Vloggerの最新動画を参考にシネマカメラのシャッター周りを考える

ネットの動画共有サイトのYouTuberでVloggerをされているドリキン氏が興味深い動画を上げたのに気がついたので、それについて自分なりの考えを語ることにします。

下に埋め込んだのがその動画です。前置きの部分を省き、肝心の話が始まるところから動画が再生されるように設定してあります。

「うまく説明できないけど伝えたい!RED KomodoのISOの考え方が常識破りだった!」第1986話

ドリキン氏は、カメラでの撮影時で露出を決定する三要素をあげています。ドリキン氏は動画とスチルが同じと考え、次の三要素について触れています。

私はフィルムの時代には一眼レフカメラで写真の撮影を楽しみました。その時代、ISO感度は使うフィルムのISO感度(当時は「ASA感度」といいました)に依存するため、特定の感度を持つフィルムを選んだ時点で固定され、シャッター速度とF値を調整して適正露出を得ました。

本日の豆知識
私は昔、8ミリ映画のカメラで撮影を楽しみました。私が使ったのは富士フイルムのフジカシングル8です。その撮影のためのフィルムは、日中屋外で撮影するときに使うデイライトタイプのR25のISO感度がISO25で、電灯光用のタングステンタイプのRT200はISO200でした。
8ミリ映画フィルム 左:富士フイルムのシングル8フィルム ”フジクロームR25”|右:コダックのスーパー8フィルム ”コダクローム40”

それがデジタルカメラでは、ISO感度がフィルムの時代には考えられないほど高感度になりました。しかも、カメラを利用する人がいつでも好きな感度を選べるようになったことで、適正露出を得る要素に加わりました。

ミラーレス一眼カメラが発展する形で、スチルのほかに動画の撮影機能を持つようになりました。しかし、スチルカメラの延長の動画機能は、本格的なシネマカメラとは大きく異なる部分があります。

ドリキン氏の本日の動画を見る限り、ドリキン氏はそのことに気がついていないように感じ、本ページの更新をしています。

ドリキン氏はVloggerとして精力的に動画の撮影と公開をしていますが、フィルムの時代にシネマカメラを使ったことがおそらくなく、そのことで、シネマカメラの基本的な構造を理解していない(?)のかもしれません。

これは、ドリキン氏に限った話ではありません。デジタルの時代になって動画を撮り始めた人は、多くの人がそのことを意識していないように感じないでもありません。

そのことについては本コーナーで何度も取り上げました。

フィルムを使うシネマカメラのシャッター構造とスチルのシャッター構造はまったく別の構造を持ちます。

スチルカメラのシャッターは、先幕シャッターと後幕シャッターという2枚のシャッター幕がついています。

カメラのシャッターボタンを押すと、先幕シャッターが全開します。そのあと、シャッター速度に応じた速度で後幕シャッターが開いて閉じる動作をします。

この場合、機械式の後幕シャッターの場合は、最も速くても、1/250秒止まりです。それ以上のシャッター速度を実現するため、後幕シャッターは窓のブラインドのようなスリット構造になっており、スリットの幅を調節することで、1/250秒以上の高速なシャッター速度と同じ効果を得る構造になっています。

その一方で、シネマカメラのシャッターは回転式です。

商業映画では通常、1秒間に24コマの撮影をします。フィルムは、特別でない限り、上から下へ縦方向に撮影しながら移動していきます。

スチル用としても使われる35ミリフィルムを縦方向に移動させる仕組みです。ですから、35ミリのシネマカメラといっても、1コマのサイズは、スチルの1コマを縦にして使うことになり、スチルの短辺が長辺になり、サイズは半分になります。

