いい味を持つ中井貴一

私は映画やドラマを見るのが好きですが、どんな映画やドラマでもいいというわけではないです。結果的には米国の昔の映画や、米国や英国の昔のドラマを好んで見ることになります。

私は昔、脚本を書いてみたいという希望のようなものを持ちました。結局は実現できませんでした。

また、つてを頼って、ドラマの撮影現場でカメラマンの助手の見習いのような立場を得ることも経験しました。しかしこちらは、自分では無理だ、と一日で去ってしまいました。

こんな風に、映画やドラマを作る側には関われなくても見るのは今も好きです。

日本の映画やドラマにもいい作品があるのでしょうが、随分長いこと、日本の作品は見る気が起こらず、見ていません。

その理由のひとつとしては、日本ではいい俳優が育っていないように感じることです。芸能事務所の力が偏り、話題作には必ずといっていいほどジャニーズ事務所に所属するホストのような男がキャスティングされます。

日本のドラマでも昔は面白い作品がありました。鶴田浩二19241987)が主演したNHKの土曜ドラマ『男たちの旅路』19761982)や、萩原健一(19502019)と水谷豊1952~)が共演した『傷だらけの天使』19741975)、西田敏行1947~)がサラ金の取り立て屋を演じた『淋しいのはお前だけじゃない』1982)などを思い出します。

淋しいのはおまえだけじゃない   西田敏行

今、これらが再放送されたら、外国のドラマに混じって、毎週録画して見るだろうと思います。

日本のドラマがおかしくなったのは、いわゆるトレンディドラマをフジテレビで放送し始めた頃(?)ではなかろうか、と思わないでもありません。

もっとも、それに分類されるであろう武田鉄矢1949~)主演の『101回目のプロポーズ』1991)は毎週見ていましたが。

[MV] SAY YES / CHAGE and ASKA

『ふぞろいの林檎たち』というドラマは、『男たちの旅路』を書いた山田太一1934~)が脚本を書いているのですから、トレンディドラマではありません。

ふぞろいの林檎たち ・オープニング集 1/2

それでも、若手の俳優が何人も登場し、新しいタイプのドラマという印象がありました。それらの俳優の中に、中井貴一1961~)がいました。

『ふぞろい_』の初回シリーズが放送されたのは1983年ですから、中井が22歳のときの作品になります。私はこの連続ドラマは見ていませんが、中井は四流大学を出た男という設定だったと思います。

中井は、映画俳優だった佐田啓二19261964)の長男であることは、知っている人が多いでしょう。佐田といえば、小津安二郎19031963)の作品にも登場する俳優でした。

『秋刀魚の味』予告編 / 小津安二郎監督作品 偉大なる映像作家・小津安二郎の遺作

佐田は交通事故によって37歳で世を去っています。このとき、中井はまだ2歳半だったそうですね。

なんでもこのとき、佐田は家族と信州にあった別荘へ行っており、佐田が主演していたNHKの連続ドラマ『虹の設計』19641966)に出演するため、家族を別荘に残して帰京する途中で死亡事故は起きたそうです。

亡き父のあとを追うように芸能界に入り、その道で知られる存在となりました。

なお、中井が好きな映画は、父も出演している小津の『お早よう』1959)だそうです。中井の父、佐田啓二が33歳のときの作品になります。

今回、こんなことを書いたのは、今朝、Yahoo!ニュースで中井が主演するドラマの記者会見を報じた記事があることに気がつき、それに目を通したところ、齢を重ねた中井が「いい感じ」に熟しているように感じたからです。

記事では、内館牧子1948~)が書いた『終わった人』2015)を、中井を主人公にしてドラマ化するにあたり、中井が妻の役をキムラ緑子1961~)にして欲しいと熱望したことを、記者会見で述べたことを伝えています。

【中井貴一】「なんとしても、お願いしたい」 妻役の共演者に熱烈ラブコール

内容は別にして、記者会見で話をする中井が、良い味を持っているように感じました。今の日本の俳優の中では、かなりいい線をいっているのではないでしょうか。

ちなみにこのドラマは「リーディングドラマ」とされています。個人的には聞きなれない言葉です。「朗読劇」のようなもの(?)でしょうか?

惚けた味を出す役を中井に任せたら、いい演技をしてくれそうに感じます。ま、素人の私がこんなことを書くのは、中井氏本人にも失礼極まりありませんけれど。

今の日本では、中井のような俳優はなかなかいないように感じます。若手の俳優、というかタレントは、はじめの方にも書いたように、どこかの店のホストやホステスみたいな感じの人が多く、深みが感じられないことが多いです。

中井は髪型を、今時としては珍しく、きっちりと七三に分けており、それが似合っています。

昔の日本の映画に『警察日記』1955)というユーモラスに描かれた名作があります。この作品で、森繁久彌19132009)が福島県の会津のほうにある田舎の警察署長を演じています。

現代に同じ時代背景で描くのは難しいでしょうが、森繁が演じた署長役を中井が演じてもいい味を出す(?)かもしれない、などと想像してみたりします。

会津磐梯山 (あいづばんだいさん)「福島県民謡」

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