少し前の投稿で、音楽配信サービスのSpotifyを久しぶりに使いだしたことを書きました。
私はまだ無料のフリープランを使っています。日本では、1カ月に15時間までしかサービスを利用できないと聞きます。私が使い出したのは先々週の金曜日だったと思います。かれこれ15時間以上は優に聴いたはずですが、今朝も普通に利用できます。日本にだけ設定されているらしい15時間縛りが撤廃された(?)のなら歓迎ですが。
前回Spotifyについて書いたときは、提案されたプレイリストの”Fresh Folk”が気に入ったことを書きました。その後、提案されるほかのプレイリストやアルバムを努めて聴くようにしています。
昨日の夕方、聴いたことがなかったアルバムを聴きました。
アルバムジャケットには外国人で高齢の男女が大写しになっています。何も知らなかった私は、高齢の音楽家かミュージシャンのアルバムと勘違いし、聴き始めました。
すると、耳にしたことのあるメロディが流れてきました。曲名はすぐに出ないものの、馴染んだ旋律です。気になってアルバムタイトルを確認し、それが、ある映画のサウンドトラック盤であることに気が付きました。
その映画は、フランスの映画監督、クロード・ルルーシュ(1937~)の作品で、フランスでは昨年の5月、日本では今年の1月末に公開された『男と女 人生最良の日々』(2019)なのでした。
原題は”Les plus belles années d’une vie”とあり、それが『男と女 人生最良の日々』だとは気が付きませんでした。また、その作品が作られ、日本で公開されたことも全く知らずにいました。
音楽は、フランス人作曲家のフランシス・レイ(1932~2018)で、1966年にクロード・ルルーシュが監督して世界的にヒットした『男と女 / Un homme et une femme』そのままの音楽が、おそらくは多少のアレンジを施し(?)、使われているようです。
私は『男と女』はしっかり見たことがないように思います。それでも、フランシス・レイの音楽は有名ですから、「ダバダバダ」のスキャットが耳馴染みとなっています。
私がSpotifyで見た高齢の男女の写真は、1966年の『男と女』で共演した男優、ジャン=ルイ・トランティニャン(1930~)と女優、アヌーク・エーメ(1932~)なのでした。この映画のことを知っていなかったばかりに、頓珍漢な考えを持ったことになります。
かつて世界的ヒットした作品の続編が作られるのは珍しくありません。しかし本作の場合は、50年以上の時を経て、当時の監督と主演男女、そして作曲家が再結集し、『男と女の』の52年後を描くというのですから実に稀です。
作曲のフランシフ・レイは2018年に亡くなっていますから、本作制作の途中で世を去ったことになります。
昔に聴いたラジオで、ゲストの作家・胡桃沢耕史(1925~1994)が話していた話を思い出します。映画のビデオを膨大にコレクションしているということでした。その理由が、時代の記録であったように記憶します。
時代の記録ならドキュメンタリー作品と思いがちですが、胡桃沢の考えでは、劇映画であっても、野外ロケがされていれば当時の街並みや地方の風景が映像に残り、時代の手がかりになるというような理屈でした。
すべてセットで撮影されたような作品の場合も、現代劇であれば、その時代の小物が登場し、野外ロケと同じ意味を持つというような話だったと記憶します。
本作は、『男と女』で共演した俳優が、実際に52年の時を経てスクリーンに帰ってきているわけで、命がけの続編という気がしないでもありません。トランティニャンとエーメは共に90歳に近い高齢になっての演技です。
自分がもし俳優で、その高齢になるまで生きていたとして、自分をスクリーンに晒す勇気が持てるかどうかはわかりません。
本作は、AmazonのPrime Videoを利用すれば、399円でレンタルできることがわかりました。購入は1528円です。時間を見つけて見ることも考えています。
本作が恋愛映画ということで、恋愛そのものについて少し書きます。
私は今、江戸川乱歩(1894~1965)の『随筆・評論』を読んでいます。全部で5集まであり、今は3集の途中です。
乱歩には女嫌いの気配が見えなくもなく(?)、女性への愛を書くこと自体が珍しいような気がします。そんな乱歩が、たしかフランス詩人、シャルル・ボードレール(1821~1867)の詩を紹介しながら書いた随筆があります。
その部分を紹介しようと思いましたが、すぐには見つからないため、記憶だけで書きます。
乱歩がそう感じたというのではなく、詩人はこう書いているとして、愛する女性の髪の匂いを嗅ぐ、というような表現がありました。それを読み、それも確かに愛の行為に違いない、と私は感じました。
映画やドラマでそんな行為が描かれたことがあるか知りませんが、気が付きにくい視点に感じます。
私自身が今、ちょっとした恋心を持っています。そして、もしも、愛する女性がそばにいたら、彼女の髪の匂いを嗅いでみるかもしれません。香水やスタイリング剤がついていない生の髪をです。
生身の人間は、男も女も、好むと好まざるとに拘らず、固有の体臭を持ちます。愛する人の体臭は愛する人だけが持つ体臭なのですから、それさえも自分のものにしたくなるでしょう。髪にはそれほど匂いがないかもしれませんが、微かな匂いにさえ、愛しさが増しそうな気がしませんか?
潮風を受けたあとの髪であれば、潮の匂いがするでしょう。海は生命が誕生する場です。だから、潮の匂い自体に生命の匂いが充満しています。鼻腔でそれを味わうのですから、愛欲は深まるしかありません。
車の運転ができない人も、異性がそれをできるなら、二人で海辺へ行き、潮風に当たるといいでしょう。髪の匂いだけでなく、潮騒のメロディが、耳からも二人のトライを後押ししてくれそうです。
異性が「海を見に行こう」と誘うときは、当人は意識していなくても、互いの愛を深めたい気持ちが強いといえましょうか。
ルルーシュ監督の最新作『男と女 人生最良の日々』をきっかけに、恋愛の話までしてみました。いくつになっても恋する気持ちを持ちたい、と本作は伝えてくれているでしょうか。
見ることがあったら、本コーナーで取り上げることにします。