『エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事』(1993)という米国映画があります。ご存知ですか?
私は米国の映画をよく見るほうだと思いますが、旧い作品が好きということもあり、本作を知りませんでした。
監督はマーティン・スコセッシ(1942~)ですね。スコセッシといえば、私が好きな『タクシードライバー』(1976)の監督です。名前からわかるように、イタリア移民の家に生まれています。
『タクシードライバー』は水曜日(13日)にNHK BSで放送されたばかりです。私は録画しながら、オンタイム(「放送されている時間」ぐらいの意味で使っています)でも見ました。
『エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事』はNHK BSで今月7日に放送されました。スコセッシの作品と知り、録画しておきました。
また、主演がダニエル・デイ=ルイス(1957~)と知り、そうなのかと思って見始めました。
デイ=ルイスといえば、スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)でも主演しています。この作品は劇場で見ています。この作品におけるデイ=ルイスは、荒っぽくてアクの強い印象でした。
その彼が本作で主演していると知って見始めましたが、なかなか彼らしい人物が登場してきません。主要な人物といえば、米国の名家の若き男、ニューランドです。
ともあれ、ニューランドは見るからに優男(やさおとこ)です。『ギャング・オブ・ニューヨーク』のデイ=ルイスとはまったく結びつきません。
ニューランドが、エレンという女性に好意を抱いていることはわかってきます。
エレンは欧州の伯爵家に嫁いだものの、夫が横暴であるとかで、米国に戻っていることがわかります。ということから、横暴な伯爵をデイ=ルイスが演じているのかと思ったりもしました。
これは私の思い違いです。優男のニューランドを演じたのがデイ=ルイスなのでした。
本作は、イーディス・ウォートン(1862~1937)の同名小説を映画化したものだそうです。ウォートン自身が結婚して欧州へ渡り、パリに暮らした経歴を持ちます。
ウォートンの結婚生活は六年で終わり、米国へ戻っています。ウォートンの作品は「上流社会の恋愛風俗を風刺的に描いた」とウィキペディアにあります。
彼女が経験し、感じたことが作品に反映されたのでしょう。
彼女の原作を読んだことがないのでなんともいえませんが、本作は観客に親切でないように感じます。
デイ=ルイスが演じるニューランドは伯爵夫人のエレンと幼馴染であることがわかりますが、それを感じさせる映像がありません。
本作で特徴的なのは、ナレーションがついていることです。それを担当するのは、ポール・ニューマン(1925~2008)の妻となった女優のジョアン・ウッドワード(1930~)です。
本更新をするにあたり、本作について書かれたウィキペディアを見て、ニューランドが弁護士であることを知りました。本作を見ただけでは、彼が弁護士であることにも気がつきませんでした。
米国における貴族風な彼は、特別に仕事を持たず、観劇や晩さん会などを楽しみながら暮らしているのかと思っていました。
米国には欧州のような貴族文化がありません。しかし、本作ではそれを模したような場面が数多く登場します。それを見ると、米国は欧州のその文化に憧れのようなものを持ちつつ、結局は、その真似ごとをするしか能がないことを感じさせます。
デイ=ルイス演じるニューランドは、エレンに強い愛情を持ちつつ、エレンの従妹のメイという若い女性と結婚します。
ニューランドは結婚したあとも、エレンに対する恋心を持ち続けます。エレンに会うことがあれば、メイとの結婚を不本意な結婚といってみたりします。
メイも夫がエレンに想いを寄せていることを察していますが、それを表に出して、夫や家族との関係が悪くなることを避けます。
ニューランドとエレンの関係がうまく描かれているようには感じませんでした。もしも、ビリー・ワイルダー監督(1906~2002)が本作を手掛けたなら、もっとうまく描けたでしょう。
ニューランドが優柔不断な男に見えてしまいます。エレンにしても、自由に生きたい願望を持つ気ままな女のように見えます。そんなふたりをカメラが追いますが、もうひとつ、胸に迫って来るものがありません。
見始めたときから映像が美しいと感じました。どうしたらそんな風に撮れるのかと、映像的な興味で最後まで見ました。
満点が星五つとすれば、私の本作への評価は星三つです。