2008/4/21 感情までマニュアル化?

本日はまず、次の古い音声ファイルを聞いていただけたらと思います。

これは、私もリスナーであり、ときにはリクエスター(=「リクエストする人」ぐらいの意味で使っています)にもなるNHK-FMのリクエスト番組「サンセットパーク」へ出したカードが番組で紹介された場面をエアチェック・テープ(この当時はまだPCも持っていないため、アナログのカセットテープでせっせと録音していました)から抜き出し、音声ファイルに変換したものです。

「FMサンセットパーク」(1994.3.10)から私のリクエスト曲紹介箇所

1994年当時、私は洋楽の曜日だけを聴いていましたが、ここで私のリクエストカードを読んでくれているのは元NHKアナウンサーの日野直子さんです。

今現在、その時間帯(午前6時~6時55分)は「バロックの森」が放送されていますが、2004年までは「あさのバロック」という番組が放送になっていました。

私はその時間帯の放送は、たまに気が向いたときに聴くだけだったのでよくわからないのですが、ネットで目に止まった情報によると、日野さんは2004年で番組が終わるまで、同番組を10年間担当したとありました。とすると、「サンセットパーク」のあとにその番組を担当していたことになるのでしょうか。

日野さんの案内で朝の早い時間、バロック音楽を聴くことで、一日がさわやかにスタートできた印象があります。

冒頭に紹介した音声ファイルですが、うまくお聴きになれない方がいらっしゃるかもしれません。そこで、どんなことを私がリクエストカードに書いているか、文面を音声ファイルから書き起こしておくことにします。

日野:ちょっとねぇ、インディの鞭さん(←σ(^_^)私のことです)のお葉書にコメントしてくださっていることが、短いんですけど、ちょっとねぇ、読ましていただくと、(ここから私の葉書です)私自身、“いい人”として振る舞えないから余計こう感じてしまうのかもしれないんだけれど、“いい人”というのはどうも信用できない。もちろん、“いい人”というのは、いい部分もたくさん持っているんだろうけれど、そればっかりではないんでしょ? 人間ていうのは。なのに、「私の中には、いいところしかないの」てなしゃべり方に聞こえてしまって、何だかウンザリ(´-ω-`)

放送で紹介されたのはこれだけですが、私はその葉書に書いたことを今でもよく憶えています。といって、名前までは記憶にありませんがf(^_^)、葉書にはNHKのAM放送で番組を担当していた女性パーソナリティの実名を書いています。

だからといって、その女性パーソナリティを全否定しているわけではなく、彼女に代表されるような態度が「どうも信用できない」とボヤいているわけです。この葉書が読まれたのはちょうど年度替わりの直前で、そのパーソナリティは年度いっぱいで番組を降板しています。

どうして急にこんな昔のリクエストカードの話を持ち出したのかといいますと、今日の日経新聞の1コーナー「インタビュー・領空侵犯」に目を通すことで私なりに思うところがあったからです。

これは毎週月曜日に掲載されるコーナーでして、各界で活躍されている方々が入れ替わり登場し、その方が日頃疑問に感じていることなどをインタビューに答えます。

本日分には、作家の藤原智美氏(1955~)が登場されています。藤原氏といいますと、昨日の同じ日経の一面コラム「春秋」にもお名前が登場し、そこには「怒る高齢者に作家の藤原智美さんが名づけた『暴走老人』」とあります。

藤原氏登場の本日分見出しは「客のストレス生むだけ 店員はマニュアル捨てよ」です。

世の普通の人は、1日に3回食事を摂ると思います。私はといえば、1日2回です。私は「早寝・早起き・朝ご飯」を子供の頃から変わらず実践しているため、朝食は欠かしません。といっても、焼き魚などで済ますことが多いのですが。

夜も欠かしません。ということで、抜くのは昼です。これには好都合な面もあります。外出したときです。昼食の心配をすることがないからです。食べることに関心が高い人であればそれが逆にネックとなるかもしれません。そういう人であれば、外出時こそが、舌を楽しませるタイミングになるのでしょうから。

