私には、あることに関心が向かうと、しばらくはそればかりやる傾向があります。今私の関心が向いているのは、動画撮影におけるシャッター速度です。
きっかけは、ネットのYouTubeで次の動画を見たことです。
本動画を配信した大村氏は、動画の制作を仕事にされている人のようです。その大村氏が、動画撮影におけるシャッター速度がフレームレートの2倍とネットでいっているのは嘘だと動画で述べています。
私はその動画を見て、大いに戸惑い、本コーナーで取り上げました。
映像の撮影は、フィルムを使って始まりました。フィルムのシネマカメラには回転する円盤状のシャッターがついています。それが回転しながら、フィルム面に光を送る構造になっています。
シャッターの円盤は半分が切れています。これがシャッターアングル(シャッター開角度)で、360度の半分ですから、シャッター開角度は180度です。
映画は毎秒24コマ撮影する構造で、半分は露光しないのですから、露光時間は1/24秒の半分の時間に、2倍の1/48秒でフィルムに露光します。
この考え方が、デジタルのミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)で動画を撮る時にも適用され、フレームレートの2倍程度が適当と考えられるようになりました。
動画専用のシネマカメラと違い、ミラーレスはシャッター開角度の調節ができないものがほとんどです。そのため、便宜的に、スチルを撮るためのシャッターの速度を調節して撮影しています。
ここまで書いたことが理解できれば、ミラーレスで動画を撮る時に、シャッター速度をフレームレートの2倍にすることは、嘘ではなく、伝統的な考えに基づいたものであることがわかるでしょう。
本格的なシネマカメラのシャッター開角度と同じように、スチルカメラのシャッター速度を変えることで、様々な効果を生むことができます。
前々回の本コーナーでは、私が使うソニーのミラーレ、のα7 IIを使い、フィルムのシネマカメラでは実現不可能な、超低速のシャッター速度で撮影し、どんな映像が撮れるかを検証しました。

今回はそれとは逆に、高速のシャッターで撮影した時、どんな映像になるか確認しました。
基本となる撮影設定は次のとおりです。
- ガンマ:Movieガンマ
- フレームレート:60i(29.97フレーム/秒〔59.94フィールド/秒〕)
60i(60インターレース)で撮影すると、フレームレートでは30(29.97)fpsと同じになり、シャッター速度はその2倍の1/60秒が通常の速度になります。
今回は、それ以上の高速でシャッターを切ろうというわけです。前回の検証では、1/125秒で撮影した動画を紹介していますので、その約2倍の1/250秒から始めます。
スチルの撮影では、1/250秒は、特別高速には感じないかもしれません。しかし、動画ではこの時点でもかなりの高速です。シャッター開角度に置き換えると、通常の180度の半分の半分ですから、360度あるうちの45度しかシャッターが開いていません。
シャッター開角度を変更できるプロ用のシネマカメラで撮影する場合は、特別なことを狙わない限り、これ以上の高速で撮影することはないのではないでしょうか。
高速シャッターの検証ですから、次はその倍の1/500秒です。シャッター開角度に当てはめると、22.5度です。
さらに続けます。今度は1/1000秒です。シャッター開角度では11.25度と、極端に狭まってしまいます。360度の中の11.25度ですから、248.75度はシャッターが閉じられています。
埋め込んだ動画を見ると、この高速でも使えそうに感じるかもしれません。しかし、動画としてはあり得ない速度です。この設定で撮影した動画を続けてみると、目が疲れるかもしれません。
被写体が静止している場合は、この超高速でも、それほどのパラパラ感にはならないかもしれません。逆に、動きの激しい被写体は、不自然さが増すだろうと想像します。
次はそのまた倍の1/2000秒です。シャッター開角度に当てはめると5.625度になってしまいます。
いかがでしょう。ここまでシャッター開角度を狭めて狙う表現はあるでしょうか。私には思いつきません。ぎくしゃくした効果を狙うといっても、ここまでシャッター開角度を狭めるのは現実的ではないでしょう。
最後は1/4000秒で撮影しました。シャッター開角度にすれば、たったの2.8125度しかシャッターが開いていないことになります。円盤シャッターの極々狭い隙間から射し込んだ光が、センサーに届くイメージです。
前回の低速に続いて、今回は高速のシャッター速度で動画を撮影し、写り具合を確認しました。
個人的には、高速のシャッター速度は、なるべく使いたくないという感想になります。敢えてこれを使う理由が私にはありません。
高速シャッターでぎくしゃくした映像にしてしまったら、滑らかな映像が得られる60iで撮影する意味がなくなります。
それとは逆に、低速シャッターは、モーションブラーを利かした表現を望むときに使えそうに感じます。個人的には当面使う予定はありませんが、低速シャッターで幻想的な場面を撮影してみても面白いでしょう。
晴れた屋外で動画を撮影するときは、絞り切れないほどの光がレンズに入ります。それで、減光するため、シャッター速度を超高速にして撮影することがあるかもしれません。
その場合は、高速シャッターを、表現のために使うというよりも、仕方なくそうするということになりましょう。高速シャッターは、表現したい狙いがあるときに使うもので、仕方なく使うというのは避けたいです。
レンズからの光を減光するには、NDフィルターを使うのが現実的です。
メーカーに望んでいることがあります。それは、民生用のシネマカメラを作って欲しいことです。その際は、ぜひとも、シャッター開角度を調節できる機能を搭載してください。
それが搭載されたカメラであれば、開角度を180度に設定しておくだけで、あとはシャッター速度のことを頭から綺麗に忘れ、動きの滑らかな映像を好きなだけ撮影できます。
そして、特別の場合だけ、シャッター開角度を変更し、自分が狙う表現効果を得ることができます。
設計的にも、特別難しい構造ではないと思うのですが、いかがでしょう?
私が昔楽しんだ8ミリ映画用カメラは、入門機に近いようなカメラであっても、シャッター開角度の調節ができました。

民生用のミラーレスを設計するメーカーの技術屋さんは、シャッター開角度の概念を持たないのでしょうか? シネマカメラに搭載されるべき基本中の基本という機能だ、と私は考えるのですけれど。