ネットの動画共有サイトYouTubeには、さまざまな分野の動画があり、専門的なものも少なくありません。
たとえば、油絵具の扱い方についての動画にどんなものがあるか、”oil painting”で検索をかけると、油絵具を使って描く様子が動画になったものが紹介ページに表示されます。
しかし、人物を描く動画は、満足できるものがありません。
私はそれを実際には再生させていませんが、写真そのままの顔を油絵具で描く動画あり、3年前に投稿されたその動画の再生回数が650万と表示されています。
その数字を見て、自分で絵を描かない人や、鑑賞するだけの人は、このような動画を見て満足するものなのか、と考えました。
実際に見ていないので想像ですが、肌を滑らかに表現してしまったら、油絵具が持つ物質的な魅力をほとんど捨ててしまったのと同じと私は考えます。
番頭の天才と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519)の油彩画が称賛されますが、私はダ・ヴィンチの油彩作品には感心しません。
彼が油絵具の技法として「スフマート」を採用しています。人間の肌を滑らかに描くため、指の腹などで油絵具を薄く伸ばして塗り重ねる技法です。
そのことによって、ダ・ヴィンチの描いた油彩画の油絵具は、輝きを失っています。作品に近づいて見ても、滑らかに塗られた油絵具が確認できるだけで、油絵具が本来持つ物質的な輝きが感じられません。
本日、YouTubeにあった次の動画を紹介しました。
フランス・ハルス(1581~1666)の、自由奔放な筆遣いが残る作品を紹介する動画です。このような作品こそ、眼を楽しませてくれます。
ハルスの筆さばきは、ダ・ヴィンチとは対照的です。画面に近づいて見ると、筆跡がそのまま残され、17世紀に描かれた作品が、たった今描き終えたような錯覚を覚えます。
油絵具は乾性油で練られているため、水分が蒸発して乾くアクリル絵具などと違い、厚く塗られた絵具は、何百年のちも、塗られたままの状態で残ります。
盛り上げた絵具は、盛り上げられたままです。
ハルスが生きた時代も、それ以前の時代の巨匠たちが描いた油彩画に影響を受け、筆跡を残さないように描くよう教えられたりしたでしょう。
どんな分野でも、革新的なものやことは、伝統を打ち破ることでしか生まれません。ハルスがどのように自分の技法を獲得したのかわかりませんが、今に残るハルス流の描き方を会得した時、ハルスは心の中で喝采したでしょう。
その瞬間に、当時も巨匠として知られていたかわかりませんが、あのダ・ヴィンチを自分が乗り超えたと確信したでしょう。
写真と見紛うような絵を油絵で描いても意味がありません。本物そっくりにしたかったら、絵具を捨て、写真を撮ればいいだけです。
物質的な魅力こそが、ほかの絵具にはない、油絵具だけが持つ魅そのもののです。それを活かさなない描き方をしたのでは、油絵具を使って絵を描く意味が薄れてしまいます。