私は食べることには関心が高くありません。このことは以前の本コーナーでも書いていますが、私はどんなものでも「まあ、こんなところだろう」と納得して食べることができます。それは逆に、「何か美味いものを食べたい」という欲求にもつながらないことになります。

そんな私はまた、一人でどこかの食堂に入り、食事の時間を持つことができない質です。どうしてもということであれば、食堂に入ることもします。その昔、大型の家電販売店の倉庫でアルバイトをしていたとき、人が足りないと配達のトラックに一緒に乗って行かされることもありました。

そんな時の昼時は、トラックの運転手はあらかじめ弁当を持ってきていたりして、「お前はどこかその辺で食べてこい」といわれ、土地勘もないところでめぼしい食堂を見つけ、一人で入店し、汗をかきながら黙々と食べたものです。

店に入るのが苦手といえば、私は未だに理髪店へも入りません。理髪師の話に合わせるのが面倒ですし、大きな鏡の前に長時間座っていなければならないのも私には苦痛です。今ではだいぶ緩和した、と自分では思っていますが、その昔は今よりも赤面症がひどい状況にありました。鏡に映る赤い顔の自分を見るのが私には好きにはなれなかったのです。

そんなわけで、私は接客を受ける機会が乏しく、今の事情は見聞きするだけですが、今のサービス産業というのは、マニュアル化が徹底されているようです。

それで思い出しましたが、これはどこまで本当の話かわかりませんが、ある時、男がファーストフード店へ行ったときのことです。男は、職場の仲間に頼まれたハンバーガーを30個だか50個だか注文します。

すると、若い女性店員が営業スマイルでニコニコしながら、「お持ち帰りですか? それともこの場でお召し上がりになりますか? お召し上がりであれば、お温めいたしますが…」とかなんとかいわれたらしいです。

だいぶ前に聞いた話なので、かなりいい加減な記憶ですが、そういわれた男は「オレは大食いには違いないけど、ハンバーガーを30個も50個も食べるとでも思ったのか?」とビックリしたという話です。

いくらマニュアル化が進んでいるとはいえ、これはいくらなんでも作り話でしょう、と思いたいです。

そうしたマニュアル化が進む以前であれば、仕事を終えたサラリーマンが飲み屋ののれんをくぐり、「オヤジ、熱燗一本」で始まる光景がよく見られた、といったようなことを藤原氏が語っています。

今仮に、マニュアル化が進んだ外資系のコーヒーチェーン店に入り、同じような態度で店員に接したとするとどうでしょう。今の時代、チェーン店にはチェーン店なりの空気が漂い、場違いの空気が、客自身を追いつめることになるのかもしれません。実際、そのような客の作法を許さない空気が店内にはある、と藤原氏は指摘します。以下は藤原氏の話です。

昔はコーヒーが濃いから薄めてほしいなどと客が要求し、店がそれに合わせていました。今は逆で客が店に合わせている。(中略)怖いのはマニュアル化した言葉のやり取りをサービス産業を超えて一般の人間関係にも広がっていること。今の若者の会話はファミリーレストランの店員と客の会話と大して違わない。若者はお互いに衝突を避け、相手の人間的な深い部分には決して切り込まない。その場の空気を読み、そこに自分を当てはめるという作業ばかりしています。

途中でも紹介した昨日の日経のコラム「春秋」では同じようなことを表現を変え、次のように書いています。

罵声が幅を利かせ、教師や医師、接客業で働く人々が燃えつきる社会も疲れるが、正当な理由から声をあげた人が白い目で見られる世の中も息が詰まる。

この「春秋」に簡単に触れておきますと、ひと頃あちこちに出没して人々を警戒させた「モンスターペアレント」に代表されるクレーマーですが、関西の大学で現代思想などを教える内田樹氏(1950~)によれば、「大学へのクレーマーの出足はぱたりと止ま(りました)」ったそうですね。

本日の豆知識
「モンスターペアレント」は日本で生まれた和製英語だそうですが、本場アメリカでは同じような親たちを「ヘリコプターペアレント」と呼ぶそうです。無類のヘリコプター好きの私にとり、実態はともかく、ネーミングには好感度があります。意味するのは、いつも学校上空をヘリコプターで飛び回って自分の子供への扱いを監視するかのように、事あれば学校へ駆けつけてくるからだそうです。

