私は、本年2月にNHK BSプレミアムで放送が始まった「シャーロック・ホームズの冒険」を見るようになるまで、ホームズ物に縁がなかったことを本コーナーで書きました。
このように、これまでホームズ物に馴染んでこなかったため、英国のテレビドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」の原作となる短編小説がいくつあり、それがどのように発表され、単行本になったのかを知りませんでした。
テレビドラマを見るようになってから、それらの成り立ちを知りました。
アーサー・コナン・ドイル(1859~ 1930)によって生まれたホームズ物は、長編が、1887年の 『緋色の研究』に始まり、 『四つの署名』(1890)、『バスカヴィル家の犬』(1902)、『恐怖の谷』(1914)と4編があり、それ以外はすべて短編小説で、その数は56です。
私のように、ホームズ物に馴染んでいない人は、それがどのような間隔で単行本になったのかわからないかもしれません。
ホームズ物は、英国の大衆向けの雑誌『ストランド・マガジン』に掲載されたのち、短編小説を集めた短編集として単行本化されています。
本シリーズを原作とするのが、英国のテレビドラマシリーズ「シャーロック・ホームズの冒険」です。長編の『緋色の研究』と『バスカヴィル家の犬』を含め、短編の多くがドラマ化されています。
ドラマ化の順番は、作品が発表された順番ではありません。
このたび、私はAmazonの電子書籍版で『ホームズの生還 シャーロック・ホームズ』を読みました。この短編集は『シャーロック・ホームズの帰還』(1905)と同じものです。
私は今、該当する電子書籍であれば読み放題できるKindle Unlimitedを利用できる権利をもちます。それを利用し、該当する本短編集を読みました。
同時に、同じホームズの短編集『ホームズの回想 シャーロック・ホームズ』(『シャーロック・ホームズの思い出』〔1893〕としても知られる短編集です)も端末にダウンロードを済ませ、待機させています。
「生還」と「回想」の語のイメージから、私は「生還」が先で「回想」があとに書かれた作品だと勘違いし、『ホームズの生還』を先に読んでしまいました。
読んだあとに、『ホームズの回想』が『ホームズの帰還』よりも先に出版されたことを知りました。しかも、両短編集の出版には十年の間隔があります。
このあと、『ホームズの回想』を読みますが、読み終えたばかりの短編集の十年前に出版された短編を読むことになります。
最初のホームズ物短編集『シャーロック・ホームズの冒険』(1892)に続いて二番目の短編集『シャーロック・ホームズの思い出』が出版されますが、その短編集の巻末に収められているのが『最後の事件』(1893)です。
この短編集に収められた短編を執筆当時、ドイルはホームズ物に嫌気が射し、消滅させるつもりでいた、と『ホームズの生還』の巻末にある解説に詳しく書かれています。
その解説によれば、ドイルは1885年に結婚していますが、妻の健康がすぐれないため、妻がスイスに転地療養にドイルも同伴したそうです。
そんな事情も加わって、ホームズ物に見切りをつけるため、『最後の事件』では、ホームズが宿敵のモリアーティ教授とライヘンバッハの滝の上で格闘した末、ふたりが滝底へ転落した、ような表現をしています。
NHK BSプレミアムで今年の二月から放送してきた「シャーロック・ホームズの冒険」は、今週の土曜日(4日)が最終回です。最後に放送されるのは、第41話「ボール箱」(1893)です。
私は原作を読んだことがなく、ドラマは今回初めて見るため、どのような内容かわかりません。シリーズの最後を飾る作品にしては、タイトルが素っ気ないように感じられます。
本テレビシリーズを制作した制作者も、これが最後の作品になるとは考えていなかったのかもしれません。
シリーズ途中から、ホームズを演じたジェレミー・ブレット(1933~1995)が心身の状態を悪化させていたことは、本コーナーで書いたばかりです。その悪化が急激に進み、ドラマ化を急遽中断しなければならなくなった結果といえましょうか。
結果的に最終話となった『ボール箱』は、「いわくつき」の作品といえそうです。
本短編小説は、ホームズものとしては二番目の短編集『ホームズの思い出』に二番目の話として収録される予定でした。
ところが、話の内容が残虐であることを理由に、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録することが見送られています。
二番目の短編集『ホームズの思い出』に本作が収録されなかったのは、別の理由があったようです
本作では不倫が扱われています。発表された当時は、今よりもそのことに世間が寛容でなかったのでしょう。コナン・ドイル自身が風紀を乱すと考え、自身で短編集への収録を見送ったそうです。
ホームズ物の短編集は、他に『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』(1917)と『シャーロック・ホームズの事件簿』(1927)があります。
一度は見送られた『ボール箱』は、四番目の短編集『最後の挨拶』に収録されているそうです。
一度は短編集への収録が見送られるほど残虐な内容の作品を原作とする『ボール箱』が、テレビシリーズのラストを飾ることになります。どんな内容なのか、今度の土曜日を待つことにします。
最終話は、ブレットのホームズが復帰し、「最後の名探偵ぶり」を見せてくれるのでしょうか。
シリーズの最終話を見たあと、本コーナーで取り上げることがあるかもしれません。