2002/12/26 ギャング・オブ・ニューヨーク

クリスマスの昨日、一本の映画を見てきました。

前から見ようと決めていたマーティン・スコセッシ監督(1942~)の最新作『ギャング・オブ・ニューヨーク』2002)です。

最近ではDVDやビデオなどが普及し、家庭のテレビ受像機で映画を楽しむことが盛んですが、やはり映画は劇場で見てこそです。それも、より大きなスクリーンと最良の音響効果が備えられた劇場で見たいということで、東京・有楽町丸の内ルーブルまで足を運びました。

最近はあまりメジャーな映画は見に行かないことが多かったのですが、昨日は久しぶりのメジャー作品ということで、大勢の見客を目にしました。

特に昨日の場合はクリスマスということもあってか、カップルや女性客の姿が目に付きました。私は個人的に『ギャング・オブ・ニューヨーク』は女性が好まないタイプの映画だと思っていたもので意外に感じました。ただそれもそのハズで、当館では毎週水曜日がレディース・デイだそうで、通常1800円のチケットが半額に近い1000円で手に入るとのことで妙に納得しました。

当館は各上映ごとに総入れ替え制のため、入り口から伸びる廊下に列を作って待つこと小1時間。その間、ひとりで出かけた私は、列の前後から耳に飛び込んでくる客の話し声に悩まされ続けました。

ちなみに私のすぐ前に並んでいたのは20代の女性ふたり連れで、最近行った旅行の話(持参したアルバムまで見せ合っていた)に始まって、家族の話、友だちの話、果ては親類の子の病気の話までしていました。

映画についての話もありました。その中で私がちょっとだけ注目したのは、昨日見た映画の監督でもあるスコセッシがかつて監督した『タクシードライバー』(1976)についてのくだりです。

さすがにスコセッシの新作を早速見に来るくらいで、『タクシー・ドライバー』を見ていること自体に私は「お!」と思いましたが、「映画通には受けがいいみたいだけど、どこをどんな風に評価したらいいのかわかんない」というようなことをしゃべっていました。

そう感じるのもわからなくはありません。

そうこうする内に前回の上映が終了し、入場する時間になりました。

始まる前から行列ができていたくらいで、五百以上ある客席はたちまち埋まりました。私はせっかく劇場にまで足を運んだときは努めて前の方の真ん中の席で見るというのがいつもの習いで、昨日も前から4列目の真ん中の席を確保しました。

私はほとんど予備知識を持たずに見たため、どのようなストーリーかもまったくわかっていません。あとから考えると、幕開けは主人公、アムステルダムの少年時代のシーンです。

少年の父親であるヴァロン神父が先頭に立ち、いかつい大勢の男たちを引き連れて広場へ続く出口へと向かいます。それを見る見客は、耳をつんざく音響とめまぐるしく変わる映像とで、早くも興奮した気分にさせられます。

外へ出るとそこは雪の積もった街の真ん中の大広場で、既に敵将が同じだけの数の同志を集めて待ち構えています。どうやら、敵対するグループ同士の決闘がこれから始めるようです。

舞台は米国のニューヨーク。といっても1800年代中期の話で、何にもない荒れ果てた不毛の地です。

主人公の父親である神父が率いるのはその地に遅れてアイルランドから渡って来た移民たちで、一方それを迎え撃つのは、このニューヨークで生まれ育った自らを「ネイディブ・アメリカン」と称する連中です。

どちらも大男揃いで、いずれもが日本でいえば大相撲の力士かラグビーのラガーマンかというような立派な体格をしています。そんな彼らが手に手にナイフや斧、こん棒などを持って決闘の開始の時を待っています。冬のニューヨークで吐く息が白く見えます。

Gangs of New York (2/12) Movie CLIP – Crusty Bitches & Rag Tags (2002) HD

敵将のビルは、この辺りの利権を収めている優れもので、大きな身体を持ち、顔には立派な髭を蓄えています。

ややあったあと、いよいよ決闘が始まります。両方のグループが広場のあちこちでまさに命がけの殴り合い、切り付け合いを展開します。画面には血が飛び散り、殴りあう音などが大音響で響き渡ります。

主人公の少年・アムステルダムはといえば、小高くなったところでその大群衆の壮絶な死闘をじっと注視しています。彼がひたすら目で追うのは偉大なるわが父の姿です。

闘いの終盤、敵将のビルは、ヴァロン神父の姿を見つけ襲いかかります。そしてついには神父を倒し、息の根を止めます。それを見ていた主人公は父の元に走り寄ります。

父は変わり果てた姿に変わり、その横にビルが立っていました。決闘は終わりです。少年は立ちはだかるビルを下から見上げます。父を殺した男の顔を心に刻むように_。

肉親失った主人公(父以外の肉親については全く触れていません)はその後少年院に送られ、16年の歳月が流れ、そこを出たかつての少年が立派な体格を持った青年となってニューヨークに戻ってくるところからさらに話は展開していきます。

今でもアメリカは人種の坩堝(るつぼ)といわれますが、そのアメリカ建国の歴史の中でストーリーが展開され、私がそれまでほとんど知らなかったアイルランド移民に対する複雑な感情が描かれています。

そうした人種間の問題を解決する民主的な方法はまだ確立されておらず、無政府状態に置かれた彼らにとり、力のぶつかり合いである暴力こそが唯一の解決策です。

映画は超大作にありがちな壮大なスケールで展開され、ともすればあの『タクシードライバー』を監督したスコセッシ監督の作品であることを忘れてしまいそうになります。

そして、時によりそのスコセッシ監督作品であったことを思い出させてくれるのが『タクシードライバー』のラスト・シーンでも描写された血なまぐさいシーンです。なお私個人としては、大群衆の中の暴力シーンよりも、個別の暴力シーンによりリアルな感覚を刺激されました。

街に戻った主人公は、直ちに父親の仇(かたき)を討つのかと思いきやそんな単純なストーリー展開にはならず、ひとまずビルの手下のようになってしまうのが意外といえば意外で、それが現実に即したリアルな表現といえばそういえるかもしれません。

しかし彼は、形見のナイフを隠し持つように、ビルの首を取ることを心に隠し持ち、機会を窺っていたのでした。

その結末がどうなるかについては敢えて書きません。私は主人公(レオナルド・ディカプリオ)よりも敵方のボスであるビル(ダニエル・デイ=ルイス)の格好よさに魅せられてしまったことを白状しておきます。

Gangs of New York || Bill the butcher

映画は3時間近くの長さに渡りますが、途中でだれた感じはなくラストを迎えます。そして見終わったあとは久しぶりに「映画らしい映画を見た」という満足した気分になります。

付け加えて置けば、この映画では今流行のコンピュータグラフィックスの技法はおそらく用いられておらず、全てが実写で、フィルムに収められたでしょう。撮影場所はイタリアのチネチッタ撮影所で、いってみれば、最も人間臭い撮影環境で製作されたといえるかもしれません。

出口の扉を開けると、ロビーには次回の上映を待つ人の波ができていました。

予告編を見て「甘いラヴストーリー」を期待していた人は面食らうかもしれません。上映前に私の前で列に並んでいた20代の女性ふたりはどのような感想を持ったでしょう。

Gangs of New York 10th Anniversary Ultimate Trailer – Martin Scorsese, Daniel Day-Lewis Movie HD

年末年始は話題作が目白押しです。私は年内にもう一本ほど見る予定です。

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