大学での「モンスターペアレント」がぱたりと減った理由ですが、内田氏の分析では、「モンスターペアレント」などの呼び名で世間にクレーマーの存在が悪いイメージで知られるようになり、それが問題化されたことで、民意が自分たちの側にないことを悟ったからだろう、ということです。

加えて、「社会全部を敵に回せる腰の据わったクレーマーはめったにいない」と内田氏は述べているそうで、私は内田氏のこの指摘だけは別の意味で惹かれるものがあります。

藤原氏がおっしゃるように、マニュアル化はサービスを提供する側だけでなく、それを受ける客もそのマニュアルに対応する空気があり、それが若者を中心にストレスの原因になっているのではないか、というわけです。

このことは、藤原氏も指摘していますように、サービス業に限った話ではなく、普通の人々の暮らしの中にもあるのではと思い、本日分の冒頭に昔のリクエスト番組の録音ファイルを紹介したのです。

今から14年前の私がそこで「ウンザリ」とするのは、それに通じる「上辺だけ取り繕っている態度」のことであり、今も昔も私は同じことにウンザリし続けていることになります。

またまた例に出してしまいますが、NHK-FMのリクエスト曲にも応えてくれる音楽番組「サンセットパーク」へリクエストを寄せる雄志集う私設掲示板の書き込みを見るたびに、同じような「ウンザリ」感を私は持ってしまうのです。

彼らはよくいえば「いい子ちゃん」ばかりです。誰かが「A」といえば、みんなが揃って「A」といいます。まとまりがあるといえばありますが、中には「いや、それはBだよ!」とみんなと違うことをいってくれる者でもいれば救われるのですが、そうしたメンバーはひとりもいません。

その団結がいい方に向かうのであれば問題が生じないかもしれません。が、ひとたび誰かへの非難が始まりますと、ここでも「揃ってA」式の反応になってしまいます。実際、新年度から番組を担当することになった一人のパーソナリティへの非難を常連リクエスター1号が始めると、あとはその人間に右へならえであとに続いて非難の書き込みをしているといった有様です。

マイナスの状況下でも波風が立たないその掲示板が問題と考え、私は自分の意見を書き込もうと随分逡巡しました。

私は誰かとの争い自体には逡巡しません。私にそれをさせたのは、たとえ私が非難の書き込みをしたところで、彼らの中の誰か一人でも私に真っ向から対決するような書き込みをしてくれることが期待できなかったからです。内田氏の言葉を借りれば、社会全部を敵に回す気概を彼らはまったく持っていないことに、日頃の書き込みやリクエストカードの文面から、私は気づいているのです。

2000年にその掲示板から離れた時、私はリクエスター1号に挑戦的なメールを送りましたが、綺麗さっぱり無視されました。

ここでまた、中程で紹介した藤原氏の指摘を取り上げさせてもらいます。

若者はお互いに衝突を避け、相手の人間的な深い部分には決して切り込まない。その場の空気を読み、そこに自分を当てはめるという作業ばかりしています。

番組の掲示板に集うメンバーの多くは若者というには歳を食いすぎていますが、彼らも互いを気づかってばかりで、本音の部分には決して切り込んでいきません。それが一番物足りなく感じるところです。

彼らが番組に寄せる便りにしても、上辺をなぞっているだけで、ちっとも心に響いてきません。熱気がありません。冷めたラーメンでも食わされている気分です。結局は、一番肝心なことから遠ざかって生きていることになりそうです。役人に限らず、サラリーマンでもある程度の年齢になると、停年まで問題を起こさず過ごす保身に回るそうです。「穏便に穏便に」で自分から積極的に動くことは控え、その日をただただじっと待つことになります。

同じような姿勢が彼らからも感じられ、それに私はいつも「ウンザリ」しているのです。

彼らが高齢者になった時、自分のそれまでの生き方をどのように振り返り、日々を送るのでしょうか。「間違いは起こさなかった。でも、喧嘩のひとつもしたことがなかった」では淋しすぎやしませんか。

ここで、私の方から彼らに喧嘩を吹っかけてもいいのですが、手応えのある反応があるようには思えないのが実に情けないところです。

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