人生の機微を感じさせる阿刀田の短編集

阿刀田高1935~)の短編集を読みました。私はこれまで、阿刀田作品にそれほど接してきたわけではありません。意識的に読むようになったのは、ここ数年です。きっかけは、Amazonの電子書籍を利用するようになったことです。

Amazonの電子書籍サービスにKindle Unlimitedがあります。これは、月額980円支払うことで、対象の作品を追加料金なしに読むことができます。そう聞けば、随分と得なサービスに感じるでしょう。私もはじめはそうでした。しかし、実際に使ってみると、対象の作品は限られており、自分が読みたい作品が対象外の場合は、そのサービスがあっても、読むことはできません。

ともあれ、そのサービスを使ったとき、これで読める作品がないかと探し、その過程で阿刀田作品の面白さに、遅ればせながら気がついたというわけです。

夏季五輪の年の個人的因縁

1992年2000年。それから2004年。これらの年は、私個人に関することで、ある共通点があります。

まず、誰にでも共通するのは、これら3つの年には、夏季五輪が開かれました。1992年はバルセロナ五輪。2000年はシドニー五輪。そして、2004年はアテネ五輪です。

ここから先は私個人に限った話になります。1992年には母が、2000年には父とたったひとりの姉弟だった姉が亡くなっています。そして、2004年ひとり残された私が、あと一歩で死ぬところでした。

2004年のアテネ五輪が終わって少し経ったその年の8月下旬、私は自転車で急坂を降りる途中、おそらくは転倒し、頭部を道路に強く打ち付けたためでしょう、意識を失い、救急搬送されました。

二人称と鼻毛の女

世に小説は数限りなくあります。その中で、一人称でなく、三人称でもない小説は少数派ではなかろうかと思います。残るのは二人称で書かれた小説だからです。

「僕」や「私」でなく、「彼」や「彼女」、あるいは誰かの名前でもなく、「あなた」と書かれた人の眼で見る話が綴られることになります。つまり、読んでいる当人の眼で見る話になります。

読んだばかりの阿刀田高1935~)の短編集『消えた男』(1995)に二人称で書かれた作品があります。『自殺ホテル』というのがそれです。

書き出しは一人称で、「私」が旅先のベッドで目が覚めたところから始まります。誰でもそうですが、夢を見ているときは、それが夢だと知らずに見ています。目覚めてから、それが夢だったことに気がつきます。

神事が鍵となる清張作品

「和布刈」の読み方はわかりますが。読めて当たり前のいる人がいる一方、どう読むか分からない人がいるでしょう。私はなんとなく読めそうな気がしますが、自信はありません。

こんな質問から始めたことで、これから私が何について書こうとしているかわかった人もいるかもしれません。

「和布刈」は「めかり」と読みます。九州の玄関口、福岡県の門司(もじ)には、「和布刈神社」があります。この神社では、毎年、旧暦の元日未明に、「和布刈神事」が行われます。

福岡県に住む人はもちろんのこと、神事に関心を持つ人には、「和布刈」が身近に感じられるでしょう。また、これは俳句の季語にもなっているそうですから、俳句をたしなむ人も知っていると思います。

松本清張19091992)が書いた長編作品に『時間の習俗』1962)があり、これにこの神事が出てくることは知っていましたが、まだ読んだことがなかったため、読んでみました。

小澤に寄り添いっぱなしの村上の対談

Amazonの電子書籍版でポイントが多く還元されたキャンペーンのときにまとめ買いした村上春樹の12作品と、それとは別に買い求めた彼の作品3作品、あわせて15作品を出版順に読んできました。その15冊目となる『小澤征爾さんと、音楽について話をする』2011)を読み終わりましたので、これもまた、自分なりの感想めいたことを書いておきます。

本のタイトルそのままの内容で、日本を代表する世界的な指揮者の小澤征爾1935)と村上がクラシック音楽を中心にじっくり対談しています。

この手の本は、第三者が企画を立て、その企画にのって対談の場が設けられることが多いですが、本作の場合は、個人の付き合いの延長で本にまとめられています。

小澤が「あとがきです」に書いていますが、小澤の長女の小澤征良氏(1971)が、村上の妻、陽子氏と大の友達なのだそうです。その縁で、クラシック音楽とジャズを専門的に聴く村上と出会い、初めて会ったとき、京都・先斗町(ぽんとちょう)の横丁にある小さな飲み屋(食いもの屋)で話が弾み、それではということで、本にまとめることを前提に、何度かに分けて小澤が村上に話をしています。

その時期、小澤は大病をし、仕事から離れていたことが幸いした形です。

猿話の記憶違いと煙のように消えた男 村上の短編から

村上春樹1949~)の作品を毎日読み、短い作品であれば毎日読み終わり、本コーナーで毎日取り上げることになります。

村上の作品は、電子書籍版になった作品で、まだ読んでいなかった作品を、ポイントが多くつくキャンペーンのとき、まとめて12冊購入しました。そのあと、3冊を別に追加し、15冊を出版順に読んでいます。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

昨日は、15冊中14冊目の『東京奇譚集』2005)を読み終え、続けて15冊目の『小澤征爾さんと、音楽について話をする』2011)に早速取り掛かりました。ということで、今回は『東京奇譚集』です。

