私は昔から、見たいテレビ番組は録画して見る習慣です。この習慣が出来たのは、民生用ビデオデッキを使い始めた1980年代はじめです。
見たい番組の傾向も決まっています。たまに予定外の番組を見ることがあります。この土曜日(16日)、予定外の番組を録画し、昨日見ました。
その番組は、BS朝日で放送された「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association With CNN」です。毎週放送されている番組のようですが、私は今回初めて見ました。
次回の放送からは、毎週ではなく、不定期の放送となるそうです。
きっかけは、放送された日の朝日新聞テレビ欄「試写室」で本番組が紹介されていたことです。
米国に在住する映画評論家の町山智浩氏(1962~)が、その時々で、米国の旬の話題やニュースを取り上げる番組のようです。今回は、米国で昨年7月に公開が始まり、大ヒットしている映画『オッペンハイマー』(2023)です。
先の大戦の終戦の年にあたる昭和20(1945)年8月に広島と長崎に投下された原子爆弾を研究・製造したマンハッタン計画の下、その研究をする研究所の初代所長になったのがロバート・オッペンハイマー(1904~1967)です。
その彼の生涯を描いた作品であることから、日本での公開は先送りされてきました。それが、今月29日から公開されるのを前に、町山氏の番組で、原爆開発の裏側をリポートする番組です。
朝日の「試写室」を読んだときも、公開が始まる映画の宣伝のような感じを受けました。そのため、番組を進んで見る気も起きなかったのですが、とりあえずといった感じで録画しておき、昨日の午後見ました。
思っていたほど悪い番組ではありませんでした。それを見たことで、今は、問題の映画を劇場まで足を運んでは見ないと思いますが、NHK BSで放送されることがあれば、見てみたいと思うようになりました。
原子爆弾製造は、1942年、ルーズベルト米大統領(1882~1945)の下、ナチスドイツに対抗するために始まったということです。
その研究所が作られたのは、米国のニューメキシコ州のロスアラモスというところです。そこを、町山はNHKのスタッフとともに訪れています。
何車線もある広い道路は、高地まで伸びています。映画でもその研究所は登場するようですが、映画を見るだけでは、そんなに高地にあるようには思われないようです。
実際に足を運んで見ると、山のほとんど頂上で、標高2200メートルということです。そこに研究所を作り、ほかに、家族の住む家や学校などが作られ、人が暮らすための街が作られたそうです。
オッペンハイマーが家族と住んだ家も保存されています。その辺りが、いまは、博物施設のようになっているようです。研究施設では、別の研究が行われているということでした。
州内をもっと南へ行った砂漠地帯に、トリニティ実験場跡があります。そこは、年2回だけ一般公開されているそうです。そこへも、町山はスタッフとともに取材に訪れています。
昨夏に公開された映画『オッペンハイマー』が大ヒットしたこともあり、公開日には、実験場を目指す車の長い行列ができました。
実験場跡は見渡す限り何も見えないような砂漠地帯で、爆発実験をするための鉄塔が建っていた地点に、今はモニュメントの記念碑が立てられています。
かつてあった鉄塔は高さが約30メートルで、その一番上に爆弾を設置し、爆発させました。そうすることで、爆発によってできる衝撃波が球体上に膨張し、エネルギーを最大化できるということです。
爆弾を組み立てた場所も見学しています。原子爆弾を組み立てると考えると、大きな工場や、研究所をイメージするかもしれません。しかし、ごく普通の平屋の民家のようなものがあるだけです。その室内で、爆弾が組み立てられたということらしいです。
トリニティ実験場跡を見学に来ていた米国人らに、町山が取材しています。
その中に、実験場跡の土産物屋で飼ったTシャツを手に持ったふたりの男がいました。
Tシャツには”NOW,I AM BECOME DESTROYER OF WORLDS.”とプリントされています。日本語に訳すと「今、我は死神成り、世界の破壊者なり」となります。
インドの古典『バガヴァッド・ギーター』から引用したものだそうです。
野球帽を被り、サングラスをかけた男性は、「父は死の行進の体験者だ」と町山に語ります。これは、先の大戦中、日本軍がフィリピンのバターン島で、約83キロの距離を3日間で歩いた「バターン死の行進」のことです。
それにより、多数の死者が出たということです。私はこの行進のことは知りませんでした。
結局のところ、戦争によって最も被害を被るのは庶民です。国の大義と関係なく、庶民は苦しめられます。敵も味方も変わりありません。
本作は、このたび行われた第96回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、主演男優賞、助演男優賞の7部門で受賞しています。
29日から日本で始まる公開で、どのような「論争」を巻き起こすでしょう。
途中で書いたように、私の気持ちも少し軟化し、テレビで放送されることがあれば、見てみようと思っています。そして、それを見たなら、本コーナーで取り上げることになると思います。
オッペンハイマーを英雄的に描いていたら、反発を持つことになるでしょう。
この反発は、日本軍に死の行進をさせられた父を持つ男性の反発と、根は同じでしょうか。