人の趣味はいろいろですが、先日(5日)の朝日新聞の土曜版「be on Saturday – entertainment」に、何とも豪快な趣味をお持ちの方が紹介されています。
世の中には「車が三度の飯よりも好き」という人がたまにおり、資産に余裕のある方であれば、名車をコレクションすることも珍しくはないでしょう。以前何かで読んで記憶にあるのは、テレビ・タレントの堺正章さんの例で、彼も名車と呼ばれる外国車を何台も所有しているとのことでした。
それでいながら、ご本人は確か免許を持っていなかったように記憶しているのですが、これは記憶違いだったかどうか、自信がありません。しかし、真のコレクターであるなら、「車の免許がないのに車をコレクションする」方がサプライズの度合いは大きかろうと思います(^_^;
話が脱線気味となってしまいましたが、今回紹介したいと思っている方は、世間並みのカー・コレクターではなく、何と、ヘリコプターをコレクションされているというのですから、度肝を抜かれないわけにはいきません。
記事の内容をなぞっておきますと、今回の記事で取り上げられた阿部和彦さん(41)は、東京・大田区の羽田空港近くで生まれ育ったことが縁で、ヘリコプターに人一倍興味を抱くようになったとのことです。しかも、彼をひきつけて止まないヘリコプターは「ベル47」という機種です。
記事には、阿部さんと「ベル47」との出会いが次のように綴られています。
実家は羽田空港の近く。小学生のころ屋根の上で遊んでいて、すごい爆音が頭上を通過した。それがベル47だ。それから魔法にかかったようにヘリに夢中になり、ラジコンや写真を集め、構造を知るため空港の整備場に通った。
私はこのくだりを読んで、非常に共感を覚えました。
というのも、実は私もこの「ベル47」というヘリコプターは涙が出るほど大好きだからです。いえ、正直いいまして、私が好きだったヘリコプターが「ベル47」という名称だったことは知りませんでしたf(^_^;) ともかくも、あのツルリとしたガラス(←正確にはアクリルだそうです)に覆われたコックピットを持つ機体がどうしようもなく好きなのです。
ですので、阿部さんがその機種だけをコレクションなさっているというのは、本当によく理解できてしまうのです。
しかし、あのヘリコプターが好きというのは非常によく理解できたとしても、実機をコレクションしようとは夢にも思いません。それを、阿部さんは今現在、現実に8機所有しているというのですから恐れ入るよりほかありません。
ちなみに、当機の胴体全長は【約10メートル】、総重量は【約700キロ】といいますから、かさばるなんてものではありません。そのため、当然のことながら、阿部さんもコレクションのヘリたちを都内の自宅に保管するなどということは到底できず、埼玉県東松山市市内の田園に囲まれた某所2カ所に保管されているそうです。
その阿部さんご自身、ヘリの免許はお持ちなのだそうですが、ほとんど操縦はされないのだそうです。曰く「ヘリの構造の方に興味があってね。歴史的な芸術品だと思うんだ」(2004年6月5日付け朝日新聞土曜版記事より)とのことです。
この辺の意味合いからも、阿部さんは「真のコレクター」というべきでしょう。
私自身、どうしてヘリコプター、というより、ハッキリいって「ベル47」が好きなのかといえば、やはりあのスタイルです。ですから、同じヘリコプターでも、最新式のものにはそれほど食指が動きません。
あのアクリルに覆われた丸いコックピットの形態がたまらく好きなのです。ある種エロティックなものさえ感じてしまいます。
実をいいますと、私は小学校低学年のとき、一度だけそのヘリコプターに乗せてもらったことがあるのです。あれは忘れもしません。その年の冬休みが終わる日の1月7日です。
当時、当地では正月の期間中だけ、ヘリコプターの体験飛行が行われており、両親に頼んで一番飛行時間の短いコースに乗せてもらったのです。実際には父親と二人で出かけていったのですが、朝一番の飛行だったため、いきなりは飛ばずに、エンジンを回転させてエンジンを温めるのです。
その間も私と父は機内のシートに座って待っていたのですが、初めてヘリに乗った私は嬉しくてたまらなかったはずです。そうして、どれほどの時間が経ったでしょうか。いよいよ大空へ飛び立つ瞬間を迎えました。
その年は寒い冬だったのか、普段はめったに降らない雪が降ったあとで、上空に舞い上がると、足元に広がる下界は一面の雪景色でした。あの光景は一生忘れることができません(都合のいいように、多少の誇張を含んで記憶に残っている可能性大です(^_^;)。
季節は真冬でしたから、おそらく機内も寒かったはずですが、不思議と寒さは全く記憶に残っていません。本当に嬉しい時というのは、寒さなんか問題でなくなるんでしょうね。飛行時間はほんの10分間ほどだったと思いますが、あの時の記憶は永遠に自分の中に残り続けるはずです。
話を阿部さんに戻しますと、最初のコレクション品を手に入れたのは阿部さんが20歳の頃だそうで、彼のヘリ好きを知っていた整備士から、中古のヘリなら100万円(今から20年ほど前の物価水準下での100万円)ぐらいで購入できると教えられ、夢中になってバイトをして資金を溜め、夢にまで見た「ベル47」を手に入れたのだそうです。
で、この話を読んで、私も俄然「ベル47」の中古機を1機欲しくなりました。100万円で手に入れることができるというのであれば、全く不可能な話ではなさそうですし。ただ、問題はその保管方法で、それやこれやを考えると、実行に移すのにはかなりハードルが高そうです。
なお、阿部さんがこれまでにヘリのコレクションにつぎ込んだ資金は、「2、3千万円程度の一戸建て2軒分」といいますから、途方もないですね。それを賄えるほどの資金を調達するのは容易ではありません。
今回の記事には、当記事のコーナー「こだわり会館」の“館長”を務めておられる作家の荒俣宏さんの以下のような寸評が載っています。
以前出演したテレビ番組で、ヘリコプターはエンジンが止まっても墜落しないと聞いて驚いた。今回、ラジコンではなく本物を集めている人だと聞いて、もっと驚いた。資産家のヘリ・コレなら当りまえ。庶民がやるから価値がある。手に入れるのも苦労だが、保管するのもたいへんだ。コレクションにつぎ込んだ金のことを思うとめまいがする。本人は、たとえば、悪い女にだまされたと思えばあきらめもつくが、家族を納得させるのが困難!?
以前聞いた話では、本当の車好きは、「独りガレージで愛車のボンネットを開け、エンジン・ルームを眺めながらアルコールのグラスを傾ける時こそが至福の時」なのだそうです。それでいけば、心底惚れ込んだ「ベル47」の実機を前に飲る酒の格別さはいかばかりでしょうか。
ヘリ好きの端くれの私としては、ただただ羨ましい限りです。
ともかくも「洗練され過ぎたモノよりも、よりプリミティヴなモノの中にこそ真の美しさが宿っている」という大原則は、ヘリコプターにも間違いなく当てはまる、ということだけはいえそうです。