昨春、画期的な技術を持つフィールドレコーダーを手に入れ、機会あるごとに使い、そのたびに本コーナーで取り上げています。
私が昨春手に入れたのは、、ZOOMの”F2”というレコーダーです。
このレコーダーの何が画期的かといえば、32bit floartで録音できることです。
正直いって、使っている私自身の理解が未だに追いつかない技術です。ただ、この技術の恩恵は、実際に使うたびに実感させられます。
この技術について、ネットの動画共有サイトのYouTubeで解説する動画があります。その多くで強調されているのが、どんなに大きな音でも音割れが起きないことです。
私が32bit floatで最も恩恵を受けているのは、大きな音ではなく、小さな音の録音です。
私はF2に付属のラベリアマイク(ピンマイク)を使って自分が話す声を録音したりしていますが、そのときの私の声は、誰かと話すときよりも小さな声です。
通常のレコーダーで小さな声を録音すると、録音された声も小さくなります。ですから、audio editorで編集するときにゲインを上げて声を大きくしなければなりません。
しかし、そのような音声処理をすると、小さな声と一緒に録れている周囲の雑音のゲインも一緒に上がるなどして、音質が悪くなるといわれています。
ZOOMの32bit float技術には、デュアルADコンバータ回路が搭載されており、大きな音の領域のADコンバータと小さな音の領域のADコンバータが自動で働く機能となっています。
私がそれを「物流システム」にたとえて説明してみます。
そのシステムは、100階建てのビルのようなものだと想像してください。ビルの1階から100階までは、記録できる広いダイナミックレンジを表しています。最も小さな音が1階で、100階に最大の音を収納している、といったイメージです。
最大の音声は0dBで、それ以上大きな音は音割れしてしまいます。この0dBを地上の高さと考えれば、それ以外の音の大きさは地上より下になるからです。
「物流システム」に、商品のオーダーが届きます。すると、機械が膨大な商品の中から自動で目的の商品を捜し出すように、2台のADコンバータが、自動で働く、というわけです。
商品を捜す機械が1台しかなければ、1階から100階までをカバーすることになり、移動だけでも時間がかかります。それを低層用と高層用の2台にしたのがデュアルADコンバータなのであろう、と私は理解しました。
32bit floatで録音するのであれば、録音時に録音レベルを設定する必要がありません。いきなり録音を始め、録音を終えたWAVファイルには、非常に広いダイナミックレンジで音が記録されています。
あとは、「物流システム」でたとえたように、自分の希望する音をその中から選び、必要な音に聴こえるよう、ゲインを調節するだけです。
これを使うと、囁くように喋った声も、聴き取りやすい大きさの声に編集することができるのです。このように、小さな声でしゃべっても、録音された声をいくらでも大きくできるこの技術は、私にとっては夢のような技術なのです。
小さく録れた音をゲインを上げて大きくするのでは、通常の24bitでゲインを上げるのと同じで、周辺の音も一緒に大きくなってしまうのでは? と疑問を持たれるでしょう。
それは確かにそうです。声が小さければ、ゲインを上げたときに、周辺に雑音があれば、雑音も一緒に大きくなります。
32bit floatが24bitなどと違うのは、ゲインを上げても、ノイズが少ないことです。それをもたらしてくれるのが、ローゲイン側で働くADコンバータなのであろうと考えます。
逆に、非常に大きな音を録音した場合は、音割れすることが理論上はありません。
今になってみると、私が以前、本コーナーで書いたことをここで訂正しなければならないかもしれません。
私は以前、F2にaudio technicaの”AT9912”という非常に小型のマイクを付け、口元から近いところで、朗読もどきする声を収録し、録音した音声データを紹介したことがあります。
その時の録音では、マイクを口に近づけるほど、私好みの低音の声を録れるということで、そのように録音していますが、息がマイクにぶつかり、吹かれ音によって、ポップノイズ(バーストノイズ)が発生しています。
それをもって、大きな音でも音割れしないといわれる32bit floatですが、吹かれや風切り音などには弱く、これが唯一の欠点かもしれない、というように書きました。
しかし、メーカーの説明書を読むと、大きな音でクリップしているように見える音の波形(波形の頂点が失われ、真っ平らになったような形)であっても、その部分のゲインを下げれば、クリップしていない波形になる、と書かれています。
マイクに私の息がかかり、クリップしたように見える部分も、その部分だけゲインを下げれば、クリップしていないことが確認できるかもしれません。
ここまでは、ZOOMの画期的な技術であるデュアルADコンバータ回路が搭載された32bit floatを持つ同社のフィールドレコーダー、F2について書きました。
実は、これが本更新の前置きになります。
