「あなたの知らない世界」などと書きますと、何やら、ミステリーや超常現象を扱うテレビ番組のタイトルのようです。
普通に生活している人が「知らない世界」は無数に存在しています。それが専門分野であれば、普通の個人には「知らない世界」です。おそらくは、一生知らないまま過ごすことになるでしょう。
もっと日常的なものでも「知らない世界」が、知らないところで存在し続けていたりします。そして、それに気がつくことで、自分がそれを知らずに生活していたことを気づかされます。
私は昨日、そんな気づきを得ました。
ネットの動画共有サイトYouTubeには、ほぼ無数といっていいほどのチャンネルが存在します。私も日常的に利用していますが、自分が接するのは、ごくごく一部になりましょう。
そして、それまで接したことがなかったチャンネルの動画を見ることで、自分の「知らない世界」がそこにあることに気づかされます。
美術の分野にも非常な博識を持つ人に山田五郎(1958~)という人がいます。
私が山田氏を初めてテレビで見たときのことを今も憶えています。今も深夜に放送されているであろうテレビ番組(私はその番組を見ないので、想像形で書いておきます)に、『タモリ倶楽部』があります。
私は昔から早く寝てしまう生活習慣のため、テレビの深夜番組は見ることがありません。どうしても見たい番組が深夜の時間帯に放送される場合は、録画して見ることをします。
そのときも、当時ですから、ビデオレコーダーで録画して見たのだと思います。その回が何を特集したのかも憶えていませんが、その回に、特異な専門家として山田氏が登場しました。
当時から今のような髪形であったと思います。
山田氏がタモリの番組に登場した時は、「お尻の専門家」という肩書きでした。当時から、今のような話し方だったと記憶しています。
この山田氏がテレビ番組の世界で活躍の領域を得て、今に至っています。
今は見なくなりましたが、「ぶらぶら美術・博物館」という番組に山田氏が出演し、例によって、非常な博識ぶりを披露していたことは知っています。
「ぶらぶら美術・博物館」も、2023年9月27日の放送をもって終了となりました。
こんな山田氏が、YouTubeに進出し、今度はYouTubeで美術作品の蘊蓄(うんちく)を披露していることは知っていました。しかし、これまで、山田氏の動画を見ることは一度もしていませんでした。
それが、おとといの水曜日(21日)、私が敬愛するレンブラント(1606~1669)を取り上げた山田氏の動画がお勧めにあったため、見て、そのあと、本サイトで紹介しています。
そのあと、ベラスケス(1599~1660)の『ラス・メニーナス』(1656)を解説した動画も見ました。
山田氏がレギュラーをする「ぶらぶら美術・博物館」を見ている時に感じたことがあります。それは、画家についてや、画に描かれていることについては詳しいものの、絵画技術についてはあまり関心がないのかなということです。
「ぶらぶら美術・博物館」でも、技術的な話はあまり聴かなかったように思います。
それが、YouTubeの動画で見たレンブラントとベラスケスの回は、速い筆致について語っていたので、新鮮な驚きを得ました。
こんな風にして、山田氏のYouTubeチャンネルが始まって三年目にして、動画に接しました。これも、私にとっては「知らない世界」です。
それでも、それだけだったら、「知らない世界」として本コーナーで取り上げることもありませんでした。もうひとつ、山田氏のYouTubeチャンネルであることを知り、「知らない世界」を実感しました。
山田氏の動画の何本目かに次の動画を見ました。
動画のサムネールには、大きな文字で「大切なお知らせ」とあります。画面の左には、若い女性の絵があります。そして、なぜか、山田氏が眼鏡を外し、ハンカチで目を拭う様子の画像があります。
ずっと山田氏の動画に親しんできた人には、「ついにこの日が来たか」と「衝撃」のようなものを、このサムネを見ただけで受けたのではありませんか?
サムネに写る山田氏がなぜ涙を拭っているのか、動画を見てわかりました。
サムネにある線書きの女性の絵は、その女性が描いたものでしょう。この女性は「ワダ」という女性で、25歳です。このワダさんが、山田氏のYouTubeが始まった時から、助手のような役で関ってきたそうです。
山田氏のYouTube動画は、山田氏が椅子に座り、フリップボードに貼りつけた絵画作品を紹介しながら、画家や作品について語るスタイルです。
山田氏がひとりで語っても動画にできますが、ワダさんがカメラの側に座り、山田氏に質問を投げかけたり、山田氏から逆に質問を受けたりして、話を進めるスタイルを採っています。
「大切なお知らせ」の動画に寄せられたコメントを読むことで、ワダさんが、山田氏のYouTubeチャンネルを作ることから関ったというようなことのようです。
ワダさんは特別美術には詳しくないようで、その受け答えは、ときに「天然」を感じさせるということです。ワダさんは画面には映りません。声と、声を文字にしたテロップ、そして、ワダさんが描いたイラストだけで登場しています。
山田氏の動画を楽しみに見ている人は、山田氏の蘊蓄を楽しむとともに、ワダさんの受け答えを耳から聴くのも楽しみにしてきたようです。
そのワダさんが、「大切なお知らせ」の回をもって、山田氏の動画から「卒業」することを動画で知らせています。今から9カ月前のことです。9カ月後の今になって私はこんなことがあったことを知りました。
これこそ、私の「知らない世界」です。
いつも軽妙なおしゃべりを披露する山田氏が、動画開始の場面から、どこかしら、ぎこちなさを感じさせます。笑顔を見せますが、それが無理に作ったような笑顔で、その裏にある、寂しさを感じさせます。
ワダさんはまだ25歳で、新たにやってみたいことが見つかり、山田氏の動画制作からは「卒業」するということらしいです。
ワダさんが関わった2年半の間に、167本の動画を作ったそうです。その感に、山田氏のYouTubeチャンネルの登録者は増えに増え、本日時点で、56.7万人の登録者です。
遅ればせながら、本日、私もチャンネル登録をしました。
山田氏は、動画を卒業するワダさんに対し、「俺は(これからも)続けなきゃダメなの?」と訊くと、ワダさんは、おそらくはいつもの調子で、「(私が決めることじゃないので)お好きに・・・」と答え、山田氏の爆笑を誘っています。
この動画に、とても読み切れないほどのコメントが寄せられています。そのすべてに、ワダさんへの想いが書かれています。
私が山田氏のYouTube動画を見始めたばかりで、それまでに見た動画は、ワダさんが「卒業」したあとに作られた動画で、「大切なお知らせ」の動画を見て、初めて、ワダさんという人を知った次第です。
ですから、コメントにあるワダさんへの視聴者の想いを知って、これこそ本当に、「知らない世界」を知った思いです。それも、9カ月前のことですからね。
ワダさんのあとは、山田氏の事務所の「秘密兵器」と山田氏がいう「ウリタニ」さん(瓜谷茜)という女性が務めています。歌舞伎が好きで、水彩画を描くこともする女性のようです。
ともあれ、「知らない世界」というものはあります。それを知った時は、こんな世界があったのかとただただ驚かされることになります。