二人称と鼻毛の女

世に小説は数限りなくあります。その中で、一人称でなく、三人称でもない小説は少数派ではなかろうかと思います。残るのは二人称で書かれた小説だからです。

「僕」や「私」でなく、「彼」や「彼女」、あるいは誰かの名前でもなく、「あなた」と書かれた人の眼で見る話が綴られることになります。つまり、読んでいる当人の眼で見る話になります。

読んだばかりの阿刀田高1935~)の短編集『消えた男』(1995)に二人称で書かれた作品があります。『自殺ホテル』というのがそれです。

書き出しは一人称で、「私」が旅先のベッドで目が覚めたところから始まります。誰でもそうですが、夢を見ているときは、それが夢だと知らずに見ています。目覚めてから、それが夢だったことに気がつきます。

神事が鍵となる清張作品

「和布刈」の読み方はわかりますが。読めて当たり前のいる人がいる一方、どう読むか分からない人がいるでしょう。私はなんとなく読めそうな気がしますが、自信はありません。

こんな質問から始めたことで、これから私が何について書こうとしているかわかった人もいるかもしれません。

「和布刈」は「めかり」と読みます。九州の玄関口、福岡県の門司(もじ)には、「和布刈神社」があります。この神社では、毎年、旧暦の元日未明に、「和布刈神事」が行われます。

福岡県に住む人はもちろんのこと、神事に関心を持つ人には、「和布刈」が身近に感じられるでしょう。また、これは俳句の季語にもなっているそうですから、俳句をたしなむ人も知っていると思います。

松本清張19091992)が書いた長編作品に『時間の習俗』1962)があり、これにこの神事が出てくることは知っていましたが、まだ読んだことがなかったため、読んでみました。

小澤に寄り添いっぱなしの村上の対談

Amazonの電子書籍版でポイントが多く還元されたキャンペーンのときにまとめ買いした村上春樹の12作品と、それとは別に買い求めた彼の作品3作品、あわせて15作品を出版順に読んできました。その15冊目となる『小澤征爾さんと、音楽について話をする』2011)を読み終わりましたので、これもまた、自分なりの感想めいたことを書いておきます。

本のタイトルそのままの内容で、日本を代表する世界的な指揮者の小澤征爾1935)と村上がクラシック音楽を中心にじっくり対談しています。

この手の本は、第三者が企画を立て、その企画にのって対談の場が設けられることが多いですが、本作の場合は、個人の付き合いの延長で本にまとめられています。

小澤が「あとがきです」に書いていますが、小澤の長女の小澤征良氏(1971)が、村上の妻、陽子氏と大の友達なのだそうです。その縁で、クラシック音楽とジャズを専門的に聴く村上と出会い、初めて会ったとき、京都・先斗町(ぽんとちょう)の横丁にある小さな飲み屋(食いもの屋)で話が弾み、それではということで、本にまとめることを前提に、何度かに分けて小澤が村上に話をしています。

その時期、小澤は大病をし、仕事から離れていたことが幸いした形です。

猿話の記憶違いと煙のように消えた男 村上の短編から

村上春樹1949~)の作品を毎日読み、短い作品であれば毎日読み終わり、本コーナーで毎日取り上げることになります。

村上の作品は、電子書籍版になった作品で、まだ読んでいなかった作品を、ポイントが多くつくキャンペーンのとき、まとめて12冊購入しました。そのあと、3冊を別に追加し、15冊を出版順に読んでいます。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

昨日は、15冊中14冊目の『東京奇譚集』2005)を読み終え、続けて15冊目の『小澤征爾さんと、音楽について話をする』2011)に早速取り掛かりました。ということで、今回は『東京奇譚集』です。

本作は、次の短編5作品からなる短編集です。

村上作品を私なりに解釈すれば

Amazonの高ポイントキャンペーンにつられてまとめ買いした村上春樹1949~)の作品も、残り少なくなりました。昨日は、15冊中の13冊目になる『アフターダーク』2004)を読み終えましたので、それについて書いておきます。

本作は、村上の長編小説に分類されますが、分量は多くなく感じました。描かれ方は独特です。舞台は晩秋の東京で、おそらくは渋谷の街を中心に、都内の数カ所で同時進行する出来事を、カメラを切り替えるように描写します。流れる時間はリアルタイムで、各章のはじめには、丸い時計の文字盤を表記する入念さです。

「写真AC」のイメージ素材

物語の始まり午後11時56分。終わりは翌日の午前6時52分です。

私が前回読んだ『スプートニクの恋人』は、それまでの村上のスタイルだった一人称を主軸に、ほかの登場人物の一人称や、三人称の表現を試みています。

今回ははじめから終わりまで三人称です。

衛星になぞらえて描く村上作品

該当するAmazon電子書籍版に、高ポイントがつくキャンペーンのとき、読んでいない村上春樹1949~)の作品が多くがそれに含まれていることを知り、12冊まとめ買いしました。そのあと別に3冊追加し、15作品を出版順に読んでは、本コーナーで感想を書いています。

