾いてくれません。埃の多い部屋にそれを置いたら、表面に埃がついて固まってしまいます。
それやこれやで、油絵具の扱いにはなかなか慣れることができませんでした。
ただ、油絵具はいつまでも乾燥しないので、パレットにのせた絵具はチューブから絞った状態にあり、好きなだけ混色できる楽しさがあります。
絵具を筆ですくったときの感覚は、アクリル絵具では味わえません。カンヴァスやボードに絵具をのせていく感覚も同じです。その感覚を味わいためだけに、絵具と接する時間を持ちたくなります。
アクリル絵具で使った色を油絵具でも選んだため、その「呪縛」から逃れられないまま長い年月を過ごしました。
『麗子像』などで知られる岸田劉生(1891~1929)という画家がいます。劉生の作品を見ると古臭く感じます。理由のひとつは、バーントアンバーなど茶系の絵具を暗部に使っていることです。それが古臭さを感じさせます。
そのことには昔から気づいていながら、自分がその「呪縛」から逃れるのに長い年月がかかりました。
今、油絵具を描く私のパレットにバーントアンバーやローアンバーをのせることはしません。バーントシェンナは今後も使うことがあるかもしれません。
色の三原色だけを使って描くことに何度もトライしてきました。色の三原色(減法混色)とは次の三色です。
赤 | 青 | 黄 |
PC用プリンタで使うインクも、多くはこの三色と黒のインクで印刷します。油絵具の場合はそれに白を加えます。
なお、テレビ受像機やPCなどのモニタで色を表現するのは光の三原色(加法混合)といい、その場合の三色は「赤・青・緑」になります。
色の三原色を混色すると黒色になり、光の三原色の混色は白い光になるとされています。
この考え方から、私が使う油絵具の色は、7、8色にしています。
油絵具のホワイトには次のように種類があります。
- シルバーホワイト
- ジンクホワイト
- チタニウムホワイト
- パーマネントホワイト
- セラミックホワイト(作っているのはホルベインだけか?)

私はシルバーホワイト(鉛白)のみを長いこと使ってきましたが、その後、パーマネントホワイトとセラミックホワイトを試し、今はパーマネントホワイトに落ち着いています。
画材メーカーのホルベイン工業が、「ホルベイン サンクスセール2023」を開催中です。ホワイトの絵具が20%増量されたチューブに入った絵具も用意されています。
このセールスのために用意した商品がなくなり次第終了ということですので、この機会に、パーマネントホワイトを購入することを考えています。
私が主に人物を描きますが、肌の色の作り方にこれまで苦労してきました。それが、昨日、おととい、一気に解決できたように感じ、非常に嬉しくなり、本コーナーの更新を始めてしまった次第です。
自分の顔を描いた「自画像」ですので、ここでそれをお見せすることはできませんが、これまでで最も出来の良い肌色になってくれていると感じます。
また、描き方を会得したため、何度でもそれを再現することができます。ほかの人には全く関係のないことですが、私にとってはこれ以上の喜びはありません。
昨日は、音楽を聴きながら、描きかけの自分の絵を長い時間眺めて過ごしました。
油絵具で絵を描くことは、私にとり、何物にも代えがたい喜びです。
もうひとつ、私が思いついたレンブラントが晩年にどのように作品を描いたのかに対する私の考えは、そのうち、本コーナーで書くことにします。