今月、村上春樹(1949~)の荒唐無稽な冒険活劇を、AmazonのオーディオブックのAudibleで第1巻を聴き、第2巻と第3巻を電子書籍のKindle版で読んだことは本コーナーで書きました。
その感想として、本作をエンタテインメントとして見るなら、5点満点評価で3、甘めに見れば4をつけてもいいが、文学作品だといい張るなら、2、辛くすれば1だとしました。
その理由は、本コーナーでその作品を取り上げた分の更新で確認してください。
今週水曜日(22日)、NHK BSプレミアムで放送された、エンタテインメントに徹した映画を録画し、昨日再生してみました。
『アラベスク』(1966)という作品です。ネットの事典ウィキペディアは、本作を「サスペンス映画」としていますが、私の感想では、「ナンセンスコメディ映画」がふさわしいように感じます。
話の展開は、村上の『ねじまき鳥クロニクル』(1994・1995)に通じるところがあります。しかし、エンタテインメントとしての出来は、『アラベスク』に軍配を上げざるを得ません。
なっといっても、村上の『ねじまき鳥_』は、書いている本人がわからないまま終わっている(?)のに対し、『アラベスク』は、はじめから終わりまで、しっかりした構成によって組み立てられています。
村上の『ねじまき鳥_』を映画化しても、結局、何が何だかわからない、ドタバタ作品になってしまう(?)でしょう。
私は米国を中心とする外国映画が好きで、それなりに見ているはずですが、本作は初めて見ました。
主演は、グレゴリー・ペック(1916~2003)とソフィア・ローレン(1934~)です。
主演以外の出演者は、初めて見たような人ばかりです。それでいながら、違和感はなく、それだけ、役者の層が厚いことが実感できます。
監督はスタンリー・ドーネン(1924~2019)。あの有名なミュージカル映画『雨に唄えば』(1952)を、主演のジーン・ケリー(1912~1996)と監督したことでも知られる人です。
それにしても、本作のような作品を監督しろといわれても、場面が多岐に渡り、展開もスピーディにさせなければならず、しかも、グレゴリー・ペックとソフィア・ローレンを魅力的に使わなければならない制約がつくのですから、尻込みする人が多いのではなかろうか、と想像します。
ソフィア・ローレンといえば『ひまわり』が良く知られます。この作品が公開されたのは1970年です。『アラベスク』は1966年の公開ですから、それより4年前の作品になります。
ソフィア・ローレンという女優は独特な印象です。それまでの欧米型の美女ではありません。押し出しが強く、顔立ちも、いい意味で「濃い」です。
清純さがない代わりに、揺るぎない大人の女性の落ち着きがあります。成熟した印象なのに、性的な魅力はあまり感じさせません。
本作でも、バスルームで上半身裸の彼女が写りますが、それを見て性的に興奮する男性は少ない(?)でしょう。
相手役を演じたのはグレゴリー・ペックですが、確認すると、彼が50歳のときの作品になります。その歳で、といったらなんですが、よくあれだけの体を使った演技をできたものだと思ってしまいます。
それにしても、グレゴリー・ペックが本作で演じるポロックという大学教授は不死身です。これが現実であれば、命がいくつあっても足りません。
映像的には文句をつけるところが見当たりません。どのシーンも、十分すぎるほど色がのり、重厚感のある画作りになっています。
同じ映画用フィルムを使って撮影しても、日本の映画が米国映画に比べて、映像的に見劣りするのはなぜでしょう。
もっとも、日本人と欧米人は顔や体の造りが違い、それが映像に違いとなって表れているのかもしれませんが。
話の筋は書きません。本作について書かれたウィキペディアで確認してみてください。
本作においては、ストーリーはそれほど重要ではありません(?)。ただ画面を見ているだけで、エンドタイトルまで導いてくれます。実にスピーディな場面展開が味わえます。
これを書きながら思い出しました。撮影は、いい意味で「荒っぽい」(?)ところがあります。
主演のふたりが空港へ急行するシーンがありますが、そのときは雨が激しく降っている設定です。ところが、屋外で撮影した日は、陽射しがあるような天気だったようです。
というのも、ふたりが空港へ駆け込んだとき、出入り口のところだけは、ホースでシャワーのように水を撒き、雨が強く振っているように見せていますが、遠くに写る空は、雲の間から陽が漏れているに見えるからです。
空港内を急ぎ足で移動する場面も、人々の頭部や型に陽が当たり、それが光って見えます。
ドキュメンタリー作品ではないのですから、雨のシーンを雨の日以外に撮ってはいけないという決まりはありません。むしろ、晴れた日に雨のシーンを撮れた方が、作り物の映画製作としては、テクニック的に優秀といえましょう。
音楽はヘンリー・マンシーニ(1924~1994)です。村上は、ヘンリー・マンシーニ的な音楽を、エレベーターミュージックなどといって馬鹿にします。
本作の音楽がヘンリー・マンシーニであることを伏せて村上に見せ、見終わったあとに音楽の感想を訊いてみたいです。
「悪くなかったな」と答えたら、彼の音楽に対する発言が、本人の思い込みによるものだというのがわかるでしょう。
本作の音楽は悪くありません。