本作は、次の短編5作品からなる短編集です。

村上作品を私なりに解釈すれば

Amazonの高ポイントキャンペーンにつられてまとめ買いした村上春樹1949~)の作品も、残り少なくなりました。昨日は、15冊中の13冊目になる『アフターダーク』2004)を読み終えましたので、それについて書いておきます。

本作は、村上の長編小説に分類されますが、分量は多くなく感じました。描かれ方は独特です。舞台は晩秋の東京で、おそらくは渋谷の街を中心に、都内の数カ所で同時進行する出来事を、カメラを切り替えるように描写します。流れる時間はリアルタイムで、各章のはじめには、丸い時計の文字盤を表記する入念さです。

「写真AC」のイメージ素材

物語の始まり午後11時56分。終わりは翌日の午前6時52分です。

私が前回読んだ『スプートニクの恋人』は、それまでの村上のスタイルだった一人称を主軸に、ほかの登場人物の一人称や、三人称の表現を試みています。

今回ははじめから終わりまで三人称です。

衛星になぞらえて描く村上作品

該当するAmazon電子書籍版に、高ポイントがつくキャンペーンのとき、読んでいない村上春樹1949~)の作品が多くがそれに含まれていることを知り、12冊まとめ買いしました。そのあと別に3冊追加し、15作品を出版順に読んでは、本コーナーで感想を書いています。

このところは、とんとんとんと読み進み、村上の長編小説『スプートニクの恋人』1999)を読み終え、次の『アフターダーク』2004)にとりかかったところです。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

残る作品は、読み始めた小説を加えて3作品になります。先が見えてきました。

今回取り上げる『スプートニクの恋人』というタイトルを聞き、ロシアがソビエト連邦といわれていた時代に同国が展開して衛星打ち上げの「スプートニク計画」を重ねることができる人は、歳がいった人か、その方面に関心を持つ人でしょう。

”野生児”村上の旅行記

村上春樹1949~)の作品を読んだ感想はまだまだ続きます。Amazonの電子書籍版として入手できる村上作品に高ポイントが付くキャンペーンに出くわし、12冊、プラスして、キャンペーンとは別に3冊まとめ買いし、出版順に読むことをしているからです。

作品名出版社      出版年月日
風の歌を聴け講談社1979年7月23日
1973年のピンボール講談社1980年6月17日
羊をめぐる冒険講談社1982年10月13日
カンガルー日和平凡社1983年9月9日
ノルウェイの森講談社1987年9月4日
ダンス・ダンス・ダンス講談社1988年10月13日
遠い太鼓講談社1990年6月25日
国境の南、太陽の西講談社1992年10月5日
やがて哀しき外国語 講談社1994年2月18日
アンダーグラウンド講談社1997年3月20日
辺境・近境 新潮社 1998年4月23日
スプートニクの恋人講談社1999年4月20日
アフターダーク講談社2004年9月7日
東京奇譚集 新潮社 2005年9月18日
小澤征爾さんと、音楽について話をする新潮社2011年11月30日
私がAmazonの電子書籍版で購入した村上春樹作品(出版順)

今は15冊中12冊目の長編小説『スプートニクの恋人』1999)を読み始めたところですが、その前に読み終えた『辺境・近境』1998)について書いておきます。本の題を見ただけでは、どんな内容かわからない(?)かもしれません。

本作は、村上が自分の脚で7つの地方に旅し、旅から戻って2カ月ほど”熟成期間”を開けたあと、書斎でまとめた紀行文集です。村上自身は自分が書いた紀行文集を、ある旅について書く中で、「旅行記」と書いたりしています。

それぞれの旅は、それぞれの求めに応じて企画され、書いたものですが、7つ目に紹介されている神戸と周辺を歩いて書いた紀行文だけは、自ら思い立って2日に分け、かつて自分が住んだ街を歩いて文章にまとめています。

7つの旅について書いたあと、「辺境を旅する」と題し、本作のあとがきのようなものを書いています。それを読むことで、村上がどのような装備で旅をし、それが終えたあと、どのようにして文章にしていったのかがわかります。

村上が聴き取った事件の被害者の声に耳を澄ます

このところは、Amazonが安売りした時にまとめて買ってしまったため、村上春樹1949~)の作品にかかりきりの状態となっています。昨日は、村上が国内外の”辺境”と思われるところを旅行してまとめた『辺境・近境』1998)という本を読み終わりました。これもこれで面白く読みましたが、その前に、「地下鉄サリン事件」の被害者の声をまとめた『アンダーグラウンド』1997)についてまだ書いていませんでしたので、ここに書いておきます。

この事件が起きたのは1995年3月20日の通勤時間帯です。時期的にいえば、日本では年度替わりです。

ネットの事典「ウィキペディア」に上がっている村上の「年譜」で確認すると、事件が起きたとき、村上は日本にいなかったと思ってしまうでしょう。村上が5年ぶりに米国から日本に帰国するのは、同年の5月と書かれているからです。

しかし、まったくの偶然で、その時期、村上は日本に一時帰国していたのでした。所属していた米国の大学が春休みだったからのようで、2週間ほど日本に滞在していました。

村上は他の随筆や紀行文で書いていますが、昔から新聞は読まず、テレビは見ない生活を続けているそうです。そのため、大変な事件が起きたとき、神奈川県大磯の自宅で、いつもと変わらなく過ごしていました。