食わず嫌いはよくないといわれます。そうはいわれても、誰にでも、そんなことがひとつやふたつはあるでしょう。
私の場合は、アーサー・コナン・ドイル(1859~1930)が書いたシャーロック・ホームズシリーズ(1887~1927)がそれにあたりました。
これまで、ドイルの原作は読んだことがありません。そしてまた、それを原作とするテレビドラマがありますが、これまで、それを見たこともないままでした。
私には、決まった番組を見る習慣があります。毎週土曜日の夕方にNHK BSプレミアムで放送で放送された米国のドラマ『刑事コロンボ』も、見ることが習慣になっていた番組です。
この『刑事コロンボ』の放送が終わってしまいました。
その番組が放送されていた時間枠に、今度は何が放送されるかと思っていたら、ドイルの短編集を原作とする『シャーロック・ホームズの冒険』の放送が始まりました。
私は少々落胆しました。しかし、これはいい機会かも、と考え直しました。自分の食わず嫌いを修正するのに、です。
放送時間は今のところ短く、午後5時5分だったり、6分だったり、7分だったりする時間に放送が始まり、午後6時前には終わってしまいます。時間が短いことも手伝って、私はそのシリーズの1回目を見ることにしました。
実際に見てみれば、面白くないことはありませんでした。2回目からは放送を楽しみに待つようになっていました。こんなわけで、私の『シャーロック・ホームズ』の食わず嫌いがすっかり治りました。
改めて、ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』の成り立ちを、ネットの事典ウィキペディアで簡単に確認しました。
これは、ドイルの短編集で、彼自身は、6編書いて、終わりにするつもりだったそうです。ところが、よくある話ですが、雑誌に連載された作品は好評だったため、編集部から続きを書くように説得され、さらに6編の短編を執筆することになったようです。
この土曜日(18日)に放送されたのは「美しき自転車乗り」の題でした。この原作がどれにあたるのか確認しました。私が考える限りでは、”The Adventure of the Copper Beeches”ではないかと思います。邦題は『ぶな屋敷』(1982)です。
ウィキペディアの記述で確認すると、ドイルがホームズ物を打ち切るつもりでいたところ、母が本作の話を思いつき、そのアイディアを得たことで、ホームズ物をその後も書き続けられることになった、とあります。
ということは、本作が、ホームズ物を延命させた、結構貴重な作品となりそうです。ホームズを食わず嫌いしていた私が本作を取り上げるのも、なにか運命めいている気がしないでもありません(?)。
ウィキペディアで本作のあらすじを読むと、この土曜日に見たドラマとは内容が大きく異なります。
原作では、バイオレット・ハンターという若い女性が、ホームズに、住み込みの家庭教師の話を受けるべきかどうか相談に来たことになっています。
ドラマでは、女性の名前がバイオレット・スミスでした。ドラマでも、バイオレットがホームズに相談に来ますが、バイオレットはすでに、住み込みで働いていました。
しかも、彼女は音楽の教師でした。
ホームズは、バイオレットの手を一目見るなり、指が平たいことに気がつきます。そして、そのような指を持つのであれば、そうなるであろう仕事を連想します。
彼女は上品に見えるため、タイピストではないでしょう? とバイオレットにいい、ピアノを弾いていることをいいあてます。
ここまでのくだりを見ただけで、原作とは似ても似つかないですね。
バイオレットの父はオーケストラの指揮者をしていたものの、早くに亡くなりました。その後は、母とふたり暮らしをし、バイオレットがピアノを教える仕事をして、母娘の暮らしを支えていたのでした。
4カ月前のことです。新聞に、バイオレット母娘の消息を求める広告が載りました。バイオレットには唯一の身内である叔父がいましたが、15年前にアフリカへ渡ったきりで、その伯父からは、年に一度、クリスマスにカードが届くだけでした。
その伯父とアフリカで知り合った人がいて、バイオレット母娘の消息を知りたい、と知り合いが弁護士に頼んで新聞に公告を載せたのです。
広告を載せた弁護士をバイオレットが尋ねると、そこには弁護士に広告を依頼した男がふたりいました。ふたりは、南アフリカでバイオレットの伯父と知り合いになったという話です。
それが縁となり、バイオレットは、ふたりの男のひとりが住む家で、男の10歳になる娘に、ピアノを教えることになります。
男の家は、ロンドンから離れた田舎にあり、駅からも10キロ程度離れています。
バイオレットは、年100ポンドの報酬で、その仕事を受けることになります。土曜日には、母がひとりで待つロンドンへ戻らせてもらう約束で、男の家に住み込みをして、男の娘にピアノを教えます。
バイオレットは、土曜日になると、男の家から駅まで10キロほど自転車を走らせます。農道はほとんど誰も通りません。そして、月曜日の朝、バイオレットは同じ道を自転車で走って、男の家に戻るのです。
バイオレットが、ほとんど誰も通らない農道を自転車で走ると、必ず、黒ずくめで眼鏡をかけ、髭を生やした男が、自転車に乗ってあとをつけて来る、とホームズに話し、それが不気味でしようがない、と相談します。
後ろから自転車で来る男は、別に危害を加える様子はありません。バイオレットが気になって自転車を止めると、後ろの男も、少し離れたところで止まります。
そして、バイオレットがペダルを漕ぎ出すと、後ろの男もペダルを漕いで、つけてくるという話です。
バイオレットの話が本当かどうか確かめるため、ホームズの助手をするワトソンが、その様子を探偵しに行きます。
長々と書いてしましました。このドラマの原作であろう『ぶな屋敷』とは、設定が大きく変わっていることがわかってもらえたでしょう。
話が違っていて当然です。ドラマの原作は『ぶな屋敷』ではなく、その後に書かれた『孤独な自転車乗り』(1904)を原作としているからです。そのことを、ここまで書いてから気がつきました。
これだから、素人推理はあてになりませんね。
私は、ドラマの『シャーロック・ホームズの冒険』が、原作通り、12回の放送で終わってしまうのかどうかも知りません。
と書きましたが、こちらもすぐに終わってしまう心配がないことがわかりました。短編だけで56作品あり、長編が4作品ありますから、『シャーロック・ホームズの冒険』のタイトルで続けるかどうかはわかりませんが、長く見続けることができそうです。
ともあれ、すっかりホームズの食わず嫌いが治ってしまいましたので、今後は、毎週の放送を楽しみに待つことにします。
そのうちに、食わず嫌いではなく、今度は「食傷気味」になってしまったりして?
テレビドラマのホームズが面白く感じたので、Amazonの電子書籍版で原作を読もうと、早速、Kindle Unlimitedで読める『シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫) Kindle版』をKindleにダウンロードしました。
前々回の本コーナーで書いたように、現在、そのサービスを無料で利用できる権利を有しているのです。
それはいいのですが、読みたい本を次々にダウンロードしたものの、それらを読み切ることがとてもできそうになく、期限が切れた先のことを案じているところです。
それをホームズに相談したら、風変わりなホームズですから、無慈悲なことをいわれてしまいそうですけれど。