私は今週の木曜日(13日)、ZOOMの同じ技術を持つ”M3 MicTrak”をようやく手に入れることができました。本製品も、一般的ではない(?)ため、関心がある人以外は知らない人が多いかもしれません。
昨年の12月、ZOOMからM2 MicTrakとM3 MicTrak、M4 MicTrakが当時に発売され、関心を持つ人からは大いに注目されました。
YouTubeのご自分のチャンネルでカメラやマイクについての動画などを多数配信されている音の専門家の桜風涼(はるかぜ・すずし)氏(1965~)は、ZOOMにも技術的なアドバイスができるような立場にある(?)ようで、発売前にメーカーからM2、M3、M4が提供され、それぞれを紹介する動画を配信しました。
私はその中でM3に興味を持ち、発売されたらすぐに購入するつもりでした。
しかし、発売されても、新コロ騒動の影響もあって、部品が揃わない(?)などの理由で、生産が追い付かず、入手が難しい状態が続きました。
それはまだ改善されていませんが、手に入れられそうだということで、購入を決めました。私の気持ちを大きく動かしたのは、通常は24,000円ほどの店舗が多い中、今なら、21,713円で手に入れられる店舗のあることがわかったことです。
ただ、購入の手続きは済ませたものの、手に届くのは1カ月から2カ月先になるらしいということでした。今月はじめに手続きをしましたが、手元に届くのは今月24日から来月20日ぐらいという見込みでした。
それが、予定よりずいぶん早まり、この木曜日に手に入れることができたというわけです。
このM3は、音を拾うマイクと、それをデュアルADコンバータ回路が搭載された32bit float記録するレコーダーがセットになっています。
マイクはM/S方式といわれるタイプで、ショットガンマイク型で、正面の音を重点的に拾うMidマイクのほかに、両サイドにはSideマイクがあり、モノラルから120度までのステレオまで、3段階に変更して録音することができます。
さらには、ZOOMのM3には、”M3 Edit & Play”という専用ソフトがあり、それをPCにインストールすることで、録音した音声ファイルのステレオ幅を、最大150度まで広げたり、120度、90度、60度、30度に狭めることも、モノラルにすることもできます。
デジタルカメラでは、JPEG画像とRAW画像の両方を記録することができるものがありますが、M3では、それと同じように、録音時の設定で録音した音声ファイルのほかに、音声のRAWファイルである「M/S RAWファイル」が記録され、このRAWファイルを専用のソフトを介すことで、音質を低下させることなく、ゲインやステレオ幅の調節が好きなだけできるのです。
M3がM2やM4と違うのは、動画を撮るカメラにつけて使える構造になっていることです。
一般の個人も動画を撮影して楽しむ環境が出来上がっており、メーカーとしても、そうしたユーザーに使ってもらうのを想定しているのでしょう。
私も動画の撮影はしますが、これといった作品を作るわけではなく、気が向けば撮るといった程度です。私が使うソニーのミラーレス一眼カメラのα7 IIにM3をつけて使ってもいいでしょうが、目下のところ、具体的な利用イメージが浮かびません。
というわけで、当面は、庭から聴こえてくる野鳥の鳴き声や、雷鳴のようなものが轟けば、それを迫力ある音で録音してみたい、といったぐらいの気持ちです。雨の音を録るのも面白い(?)かもしれません。
面白そうということでは、どこかの工事現場へ行き、作業の大きな音をM3で録音したら迫力のある音が録れそうな気がします。
そういえば、工事で使われる杭打ち機が発するような音を活かした、アート・オブ・ノイズの音楽がありました。
どんな機材でも同じです。それを使って何を表現するかです。
上で書いたように、私はM3を動画の音を収録するのに使うのではなく、自然の音などを録るのに使ってみたいと考えています。
というわけで、何か面白い音が録れたら、本コーナーで紹介することにします。
今、各地で夏の高校野球の地方大会が行われています。地方球場のスタンドに座り、M3で120度ステレオの音を収録しても面白いかもしれません。
ただ、M3を持って座っていたら、何をしているのか他者にはわからりづらいでしょうから、ヘンな人に思われてしまう可能性が大きい(?)です。
マイクにはスポンジ製のウィンドスクリーンが付属していますが、桜風氏の実験では、結構長い毛のウィンドスクリーンを別途手に入れて使ってみても、風が少しでも強ければ、その音は防ぐことは難しいということですので、スポンジのウィンドスクリーンでは、防風効果は期待できないでしょうか。
ともあれ、少し風がありそうな時にM3を外に持ち出し、どんな風に録れるか、試してみることにします。
その前に、届いたばかりのM3を手に持って、それについてしゃべる私の声を録音しながら動画を作ってみても面白いかもしれません。
手に持ったマイクを手にしながらしゃべったのでは、マイクを握り直すごとに振動がマイクに伝わり、それが雑音になってしまいますが。