レンブラントの8K『夜警』は克明な動く画集のよう

NHKで二度、8K(UHDTV)で撮影した絵画作品を紹介する番組が放送されました。

紹介された作品は、17世紀のオランダの画家、といいますか、古今東西の西洋の画家を代表する、レンブラント16061669)が36歳の年に描いた『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊』です。

本作が日本では『夜警』として知られています。

Rembrandt, The Night Watch

レンブラントは、私が一貫して最も敬愛する画家です。

『夜警』を描いた頃、レンブラントは彼の人生の絶頂期にあたる時期であったといえましょう。もっとも、制作の途中で、愛妻のサスキアに先立たれているので、好事魔多しとなってはいるわけですが。

ともあれ、人間の内面を描くレンブラントにとって、実生活に恵まれていることが、自分の絵画制作における幸福感にはつながっていない面があります。

あるものを創造する人間は、実生活が厳しくなるほど、作品に深みが増すことがよく起こるからです。

『夜警』がレンブラントの代表作といわれますが、私個人の好みでも、最晩年に描かれた『ユダヤの花嫁』1665~1669)や『放蕩息子の帰還』16661668)、晩年の自分自身を見つめて描いた『自画像』こそが、レンブラント絵画を代表するように考えています。

放蕩息子の帰還 – レンブラント

今月の10日、「日曜美術館」でレンブラントの『夜警』が取り上げられました。そして、間を置いた19日、NHK BSプレミアム「名画が、来た。」という番組で、1時間放送されました。

どちらも録画して見ました。

両番組の最大の売りは、アムステルダム国立美術館に国宝のように展示されている『夜警』をNHKが8Kで撮影したことです。しかも、撮影した映像は、NHK放送技術研究所内にあるスタジオにしつらえた大スクリーンに、本物と同じ大きさで上映したことです。

また、そのサイズのスクリーンを使い、作品の細部を拡大上映することもしています。

絵画作品をテレビ番組にするにあたっては、専門的過ぎると視聴者を置いてけ堀にしかねませんので、視聴者の興味を引くような作りにならざるを得ません。

「日曜美術館」では、美術の専門家ふたりが、そして、昨夜放送されたBSプレミアムの番組では、専門家のほかにジャンルの異なる女性ふたりなど、全部で7人に、投影された巨大な映像に対面させる形を採っています。

絵画作品は、見る人それぞれの感覚で自由に鑑賞していいものです。しかし、各人が作品を映す映像に接して見せるリアクションは、その人が持つ感覚以上のものは出てこず、結果的には、その人の内面の浅さや深さが、残酷なくらい如実になってしまいます。

大学で美術を教えているような人であっても、自分で絵を描かない人は、どうしても、描かれている内容から作品を語ることになります。

私がレンブラントを最も敬愛するのは、純粋に技術的な面からです。レンブラントほど、油絵具を自在に操れた人はいないと考えています。

絵画技術に関連する動画を、昨日、本サイトで紹介したばかりです。下に埋め込んだ動画がそれです。見る人が見れば、非常に興味深い内容です。

SECRETS of the ZORN Palette || The What, Why, When, & HOW TO USE IT!

本動画では、油絵具を使って古典的な作風を描くのに使う油絵具の色について語っています。

チューブに入った絵具などなかった時代、画家は、制作を始める前に、自分で絵具を練り、溶き油を調合しました。そんなこともあって、今に比べて使う色は限られていました。

中でも、レンブラントはパレットに載せる色数が極めて少なかったことが知られています。実際にレンブラントが残した作品を画集で見ても、使われている色数の少なさはわかります。

それでいて、実に豊かな色を感じさせる作品に仕上がっています。

その影響を受け、私も使う色は少なくしています。

私が最後まで使いこなせなかったのが青色です。

同時代のオランダの画家に、今でこそよく知られるようになったフェルメール16321675)がいます。フェルメールの作品で象徴的なのは、青色が効果的に使われていることです。

一方のレンブラントは、フェルメールの作品にあるような青色が登場する作品は、ひとつもありません。せいぜい、青を感じさせる描き方をしているだけです。

フェルメールが使った青は、ラピスラズリという宝石に近い鉱物を砕いて顔料にしたもので、非常に高価だったといわれています。

レンブラントの小品に青を感じさせる描き方をしたものがあります。それは、冷たい青の絵具を溶き油で薄く溶き、グレーに塗った絵具にグラッシのような技法で、絵具を塗り重ねて表現しています。

本ページに埋め込んだ動画を見ると、一番最初に紹介されている色は、4色だけですべての色の表現を目指しています。

私も一時期は、4色だけで描いていました。使った色も、動画で紹介されているものに近いです。

鉛白(シルバーホワイト)とアイボリーブラックを混色すると、ホワイトの量の加減で、グレーができますが、そのグレーが青味を感じさせることができることから、アイボリーブラックを青色の絵具の代わりに使える、と話しています。

色の表現には色の三原色が使われます。その三色は、赤・青・黄です。赤には、ヴァーミリオンやカドミウムレッド・ライト、黄はイエローオーカー、そして、青としてアイボリーブラックを使うことになります。

この三色にシルバーホワイトを加えた4色だけで、すべての色を表現してしまう、というわけです。

そうした考えでレンブラントの作品を見ると、それに近い色を使って描いているように見えます。

使う色数を少なくすればするほど、不自由などころか、非常に自由になります。混色する色が少なければ、混色によって色が濁ることを抑えられます。

本動画を見たことで刺激を受け、同じような絵具をパレットに載せ、色を作っては、カンヴァスに載せることをしました。とても快適な気分になります。

緑色の表現をしたかったら、イエローオーカーとアイボリーブラックを混ぜ、明度を上げたければ、シルバーホワイトを適宜足すだけです。

それぞれの色の混ぜ加減で、様々な緑色が表現できます。同じことを、緑色の絵具を使って表現すると、似たような緑色ばかりになってしまいがちです。

人物の顔を描くとき、光の当たっているところと陰になっているところで、肌の色は様々に変化します。その変化も、4色の絵具だけで十分すぎるほど表現できます。

こんな風に、レンブラント作品を鑑賞するうえで根幹となる絵具の扱いから8K映像をじっくり見て行けば、何が描かれているかはきにならなくなり、油絵具の重なりで表現された物質の表現を、いくらでも飽きずに眺めていることができます。

レンブラントの『夜警』を8Kで撮影して紹介する番組は録画して残してあります。

音声を切って余計なおしゃべりを消し、画面だけを見ていれば、いくらでも得るものがあるでしょう。動く画集を眺めるように_。

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