シネマであっても、1コマに撮影するのは、スチルの静止画と同じです。1コマ1コマのフィルムに、静止画を1枚ずつ撮影していきます。

それを24コマの場合は、1秒間に24枚撮影します。

その撮影に使われるシャッターは、1コマの撮影ごとに1回転します。この回転式シャッターは円盤状で、半円部分が切れた形になっています。

シネマフィルムに静止画を連続して定着するといっても、フィルムのスチルカメラと同じで、1枚ごとにフィルムを1コマ分送らなければなりません。

しかも、シネマカメラの場合でも、フィルムを1コマ送る間にフィルムが露光してしまっては困るので、シャッターを閉じる必要があります。

それを、半円状の円盤型の回転式シャッターで実現しているのです。

円盤が切れた部分が回転してきたときに、固定されたフィルムの1コマが露光します。それが終わったらフィルムを1コマ分送らなければなりません。

そのためにはシャッターに閉じてもらわなければならなくなります。それを実現するのが、閉じた部分の回転式シャッターです。

これを1コマごとに正確に繰り返してシネマカメラは、映写時に絵が動いて見えるフィルムの撮影ができるのです。

この仕組みがわかれば、スチルにおけるシャッター速度と同じものの速度がわかります。

毎秒24コマを撮影する場合は、各コマの撮影を1/24秒の半分の時間で撮影するのですから、シネマカメラにおけるシャッター速度は1/48秒になります。

ここまでの説明は本コーナーで何度となく書きました。

ドリキン氏が今夢中になって使っているのは、おそらくは本格的な動画撮影に使うためのカメラです。RedというメーカーのKomodoというカメラです。

6K RED Komodo インプレッション: ミニ シネマ カメラ!

ドリキン氏が今回の動画で話していることが本当なのかどうかは確かめていませんが、そのカメラには、スチルカメラと同じようなシャッターが搭載されているのでしょうか?

ドリキン氏は、スチルのときと同じように露出を設定しているといい、多くの場合はシャッター速度を1/60秒にしている、と話しています。

Red Komodoはプロ向けの動画専用機だと思いますが、そのカメラに、スチルカメラで使うシャッターシステムが搭載されているのでしょうか?

ドリキン氏が今回の動画で取り上げているのは、Redのカメラ独特(?)のISO感度の考え方です。それがどんなものなのか、動画を見る限り私にはわかりませんので、それはひとまず置いておきます。

ドリキン氏の動画のはじめの方に、一枚の図が表示されました。それを切り抜いて下に貼っておきます。

REDのシネマカメラにおける露出三要素画像

これは、Redのシネマカメラで露出を決める三要素を示すものです。なるほど、ドリキン氏が話すように、露出決定の三要素がスチルのそれと同じように思われるかもしれません。

しかし、よく見ると、”Shutter Speed”とされている部分がスチルカメラとは違うことがわかります。

三角形の右下隅近くにある数字は45、その辺の中間付近が180、頂点が、動画で使われた小さな画像を拡大したためぼやけていますが、360です。

それぞれの数字につく単位は、スチルカメラのシャッター速度の「秒」ではなく、この場合は角度を示す「度」です。

シネマカメラの回転式シャッターは、通常は半円が切れた形です。これを「シャッターアングル(シャッター開角度)」といい、半円はその開角度が180度です。

デジタル技術のシネマカメラですから、フィルムの時代のような回転式シャッターではなく、同じ効果を電気的に作りだしているのでしょう。

ともあれ、この開角度をスチルカメラのシャッター速度に当てはめてみましょう。

ドリキン氏は毎秒30フレームで撮影するということですので、通常のミラーレスであれば、シャッター速度は1/60秒程度を選ぶでしょう。

シャッター開角度を調節できるシネマカメラでは、同じことが、180度のシャッター開角度に設定しておくだけで、いつでも同じ条件で撮影できます。

この開角度を90度に狭めたらどうなるでしょう?

