ネットの動画共有サイトのYouTubeで次の動画を見つけました。
本動画の配信者の大村氏は、YouTubeクリエイターの傍ら、YouTubeで配信するための動画制作を請け負う会社を経営されているようです。動画で話すことを聴くと、テレビ局へ動画を納品することもされているようです。
本動画のサムネールに赤い文字で「シャッタースピードの嘘!暴露します」とあり、下に白い文字で「人気YouTuberの嘘と闇 FPSの倍は嘘」とあるので、気になって見ました。
本動画を見て納得される人もいるかもしれませんが、私は戸惑いました。
動画の冒頭で、YouTuberの多くが、「シャッター速度をフレームレートの2倍」といっているのは間違いです、と断言しています。
大村氏も関る動画業界でこんなことをいう人はおらず、そもそも、シャッタースピードとフレームレートが比例すると考える人はいない、ということです。
動画について詳しくない人に補足しておきます。
フレームレートというのは、1秒間に撮影する静止画の数をいい、毎秒30枚であれば、フレームレートは30fpsになります。そして、このフレームレートで撮影する場合、シャッター速度は30の2倍程度になる60fpsや50fpsにする、という考え方があります。
大村氏はこの考えを真っ向から否定し、そんなことを動画業界でいう人はいない、と本動画で述べているわけです。
ミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)で動画の撮影ができるようになり、自撮り動画を配信するVloggerはミラーレスで動画を作るのが一般的になりました。
ただ、動画を撮るのにミラーレスを使うのは、本来の使い方とは違う面があります。ミラーレスはスチルを撮影するカメラです。そのカメラが動画も撮れ、それ以前のビデオカメラでは得られないような動画が撮れることから、スチル用のカメラが動画撮影に利用されている面があります。
映像表現の技術は、フィルムによって始まりました。写真を撮影するための35ミリフィルムが映像表現に転用され、映画という表現形態を生みました。
大村氏の動画にはコメントがついており、一番最初のコメントでは、「シャッターアングル」について説明することを促しています。
そのコメントの返答を見ますと、大村氏はシャッターアングルをどうやら知らないのかもしれないことが窺われます。
動画撮影におけるシャッターアングル(シャッター開角度)については、本コーナーで何度か書いています。これこそが、動画撮影における最も基本的な考え方になるからです。
フィルムのシネマカメラには、回転式の円盤シャッターがついています。映画の撮影では、毎秒24コマの撮影をし、その撮影のために、回転式のシャッターは毎秒24回転します。
回転式のシャッターの円盤は、180度前後切れた半円状になっています。円の切れた部分がフィルムの前を通過するとき、レンズから入った光がフィルムに感光する仕組みになっています。
フィルムは1コマずつ連続して撮影しなければなりません。また、1コマの撮影が済んだら、次のコマに移動しなければなりません。コマを入れ替えるときはシャッターが閉じていなければならず、回転式の円盤型シャッターの閉じた部分が回転して来たときにコマを1コマ送ります。
これを、映画の撮影では、毎秒24回繰り返します。
1秒間に24コマの静止画を撮影するのと同じですから、露光時間は1/24秒になります。しかし、円盤状の回転シャッターは半円が、コマを1コマ送るために閉じているのですから、フィルムの露光時間は半分になり、半分の時間で露光するため、露光時間は1/24秒の2倍の1/48秒にならざるを得ません。
シネマカメラの撮影の仕組みがわかれば、シャッター速度がコマ数の2倍になるのは、必然であることが理解できます。
この原理をミラーレスによる動画の撮影にも当てはめ、シャッター速度はフレームレートの2倍程度としているのです。
大村氏は、シャッター速度がフレームレートの2倍といい出したのは誰だといっていますが、ここまで書いたことがわかれば、それが動画撮影の基本であることがわかります。
大村氏は映画の撮影にも関ることがあるようですが、基本的には、テレビ局に作品を納品することをされているようで、テレビで放送される動画を中心に話されています。
大村氏は動画を見ている人に、テレビ放送のフレームレートはいくつでしょう? と質問しています。そして、多くのYouTuberは30fpsと答えるでしょうが、それは間違いです。正解は60といっています。
60とはいっても、60fpsはいっていませんね。そして、そのことについてはあまり詳しく話していませんが、60pではなく、60iと述べています。
日本のテレビ放送も4K(解像度)の放送が始まった、とマスメディアが大々的に取り上げました。しかし今も、ほぼすべてに近い番組は、”1080i”の規格で作られています。
”1080”という数字は、1フレームの有効垂直解像度です。水平は1980です。数字のあとにまた”i”がついています。上に書いた”60i”の”i”と同じ意味で、「インターレース(飛び越し走査)」の頭文字の”i”です。
テレビの放送は、通常、インターレースで放送されています。
1フレームをそのまま表示するのは「プログレッシブ・スキャン」といわれます。テレビ放送がインターレースを採用するのは、画像転送のデータ量を増やさず、それでいて、表示回数を2倍にすることで、映像をより滑らかに見せるために開発されたようです。
要するに、1枚の静止画を構成する走査を奇数と偶数の2回に分け、交互に転送する技術です。
インターレースにおいては、奇数と偶数それぞれを「フィールド」というらしいです。
そのことから、日本のテレビ放送は「29.97フレーム/秒(59.94フィールド/秒)」と規定されているようです。
それぞれの”9.97”や”9.94”という数字は、より正確に表されたもので、話をわかりやすくするため、30フレームと60フィールドとしておきましょう。
大村氏は本動画で、テレビ放送が30フレームというのは間違っていると断言していますが、間違っているのは大村氏ではありませんか?
