一週間前にそれを知った時、私が昔に更新した本コーナーのページへのアクセス数が増えるかもしれないと考えました。
私が知った「それ」は、NHK BSプレミアムで毎週水曜日の午後6時10分から放送の「にんげんドキュメント(リストア版)」で、昔に放送され、多くの人の感動を誘った回が放送されることです。
私は昔からNHKで放送されるドキュメンタリー番組が好きです。「にんげんドキュメント」で2000年9月14日に放送された「さよならレザン 盲導犬とテノール歌手」が、綺麗に修復され、昨日(8日)放送されました。
私が少しは予想したように、その番組を取り上げた本コーナーへのアクセスがあったことが確認されました。
念のため、Googleで検索してみると、私のページが一ページ目の一番下に載っていました。自分のサイトが検索結果の一ページ目に載ることはまずないことです。

自分が書いた文章を読み返すと、前半は、その番組の最後に流れた曲をNHK FMのリクエスト番組「サンセットパーク」にリクエストしたことに費やされています。
番組の中身については、後半になってやっと登場するありさまです。番組が放送されるのを知った人や、番組を見た人が、内容を知りたいと思ってアクセスしてくれたのなら、肝心の内容が半分ほどしか書いておらず、申し訳ない気分です。
本番組がリストア版として放送されるのを知った一週間前、番組の録画を予約しました。番組は録画されていますが、まだ見ていません。
ましてや、それが放送される午後6時10分から、オンタイム(「放送されている時間」ぐらいの意味で使っています)で見ることは当初から考えませんでした。
私事ですが、私は毎日、午後7時前には眠る習慣です。
番組の放送が終わるのは午後6時53分です。あの番組を見たあと、ぐっすりと眠れるとは考えられず、オンタイムで見ることは控えました。
見れば、大泣きしてしまうことが容易に想像できたからです。その気持ちのまま、眠りに入れる自信は持てませんでした。
番組名にある「レザン」は盲導犬につけられた名前です。飼い主は、テノール歌手の天野亨氏です。番組の撮影当時は、36歳でした。
天野氏は2歳の時に失明され、ご両親が離婚されたため、父親に育てられたそうです。
天野氏は眼が見えないからといって誰かに頼るのではなく、仕事を持ち、独り立ちして生きていく決意をします。天野氏が選んだのはテノール歌手で、彼の手足となってくれたのが盲導犬のレザンなのでした。
どんな生き物にも寿命からは逃れられません。天野氏に連れ添った盲導犬も、レザンが二頭目だそうです。一頭目は、彼の膝の上で息を引き取ったそうです。
そのときも、どんなに哀しかったでしょう。
レザンと五年間行動を共にしたレザンを、天野氏は手放すことを決意します。レザンの脚が弱り、背骨も曲がるなどして、これ以上、一緒に全国を飛び回るのは、レザンにも負担になると考えたからです。
レザンを新しい飼い主に預ける日が日に日に近づいてきます。五年間の思い出が重なるレザンとの別れの時です。
そのことを知って番組を見ていると、堪らない気持ちになります。
ある時は、小学校に招かれ、体育館で天野氏の歌声を聴く小学生を前にして、いつものように朗らかに歌声を聴かせました。天野氏の傍には、レザンが寄り添っています。
天野氏がその日、最後に用意していた曲は、NHKで放送された「生きもの地球紀行」のテーマ曲の『BELIEVE』という曲でした。
いつものように朗らかに歌い終えるつもりだった天野氏の歌声が、途中で途切れてしまいます。感極まってしまったのです。それまで、十二年続けてきた歌手生活で初めての経験でした。
その様子を見ながら、涙を抑えることができませんでした。その場面を想像しただけで、涙が溢れそうになります。
天野氏の歌声を聴いていた大勢の小学生が、手拍子をして天野氏を励ましました。
番組の最後は、レザンとの別れです。
レザンのために揃えた、餌を入れる皿や、レザンの体をとかすブラシを、一つひとつ手に取って、紙袋に入れます。眼の見えない天野氏は、手触りで、その時々の思い出が蘇るのでしょう。
それらを入れた紙袋を提げ、新しい飼い主の家をレザンと訪問します。レザンを待っていてくれたのは、見るからに優しそうなご夫婦です。
天野氏は、新しい飼い主としばし快活に話をし、レザンの今後を託します。
いよいよ、レザンとの別れの瞬間を訪れました。天野氏はレザンをその家に残し、「そこにいなさい」と命令し、その家をあとにします。
いつもだったら天野氏の命令に忠実なレザンが、そのときだけはそれに従うことが難しくなります。玄関から去ろうとする天野氏のあとを必死に追ってしまうのです。
このあたりから、テレビの画面を見続けるのがつらくなります。
レザンと行動を共にするときにレザンと結ばれていたハーネスが、今はレザンから離れ、それを天野さんは肩にかけ、レザンをあとにして独り歩きます。
その場面に流れる音楽『黄昏のワルツ』を、私はNHK FMのリクエスト番組「サンセットパーク」にリクエストしたのでした。
目の見えない天野さんを見ていると、どうしても、亡き母が重なってしまう。母は1992年に世を去っていますが、私が中学生の頃に失明しています。
その翌年、八歳離れた姉が結婚しているのですが、娘の結婚相手の顔を見ようと、明るいところへ行き、必死になって娘の相手が写った写真を見る母の姿が今も思い出されます。
その頃にはほとんど視力が失われていて、娘の相手の姿を見ることができなかったようです。
こんな思い出深い番組が昨日の夕方に放送されました。録画された番組を見るつもりですが、それを見ることでいろいろなことが思い出され、心が塞がれることが予想できます。
見るのが半分怖いです。気分が良い日中に、懐かしく見させてもらいましょう。
それを見たら、また新たな気持ちが生まれるかもしれません。そのときは、本コーナーで新たに取り上げることにしましょう。