このところは、とんとんとんと読み進み、村上の長編小説『スプートニクの恋人』1999)を読み終え、次の『アフターダーク』2004)にとりかかったところです。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

残る作品は、読み始めた小説を加えて3作品になります。先が見えてきました。

今回取り上げる『スプートニクの恋人』というタイトルを聞き、ロシアがソビエト連邦といわれていた時代に同国が展開して衛星打ち上げの「スプートニク計画」を重ねることができる人は、歳がいった人か、その方面に関心を持つ人でしょう。

”野生児”村上の旅行記

村上春樹1949~)の作品を読んだ感想はまだまだ続きます。Amazonの電子書籍版として入手できる村上作品に高ポイントが付くキャンペーンに出くわし、12冊、プラスして、キャンペーンとは別に3冊まとめ買いし、出版順に読むことをしているからです。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

今は15冊中12冊目の長編小説『スプートニクの恋人』1999)を読み始めたところですが、その前に読み終えた『辺境・近境』1998)について書いておきます。本の題を見ただけでは、どんな内容かわからない(?)かもしれません。

本作は、村上が自分の脚で7つの地方に旅し、旅から戻って2カ月ほど”熟成期間”を開けたあと、書斎でまとめた紀行文集です。村上自身は自分が書いた紀行文集を、ある旅について書く中で、「旅行記」と書いたりしています。

それぞれの旅は、それぞれの求めに応じて企画され、書いたものですが、7つ目に紹介されている神戸と周辺を歩いて書いた紀行文だけは、自ら思い立って2日に分け、かつて自分が住んだ街を歩いて文章にまとめています。

7つの旅について書いたあと、「辺境を旅する」と題し、本作のあとがきのようなものを書いています。それを読むことで、村上がどのような装備で旅をし、それが終えたあと、どのようにして文章にしていったのかがわかります。

村上の周辺雑記で疑問解消

このところは「シリーズもの」のように、村上春樹1949~)の作品を本コーナーで取り上げています。それ以前にも、村上の作品を読んだあとに取り上げることをしていますが、今回は、3回続けて村上作品です。

いずれも、Amazonの電子書籍版で読んでいまして、今回は、米国に移り住んだときに書かれた随筆集『やがて哀しき外国語』1994)です。

村上の長編小説は、村上作品が持つ独特ともいえる性描写に辟易させられることが多いですが、それが随筆であれば、まさか、米国滞在中に経験した性的な経験をあからさまに書かない限り、そうした描写は出てきません。

もちろん、米国人の女性と村上が実際に交わったことがあるかどうかはわかりませんが、そんな逸話は一切登場しませんので、その点では気楽に読めます。

本作は、1991年の1月末に、米国の大学から客員研究員に迎えられたことで、約2年半を大学のある周辺に夫人と暮らす間、講談社のPR誌『本』に連載した随筆がもとになっています。

村上が綴る性に狂った男と女の顛末

「母ちゃん、ズボンが破けちゃったよ」「ありゃ~、またかい」

冗談で始めるしかないような気分で、また、村上春樹1949~)の作品について書きます。今回は、村上7作品目の長編小説『国境の南、太陽の西』1992)です。

分類は長編になりますが、前回の更新を終えた昨日の昼頃に読み始め、今日の昼頃には読み終わりました。読むのが決して早くない私がほぼ一日で読みえ終えることができたのですから、中編に近い長編ではなかろうか(?)と思います。

本作が出版されたのは1992年10月です。前回取り上げた、村上が「旅行記のような」ものと書いた『遠い太鼓』という紀行文章に書かれていることは、村上が陽子夫人と1986年秋から1989年秋まで3年間の南ヨーロッパ滞在記です。

村上の南ヨーロッパ見て歩き

また、村上春樹1949~)の作品について書きます。これほど村上との付き合いが長くなるとは考えてもいませんでした。Amazonの電子書籍を利用するようになったことで、出版された年代に関係なく、読みたいものが読みたいときに読めるようになり、これまでは縁の薄かった村上作品に接することが多くなったというわけです。

今回は、村上の物語世界から離れ、3年間のヨーロッパ滞在記録のようなものをまとめた『遠い太鼓』1990)という作品に接しました。

「はじめに」に、本のタイトルについて簡単に書いています。40歳が近づいていた村上は、ある朝、どこか遠くから太鼓の音が聞こえてきたように感じます。それは、自分で自分を急き立てる音だったのかもしれませんが、太鼓の音を辿ってどこか遠くへ行ってみたくなり、ヨーロッパで暮らしてみることを決め、陽子夫人と二人で南ヨーロッパ暮らしを始めます。

どこかで読みましたが、村上本人は、決して旅は好きではないといいます。行かなくていいなら、旅には行きたくない、というようなことも書いていました。それでも好奇心は旺盛なのでしょう。本書を読む限り、訪れた土地でエンジョイしているように感じます。