どうやら、大村氏は、フレームとフィールドを混同されているようです。大村氏は60フレームとではなく、60フィールドというべきでした。
大村氏の動画を見たあと、私が使うソニーのα7 IIの動画撮影機能で動画を撮影してみました。
私はこれまで、シネマチックに見えるように、フレームレートは23.97fpsを使ってきました。それを今回は、59.94フィード/秒にしました。
α7 IIに搭載されているAVCHDというフォーマットを使うと、60iでの撮影ができます。
この設定で撮影した動画を下に埋め込みます。なお、撮影に使ったガンマはMovieです。このガンマの場合は、最低ISO感度をISO200から始められます。
低ISO感度はF値にも有利になります。NDフィルターを使わなくても、f/16程度で撮影できました。
撮影した動画は、撮ったままで、編集時に修正は一切加えていません。
私がビデオカメラで撮影するときは60iをよく利用しますが、ミレーレスの動画をこの設定で撮ったのは今回初めてです。シネマチックな表現を目指さないのであれば、有効な設定に思われます。
大村氏はテレビの仕事もするため、より人間の眼で見た表現を求めているそうです。60フィールドで撮影された動画は、動きが滑らかで、人間の眼で見た映像に近いです。
今後は私も、この設定で動画を撮るのを基本とさせてもらいましょう。大村氏には、いいきっかけをもらいました。
60枚の静止画で表される60プログレッシブ・スキャン(60p)であれば、60iよりさらに滑らかな映像になると考えるかもしれません。しかし、意外なことに、60pよりも60iの方が動きが滑らかに見える、というような記述がウィキペディアにあります。
NTSCなどでは、2:1インターレースのため、1つのフレームは、2つのフィールドからなっている。したがって求められるリフレッシュレートは表示したい映像のフレームレートの2倍となる。同じフレームレートで比較すれば、プログレッシブスキャンよりインターレースの方が、ヒトの視覚上は滑らかに見える。
日本のテレビ放送は、大村氏が断言されたような60(フレーム?)ではなく、30fpsであるのは間違いがありません。ウィキペディアにそう記述されています。
もしも大村氏がその記述が間違っていると考えられるのであれば、ご自分でその部分を「訂正」されてみてはいかがでしょうか。おそらくは、大村氏の「訂正」を間違いと考える人が、さらなる「訂正」をされると思いますが。
シャッター速度を大村氏は、ネットでいわれている2倍ではなく、等倍にすることを基本とされていると述べています。60(フレーム?)のときは、シャッター速度を1/60秒にする、というわけです。
しかし、テレビ局に納品する動画は60インターレース(60i)でしょうから、フレームレートで見れば30fpsで撮影するのと同じです。その撮影のシャッター速度を大村氏が1/60秒にするのであれば、大村氏が批判する、シャッター速度がフレームレートの2倍にあたることになります。
このことは、ネットでいわれていることの正しさを、大村氏の勘違いで証明したことにはなりませんか?
それとは別に、大村氏は、自分が望む表現を得るために、シャッター速度をいろいろ変えることをしているとも述べています。これは、表現のためであれば、必要なことです。それについても、本コーナーで、実例を挙げて書きました。
ただ、この場合も、ミラーレスを使って動画を撮る「不便」さから、シャッター速度で、結果的にはシャッター角度の調整に準ずることをしていますが、本来であれば、シャッター開角度を変更できる機能をシネマカメラであれば持っていなければならないところです。
通常はシャッター開角度を180度程度に設定しておけば、そのことは頭に置かずに、自然に、滑らかな映像が撮影できてしまうものです。
ともあれ、本ページに埋め込んだ動画の撮影に使った60iとシャッター速度1/60秒、Movieガンマが有効な設定であることを掴みました。これが私にとっては大きな収穫です。
その面では、大村氏に感謝します。
大村氏がご自分のチャンネルに上げている動画は、いろいろと考えさせてくれるものが多く、そのうちに、チャンネル登録をさせてもらうことになるでしょう。