英語の早期教育は?

私が子供の頃から「教育ママ」と呼ばれる人たちや現象がありました。中には「教育パパ」もいたでしょうが、どういうわけか、母親が主流のイメージです。

私は、父が40歳、母が37歳の時に生まれた子供です。両親はすでにいません。また、8歳上に姉がいましたが、姉ももういません。姉との間に次姉がいたはずでしたが、死産でした。

両親は、8年ぶりに生まれたのが私で男の子だったのが嬉しかったのかもしれません。大事に育てられ、勉強しろといわれたことがありません。

学習塾にも通わずに成長しました。通った塾もありますが、それは算盤(そろばん)と習字です。どちらも長くは通いませんでした。

今も昔もといいますか、自分の子供への教育に熱心な親がいます。

本日の朝日新聞に、「早期教育へのギモン」の三回目として、「幼少からの英語熱『異常な状態』」と見出しがつけられた記事が載っています。

記者が、認知科学者の大津由紀雄氏(1948~)に日本の英語教育の事象や疑問をぶつけ、それに大津氏が答える形で記事にしています。

冒頭、記者が次のような現象を大津氏に示し、感想を引き出します。

英語を使って未就学児の保育を行うプリスクールに子どもを通わせる親が増えています。

これに対し、大津氏は次のように感想を述べています。

自分で母語をコントロールできない子どもに大人が英語だけの環境を人為的に与えるのはどう考えてもおかしな話です。(英語教育の過熱ぶりは)率直に言って、異常な状態だと思っています。

この話の続きで、これは極端な話と断ったうえで、自分の子供にたただた英語を話せるようになってもらいたいのであれば、「一刻も早く英語圏に移住してください」と助言するとしています。

グローバル化が進み、英語が話せるに越したことはないでしょう。しかし、多くの日本人は、生涯を日本国内で過ごします。

日本に住んでいても、業種によっては英語を話さなければならないこともあるでしょう。しかし、その場合に要求される英語力は、相手が話したことを理解し、相手に自分の考えを英語で伝えられるレベルだと思います。

「発音に(母国語の)くせがある英語を話す人で国際的に活躍する人はたくさんいます」と大津氏は述べ、中学校から学んでも遅くないと考えを述べられています。

ここまで書いたことに通じる記事が、今月14日の朝日新聞にありました。これも、教育問題を取り上げるコーナーで、見出しには「人間的な幅から生まれる 自分の音色」とあります。

日本で音楽を学ぶ若者に向け、昨年11月にレクチャーコンサートも開いたという、世界的なバイオリン奏者のコリヤ・ブラッハー氏と、バイオリン奏者として活躍された水島愛子氏に、日本の音楽教育の問題点を指摘してもらっています。

記事の冒頭、ブラッハー氏が、クラシック楽器の練習量について、次のような見解を述べています。

日本の状況はドイツと似ていますね。練習量について親がプレッシャーを与えすぎているように思う。

ブラッハー氏の父、ボリス・ブラッハー19031975)が著名な作曲家だったため、若い頃は反発心もあったのか、17歳の時、音楽をやめようとしたことあったそうです。

水島氏は、楽器の練習は、自分がまだできないことをできるようにするためにすべきなのに、日本の子供たちは、「間違えてはいけないという恐怖を感じている」と指摘しています。

これは、受験勉強に通じる話ではありませんか?

出題されそうな問題に的確に答えられるように「訓練」するのが受験勉強の本質です。同じようにクラシック楽器の「訓練」で得られるのは、楽譜通りに正確になぞる演奏技術です。

その結果、志望大学へ合格できたり、音楽コンクールで上位入賞することがあるでしょう。

間違わずに演奏できた音楽コンクール入賞者をもてはやす風潮について、水島氏は次のように感想を述べています。

コンクールの上位入賞者をもてはやし、人間的に未成熟なまま売り出す日本の風潮はすごく危険なことだと思います。

ブラッハー氏は、さまざまな文化、芸術に触れ、スポーツで体を動かすことも大切だと語っています。

それに呼応して、水島氏は次のようないい方で、音楽家が普通の生活をすることの大切さを話しています。

運動もするし、料理や映画演劇に興味を持ち、美術館にも行く。人間的な幅がなければ音楽も狭くなる。

英語教育にしろ音楽教育にしろ、親が間違った考えで子供にそれを強いたら、子供には大きな負担になるだけです。

もっとも、それをする親にしても、我が子を思ってのことでしょう。しかし、本当に子供のことを思うのであれば、もっと広い視野を持ち、正しい助言があるのであれば、それに従うのが賢明です。

「鳶(とび)が鷹(たか)を生む」の諺通りのこともあります。しかしそれはきわめて稀のことといえましょう。親が自身の力量を理解し、その上で、その親から生まれた我が子に見合った期待をかける程度がちょうど良いということです。

それ以上のことを子供に願うのは、親のエゴというものではありませんか? 分相応にまいりましょう。

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