村上春樹(1949~)の長編小説『騎士団長殺し』(2017)については、読み終わったあとに本コーナーで取り上げました。
この作品には主人公の「私」に接近する免色渉(めんしき・わたる)という謎めいた男が登場します。
免色は、「私」が仮住まいする家の、谷を挟んだ向かい側にある大きな家にひとりで住んでいる設定です。
この男の外見で特徴的なのは、髪が、いつ見ても櫛目がとおった真っ白であることです。この髪だけで、その男が謎めいたものを感じさせます。
もっともこれは小説で描かれているからで、現実の世界にも白髪の男性はいます。それらの人が謎めいていることはありません。
小説は、映像作品と違い、読み手が自分の頭の中で、自分だけの映像にすることができます。
私は『騎士団長殺し』に出てくる免色に、あるときから、実在する人物の姿を重ねることをしました。
私がよく見るテレビ番組に「カーグラフィックTV」があることは本コーナーで何度か書きました。本番組は、車を扱う雑誌『カーグラフィック』(1962~)の映像版といった位置づけです。
放送が始まったのが1984年で、今年で放送開始から40年になり、今年はその40周年を記念した番組作りを一年通してしています。
この木曜日(2日)は、「40周年公開収録 オートモビルカウンシル2024」と題し、千葉の幕張メッセで開催されたオートモビルカウンシル会場で収録したトークショーなどの模様が放送されました。
番組のMCを長年に渡って務める松任谷正隆氏(1951~)をはじめ、番組に登場する人が数人ステージ上で、思い出話などをしています。その中のひとりが、私が免色とイメージをだぶらせた人でした。
番組が始まって2年目の1986年12月に放送されたNo.107は、番組初の海外ロケとして、イタリアを訪問したそうです。そのとき、松任谷とイタリアへ行ったその男を見た現地イタリアの若い女の子たちが、「あの人かっこいい」といったらしいです。
当時の映像が数秒間流れました。おそらくは松任谷と年齢が近い、加藤哲也氏(1959~)です。当時ですから、もちろん髪は真っ黒です。
加藤氏は今、CAR GRAPHICの代表をしており、綺麗な白髪となっています。背もすらりと高く、免色と同じで、それが専門ですから、車の知識が豊富です。
かつて、本番組でアルファロメオのC4が取り上げられたことがあります。私は自分では車の運転ができませんが、その車を番組で見て、一目見ただけで非常に気に入り、欲しいと思いました。
その回の放送にも加藤が出演しており、その車を気に入って、その発表を知った時にその車が欲しいと思ったと番組で述べていたように記憶しています。
番組が公開収録をしたオートモビルカウンシルという催しは、憧れの名車を展示するだけでなく、予算がある人であれば、自分の気に入った車をその場で手に入れることができるそうです。
加藤氏がMCの松任谷氏から、会場に展示された車の中のどれか一台乗って帰っていいとしたらどれにするかと訊かれ、ランボルギーニ・イスレロと即答しています。
加藤氏は実車を初めて見たそうですが、会場にあったそれは1968年式で、価格は7000万円とありました。
展示されていた車体は落ち着いたブルーで、今はなかなかないオーソドックスなクーペスタイルです。
フロント・デザインが、ヘッドライトが回転して収納できるリトラクタブル・ヘッドライトがついた、マツダの初代RX7と似ているように感じます。私は初代のRX7が好きでした。
長谷川和彦監督(1946~)の映画『太陽を盗んだ男』(1979)で、”ジュリー”こと沢田研二(1948~)が演じた原子爆弾を作った男、「9番」が運転して、警察車両とカーチェイスする場面で使われたのが初代RX7でした。
あくまでも見た目の印象から、免色と加藤氏を私が勝手に重ね合わせたということです。加藤氏の性格や生活が村上の小説に出てくる免色と似通っていると書いているわけではないことはいうまでもありません。