ネットの動画共有サイトのYouTubeなどを使い、自撮り動画を配信をするVlogerでもない限り、自分がしゃべった声を録音し、自分で聴く人は多くないでしょう。
私はYouTubeに自分のチャンネルを持っていますが、今は休止状態にあります。
また、休止していなくても、私は自撮り動画は撮りません。ただ、私が過去にYouTubeに上げた動画には、何かについて説明するための語りを自分の声で入れました。
それとは別に、自分のサイトで、独り語りした音声ファイルを継続して上げた期間もあり、自分の声を録音し、自分で聴く機会が、他の人より多いといえましょう。
そんなこともあり、映像と同じように、音声にも昔から興味を持っています。
今はデジタル技術の進歩により、音声の録音技術が進化しました。おそらく、その最先端技術が、デュアルADコンバータ―を使う32bit floatであろうと思います。
この技術の凄さは、自分で使ってみないとなかなか理解できないません。
私はこの技術を昨春に知り、実際に自分でもそれを使い、その凄さには驚かされるばかりです。
今年の7月には、この技術を搭載したレコーダーにマイクがついた、ZOOMの“M3 MicTrak”を手に入れ、使い始めました。

ZOOMのMシリーズは性格の異なる3機種が同時に発売され、M3は、動画を撮るカメラに取り付けて使うのが便利なような造りになっています。熱心に動画を撮る人であれば、M3を使うことで、音をより有効に活用できるでしょう。
私は動画は気の向いたときに撮る程度で、M3は宝の持ち腐れになりかねません。
私がM3を購入しようと思ったのは、動画のためではなく、自然の音を録るフィールドレコーダーとして有効に使えるのではないか、と考えたからです。
とはいえ、日常的に自然豊かなところへ出かけない限り、なかなかその用途にも使う機会がありません。そこで、M3を使って自分の声を録ったら、どんな風に録れるか、確かめてみました。
M3を固定し、マイクの先端から50センチ程度離れた位置で、芥川龍之介(1892~1927)の小説『河童』(1927)の冒頭部分を音訳してみました。
M3にはM/S方式のマイクがついているため、録音時にモノラルのほか、ステレオの幅を90度と120度から選べます。
また、RAWファイルに記録された音声ファイルは、専用ソフトを使うことで、録音済みの音声ファイルを、モノラルから最大180度までステレオの幅を変更することができます。
音訳する声を録音するため、モノラルで録音しています。
録音した音声ファイルは、iZotopeのaudio editorのRX 10 Standardを使い、ゲインと聴きやすい音にするための機能を適用しています。
32bit floatの最大の特徴は、録音時に入力レベルの調整が一切必要ないことです。録音した音声ファイルの出力レベルは、いかようにも変更できます。
自分が音訳した音声ファイルに私は、RX 10のLoudness Controlにプリセットされている”Audiobook Delivery”を適用するようにしています。
加工が済んだ音声ファイルを下に埋め込んでおきます。
どんなものでも同じですが、比較するものがあって初めて、それが良いのか、他にもっと良いものがあるのかなどがわかります。
この音声だけを聴いていると、文句が出ないように感じます。
比較するため、ZOOMの超小型のフィールドレコーダーのF2と付属のラベリアマイク(ピンマイク)で、同じ文章を音訳し、録音後に同じ処理をしたものを下に埋め込みます。

この音声ファイルを聴くと、M3で録った音が、「ライトな音」に聴こえます。逆にいえば、F2とラベリアマイクで撮った音の方が、重低音が増し、他人の好みは違うでしょうが、私には好ましく感じます。
聴きやすさでいえば、M3のほうがそうかもしれません。
M3はレコーダーとマイクがセットになっており、別のマイクを接続して使うことができません。その点、F2は、マイクジャックに接続するだけで、どんなマイクでも録音ができます。
私の手元には、10年以上前に買ったベリンガーの“ULTRAVOICE XM8500”というマイクがあります。これは外部電源を使用しないダイナミックマイクですので、F2で使うことができます。
昨年、F2に興味を持つことで出会ったYouTuberに桜風涼(さくらかぜ・すずし)氏(1965~)がいます。桜風氏は個人で映像制作会社を経営している現役のプロです。
桜風氏のYouTubeチャンネルに上がっている動画を見て、音声関係の知識をそれなりに得ました。マイクの正しい使い方も、桜風氏に教わったようなものです。
感度の高いコンデンサーマイクは、50センチから1メートルぐらいが「音のピント」が合う範囲であることを教わりました。一方、コンデンサーマイクの感度は低く作られているため、口をマイクに5センチぐらいまで近づけて話すとピントが合うということです。
歌手がステージで使うマイクはダイナミックマイクです。このマイクの感度の低さが、ステージで使うのには好都合というわけです。
もしも感度が高いコンデンサーマイクをステージの歌手が使ったら、バックで演奏する楽器の音まで拾い、肝心の歌手の声が楽器の音に埋もれてしまいかねません。
そんなダイナミックマイクに口を近づけて音訳し、同じように加工を済ませたのが下に埋め込んだ音声ファイルです。
結論をいえば、このマイクで録った音が、私は最も好ましく感じられました。音質はF2とラベリアマイクで録った音に近いです。それよりも、本音声ファイルは、音の厚みがあるように感じます。
桜風凉氏が書かれた本に『YouTuberのための完全録音マニュアル: YouTuber、ビデオグラファー必読。 (ナベックス文庫)』があります。
その電子書籍版をKindle Unlimitedで読みました。以前にも同じサービスで読み、このサービスを3カ月追加料金なしで利用できるため、再度読んでいます。
この本で、桜風氏は、ナレーションにお勧めのマイクを紹介しています。最もお勧めはSHUREの”BETA 58A”で、その次が同じSHURE の”SM63″です。
BETA 58Aは、ピントの合う範囲が狭い超指向性マイクのため、少し向きが変わっただけで、音質が低下するなど、使いこなすのは難しいマイクです。
その一方で、マイクに口を近づければ男性の低音を利かせた音が録れ、離せば高音が増すなど、いろいろな音の表現が一本のマイクででき、桜風氏は「音の魔術師」としています。
SM63はインタビューにも使われるように、指向性がBETA 58Aに比べて広いため、こちらの方が、誰にでも使いやすいマイクだそうです。音質はBETA 58Aよりも軽く、聴きやすいのはこちらです。
その二本について書いたあと、「低価格で高音質なベリンガー者のマイクもいいぞ」と、私が今回使ったベリンガーの”ULTRAVOICE XM8500”を勧めています。
私がこのマイクを手に入れたのは10年以上前ですから、桜風氏のお勧めに従って購入したわけではありません。たしか、3000円もしなかったと記憶していますが、安さにつられて購入したようなものです。
ともあれ、音のプロである桜風氏にも太鼓判を押されたので、自信を持って使うことができます。
ゆくゆく、”SHURE BETA 58A”も使ってみて、その性能の高さを自分の耳で確認してみたいと思います。
こんな風に、3種類のマイクで試し、それぞれの特徴を自分なりに把握することができました。あとはこれを基に、適材適所で使い分けが出来たらと考えています。
もっとも手軽なのはF2とラベリアマイクで、簡単にある程度厚みのある声を得ることができます。
F2とベリンガーのULTRAVOICE XM8500は、ナレーションなどを録音する必要があるときに使うことにしましょうか。
私はカメラを使って誰かに取材するようなことは今後もなさそうですが、もしもそんな機会があれば、M3を使って声を録音するのがいいでしょう。
音も凝り出すと、奥が広く、興味が尽きません。