昨日、ネットの動画共有サイトYouTubeで興味深い動画を見つけ、本サイトで紹介しました。動画撮影時のシャッターアングルを取り上げた内容です。
今は、デジタルの様々なカメラを使って動画を撮る人が増えています。デジタルカメラの動画機能しか知らない人で、フィルムのシネマカメラの構造を知らない人は、「シャッターアングル」についての知識を持たない(?)かもしれません。
この「シャッターアングル」については本コーナーで何度か取り上げています。その際、私は「シャッターアングル」とはいわず、「シャッター開角度」と書きました。ですので、本コーナーでは、「シャッターアングル」の意味で、個人的には使い慣れた「シャッター開角度」という用語を用いて書きます。
昨年の11月頃だったかと思いますが、YouTubeでソニーのデジタルシネマカメラFX30をレビューする米国人の動画を取り上げ、そこでもシャッター開角度について書きました。
この米国人の映像制作者は、FX30の不満をいくつか挙げ、そのひとつとしてシャッター開角度を設定できないことを挙げていました。デジタルのシネマカメラでこの機能があるのは、プロ向けに限られているようです。
一部民生用であっても、パナソニックのミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)は、以前のモデルからシャッター開角度の調整ができることを知りました。
ここまで、シャッター開角度という用語を何度も使ってきましたが、それがどんなものであるかを少し書きます。
これは、フィルムのシネマカメラには必ずついていたものです。フィルムのシネマカメラは、毎秒24コマで撮影することがほとんどですが、その撮影には、開角度を持つ回転式のシャッターを利用します。
フィルムのスチルカメラは、撮影が終わったら、一枚分巻き上げ、次の写真を撮影します。
このことは、シネマカメラであっても原理は同じです。1コマの撮影が終わったら、次のコマにフィルムを移動しますが、移動している間はシャッターが閉じていなければなりません。
それを、円盤型の回転シャッターで実現しています。円の半分が開いた状態で、それが「開角」となります。シャッターの開角した部分が回転してくるときに、フィルムが露光します。
逆に、閉じたシャッターの部分が回転する間に、フィルムを1コマ送ります。
この動作が、毎秒24コマの撮影であれば、1秒間に24回行われます。
デジタルのシネマカメラには、回転式のシャッターはついていません。これは、プロの現場で使われるシネマカメラでも同じようです。
フィルムのシネマカメラで長年映画の撮影をしてきたカメラマンから、それでは運用が不便だという声があった(?)のでしょう。そのため、デジタルのシネマカメラにも、フィルムのシネマカメラと同じような効果が得られる、デジタルのシャッターアングルというものが搭載されているようです。
どんな仕組みなのか、私は認識していません。
ミラーレスで動画を撮る人が多くいます。その人たちが使うミラーレスには、一部を除いて、シャッター開角度の調整はできません。その代替えとして、スチルの撮影に使うシャッター速度を応用しています。
フィルムのシネマカメラのシャッター開角度が、通常は180度ということから、撮影するフレームレートの2倍の速さのシャッター速度が適正とされています。
毎秒24フレーム撮影する24fpsの場合は、2倍の1/48秒に近い1/50秒のシャッター速度が最もふさわしいということになります。
FX30にシャッターアングルを調整する機能が搭載されていないことに不満を持つ米国の映像制作者は、もしもそれがFX30にも搭載されていればどんなにも便利か、と話しています。
シャッター開角度を180度に設定しておくだけで、あとは、24fpsなどで撮影すれば、シャッター速度のことは忘れて撮影できるからです。
昨日、本サイトで紹介した動画の配信者は、シャッターアングルの構造を知った上で、それを利用した商業映画の例を紹介しています。
ひとつは、スティーヴン・スピルバーグ監督(1946=)の『プライベート・ライアン』(1998)という作品です。これは、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を描く戦争映画です。
私は戦争映画は基本的に見ることを好みませんので、この作品も見たことがありません。
過酷な現実を描いた作風ということで、撮影監督のヤヌス・カミンスキー(1959~)の提案(?)なのでしょう。シャッターアングルを通常の180度より狭い90度や45度で撮影したそうです。
すべてのシーンがこのシャッターアングルで撮影したかどうかは確認していません。
そのことを、今のミラーレスに置き換えたら、シャッター速度をどのくらいにして撮影しているかわかりますか?
180度の半分が90度で、45度はその半分です。
このことから、1/50秒のシャッター速度を1/100秒や、その2倍の1/200秒にして、24fps撮影すると同じ効果が得られます。
その効果がどんなものになるか想像できますか。
私が8ミリ映画を趣味にしましたが、8ミリのシネマカメラは、どrてにもシャッター開角度の変更ができるようになっていました。そして、その機能の説明には、シャッター開角度を狭くすると、1コマ1コマの画像がハッキリ写る、というようなことが書かれていました。
1コマがハッキリ写った方が鮮明な映像になると考える人がいるかもしれません。しかし、映像の場合は、被写体ブレであるモーションブラーがあることで、動きが滑らかに見えます。
ですから、1コマ単位の画像は、ハッキリ写りすぎないのが好まれます。ハッキリしすぎると、コマとコマの画像がうまくつながって見えなくなり、パラパラ漫画のようになってしまうからです。
その効果を『プライベート・ライアン』という戦争映画では敢えて採用し、観客に、戦争の悲惨さを与えることを狙ったようです。
それとは逆に、シャッターアングルを開いて撮影した商業映画が紹介されています。
『ブレードランナー』(1982)で知られるリドリー・スコット監督(1937~)の『グラディエーター』(2000)という歴史映画では、フィルムのシネマカメラでは構造的に実現不可能なシャッターアングルを全開した360度のシャッターアングルを使って撮影したそうです。この映画の撮影監督はジョン・マシソン(1958~)です。
ここまで書いたことから、シャッター開角度を開いて撮影する効果が想像できるでしょう。モーションブラーが過剰に起こる効果です。
今朝、私は庭で猫の写真を撮りました。その何枚かは、敢えてシャッター速度を遅くして撮影しました。その一枚が下の写真です。
この写真のシャッター速度は1/4秒です。
映画の1コマ1コマがこのような画像であれば、激しい動きをする人間の体が流れているように写ります。
昨年、シャッター開角度に関心を持っていたとき、上で書いたのと同じ効果を狙った動画を撮影し、本コーナーで紹介したことがあります。
そのときは、24fps(23.976fps)の撮影をするとき、シャッター速度を1/25秒にして炎の動きを撮影しました。つまりは、シャッターアングルを全開して撮影するのと同じ効果を狙ったことになります。
フィルムのシネマカメラでは不可能な撮影です。
個人がプライベートで撮影する動画では、そこまで凝った撮影をすることはないかもしれません。しかし、ときには、敢えてシャッター開角度を変更することで、思わぬ効果が生まれるかもしれません。