シャッター速度の研究

私は、毎週水曜日の午後9時から、NHK BSプレミアムで放送されている英国のテレビドラマ『名探偵ポワロ』のシリーズを録画して見る習慣を持ちます。

この水曜日(9月30日)に放送されたのは、シリーズ63話目の「ハロウィーン・パーティー」1969)(英国で初回放送:2010年10月27日|日本で初回放送:2012年2月8日)です。

英国の推理作家、アガサ・クリスティ18901976)の作品を原作とするテレビドラマですから、必ず殺人事件が起きます。

今回は、ハロウィンの夜、地域の有力者の家に招かれた知り合いが、子供たちを連れて集まり、パーティを催します。

パーティに参加していたジョイスという少女が、「昔、殺人を見たことがある」といい出します。「まだ幼かったから、その時は殺人は思わなかったけれど、今になってそれが事件であったことがわかった」というのです。

パーティに参加していた大人や子供は、ジョイスが皆の注目を集めるため、ありもしないことをしゃべっていると相手にしません。

パーティが終わり、皆が家路につこうとしますが、ジョイスだけ姿がありません。ジョイスは、パーティのリンゴ喰い競争で使ったバケツに張った水に顔を浸けたまま、息絶えていたのでした。

私はこの原作は読んだことがないと思います。本作について書いたネットの事典ウィキペディアの記述を見ると、原作とドラマでは設定が多少変わっているように思います。

今回は作品の内容が主ではありません。映像表現に関心を持ちました。本コーナーの前々回では、動画撮影におけるシャッター速度について書きました。

そのシャッター速度を変化させることで表現された映像に関心を持ちました。

本作では、舞台となった地域で数年前に起きた事件が関係してきます。その、前に起きた事件を再現する場面などが、モーションブラーを利かせた映像で表されていました。

前々回に動画撮影におけるシャッター速度について書きました。

採用するフレームレートは、制作者の判断や、納品に求められるレートで変更されるでしょう。テレビで放送することを前提にする作品は、「29.97フレーム/秒(59.94フィールド/秒)」で製作されるでしょうか。

具体的には、”60インターレース(60i)”で撮影することで、テレビで放送するのに適った動画規格になるものと思われます。

このフレームレートで撮影する場合、特別の意図を持たない場合は、シャッター速度は、フレームレートの2倍にあたる、1/60秒が好ましくなります。

動画の撮影に特化したシネマカメラであれば、シャッターアングル(シャッター開角度)を変更できるようになっていると思います。この角度を通常は180度にしておくだけで、シャッター速度をフレームレートの2倍にするといったことは考えなくても、自然に同じ効果が得られます。

本来の動画撮影は、そうあるべきでしょう。

本格的なシネマカメラは持っていませんので、私が使うソニーのミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)のα7 IIを使い、シャッター速度を変えて、表現の違いを見ていきます。

ソニーのα7 IIにFE 24-240mm F3.5-6

はじめは、動画撮影の基本である、フレームレートの2倍のシャッター速度で撮影しました。

今回の撮影は、シャッター速度以外は同じ設定で撮影しています。また、撮って出しのままの動画で、編集で修正は加えていません。

  • ガンマ:Movieガンマ
  • フレームレート:60i(29.97フレーム/秒〔59.94フィールド/秒〕)
  • ISO感度:ISO200

F値は、シャッター速度を変えると変わりますので、その都度、適正露出になるようなF値にしています。シャッター速度を極端に落としたときは、可変式NDフィルターを使用しています。

下に埋め込んだ動画は、フレームレートの2倍のシャッター速度で撮影したものです。

シャッター速度の研究(1)1/60秒

カメラを振ってモーションブラーの見え方を確認しています。カクつくこともなく、自然な動きに見えます。

次は、シャッター速度を、フレームレートの4倍程度にあたる1/125秒で撮影したものです。同じ効果をシャッター開角度で実現しようとする場合は、開角度を90度にすることで得られる計算になります。

シャッター開角度を狭くすればするほど、動画を構成する静止画の画像のモーションブラーが少なくなります。それが行き過ぎると、前後の静止画のつながりが悪くなり、いわゆる「パラパラ」した動きに見えてしまいます。

シャッター速度の研究(2)1/125秒

シャッター速度を通常の2倍の4倍(この場合のシャッター開角度は86.4度)にしてみましたが、この動画を見る限り、それほど「パラパラ」感はありません。その効果を狙うのであれば、1/250秒かそれ以上の高速シャッターにすると良さそうです。

ここからは、シャッター速度を遅くした動画です。

今回話題にしているポワロの「ハロウィーン・パーティー」では、前に起きた殺人事件の場面などを、遅いシャッター速度を使ったような効果が用いられています。

おそらくはこの時期から、ポワロのシリーズの撮影も、それ以前のフィルムからデジタルのカメラに替わっているでしょう。デジタルのシネマカメラを使うことで、様々な効果を狙った表現ができるようになります。

まずは、フレームレートと同じ1/30秒で撮影してみました。

シャッター速度の研究(3)1/30秒

通常のフレームレートの2倍のシャッター速度で撮影した動画に比べ、若干、モーションブラーが増しているように感じます。しかし、敢えてその表現を狙うのであれば、シャッター速度はさらに遅くした方が良さそうです。

ということで、次は、シャッター速度をフレームレートよりも遅い1/15秒にしています。

フィルムのシネマカメラであれば、実現不可能な表現です。フレームレートと同じシャッター速度も、現実的には無理でしょう。シャッターを開放で撮るのと同じになり、コマ送りの最中にも露光してしまうことになりそうです。

等倍でもそうであるのに、フレームレートよりも遅いシャッター速度にしようというのですから、フィルムの時代には考えられなかった表現です。

シャッター速度の研究(4)1/15秒

モーションブラーの効果が大きくなり、夢で見る映像のようです。ポワロの「ハロウィーン・パーティー」でも、これに近い表現でした。

さらなる効果を狙い、次は、シャッター速度を1/10秒にしてみました。

シャッター速度の研究(5)1/10秒

ポワロの「ハロウィーン・パーティー」で使われた映像表現は、ほぼこんな感じであったと思います。人が腕を速く動かせば、腕が解けたように表現されます。

今回の実験でわかったことは、シャッター速度を変化させて表現に幅を持たせるのであれば、シャッター速度をフレームレートよりかなり遅くするのが有効でありそうなことです。

幻想的な場面を表現するときに利用できそうです。

テクニックのための表現ではなく、自分が描きたいものが前提としてあり、それがシャッター速度の変化で表現できるのなら、印象的な映像になるでしょう。

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