90度は180度の半分ですから、ミラーレスを使ってシャッター速度を1/60秒にして撮影していた人は、シャッター速度を2倍の1/125秒にしたのと同じことになります。

さらに狭めて45度のシャッター開角度を選んだ場合は、90度の半分になりますから、ミラーレスのシャッター速度であれば、1/125秒の2倍の1/250秒にしたのと同じことになります。

この開角度を意図的に変えることで、映像の表現に変化を持たせる効果があることは本コーナーで書きました。

通常は180度のシャッター開角度であるところ、それを90度にすると、シャッターが開いている時間が半分になります。

スチルカメラで速いシャッター速度を利用して撮影すると、速い動きを止めた撮影できます。それと同じことがシネマカメラでもできます。

しかし、撮影した静止画を連続して再生する構造を持つ映像の場合、1コマ1コマの静止画が完全に動きを静止した静止画であると、問題が生じます。

1コマに定着された像が停止して写っていると、つながりが悪くなり、カクカクした動きに見えてしまうことです。そのため、映像の撮影では、1コマに定着された静止画には被写体ブレが必要となり、適度な「モーションブラー」が重要視されます。

それを敢えて、シャッター開角度を狭くして、つまりスチルの高速シャッターで撮影したのと同じように撮影することで、カクカクする動きの特殊表現を狙う場合があるというわけです。

それとは逆に、180度よりもシャッター開角度を広げて撮影することが、フィルムのシネマカメラでは実現できませんが、デジタルのシネマカメラではできるようにできており、Redのシネマカメラは最大360度まで、つまり全開にして撮影できるようになっているのがわかります。

シャッター開角度を開いて撮影すれば、モーションブラーが大きくなり、想像ですが、とろけるような動きが表現できるでしょうか。それをどのように活かすかは、映像制作者の発想次第です。

ドリキン氏が今回の動画で提示しているRedのシネマカメラ特有の仕組み(?)なのかどうかわからない、ISO感度の考え方は、今回の動画だけでは私にもよくわかりません。

BlackMagic Design社のシネマカメラで使えるBlackMagic RAWの場合は、撮影したあとにISO感度を変えられると聞きます。RedのRAWで撮影した場合も、あとでISO感度が変えられる、ということだけではないか(?)という気がしないでもありません。


ドリキン氏の本動画のコメントに興味深いものがありました。もしかしたら、ビデオカメラを開発されるメーカーの部門の専門家か、元専門家(?)かもしれないと思ってそのコメントを読みました。

その人曰く、ビデオ業界では、そもそも、ISO感度という概念がないようです。いわれてみれば、私が使っている民生用のビデオカメラにも、ISO感度のことは説明書にも載っておらず、それを調節する項目もありません。

キヤノンのビデオカメラ iVIS-HF-M41
キヤノンのビデオカメラ iVIS-HF-M41

ビデオ業界では、撮像素子の感度は一定にしたうえで、感度の調節は、ビデオアンプのゲイン(プロセスアンプ)で変えるのだそうです。

これは、音の大きさをゲインで調節するのと同じこと(?)かもしれません。

テレビ放送用カメラは、レンズのF値をコントロールすることで適正な露出を得るそうです。

デジタルのカメラでISO感度といっているのは便宜上のことで、撮像素子の感度をコントロールするゲインの数値を、ISO感度の数値に置き換えているだけなの(?)だろう、と素人の私は理解しました。

これは、ミラーレスでスチル撮影するときに使うISO感度でも同じことだろうと思います。

ISO100とされるあたりが、増幅する前の撮像素子の「素」の感度で、それを超える感度は、増幅によって得るということになりましょうか。

この部分は、ドリキン氏のコメントに書かれていることを、私の解釈を加えて書きました。


あとで変えられるのであれば、撮影時はISO感度は特別意識せず、撮影フレームレートとシャッター開角度を設定しておけば、あとは、F値の設定だけですぐに動画の撮影ができるのでは、と想像します。

以上、今朝YouTubeに上がっていたVloggerのドリキン氏の動画を見て感じたことを文章にしてみました。

日本のメーカーも動画撮影の利便性を謳うカメラを次々に発売していますが、私には中途半端に思えてしまいます。そう思う一番の理由は、シャッター開角度を重視していないように見えることです。

この調整ができないカメラは、本格的なシネマカメラとはいえません。日本のメーカーには、基本設計の段階からシャッター開角度の考えを盛り込むことを要望しておきます。

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