2008/10/23 ヤクザと角力とNHK

糸の切れた凧のように、例によって本日も行き当たりばったりで始めます。「このあと話がどこへ向かうかって? 書いている本人もさっぱりわからないのだから風にでも訊いてくれ」てなところでしょうか(^_^;

さてと、昨日の本コーナーで書こうと思いつつ、途中歯科医院へ行ったこともありますが、書けずじまいだったことを本日こそ書いてみます。が、上手く収まりますかどうか。とりあえず始めてみます。

世間を騒がす大相撲の八百長問題と、それに及び腰のNHKをはじめとするマスメディアの姿勢についてです。

本日分も、「参考文献」代わりに宮崎学氏(19452022)がまとめられた本を拾い読みしながら書いていくことにします。

ヤクザの成り立ちや歴史を様々な文献をひもときながらまとめ上げられたもので、これを読むことで、まったく知らないヤクザの世界はもちろんですが、底辺から見た日本社会を知ることができるように思います。

この本を取り上げた前回分に登場した大親分・吉田磯吉18671936)の話から始めることにします。

吉田磯吉は、幕末に九州北部の町で生まれます。家は代々勘定奉行を務めるなどした家柄だったようですが、江戸から明治へと時代が大きく移り変わったこともあってか、家は落ちぶれ、吉田が育つ頃には家は貧困の中にあったようです。

その逆境を逆手に取るように、吉田はしたたかに、たくましく生きていきます。

一艘(いっそう)の川舟から始めた船頭の世界で 頭角を現し、支持を集め、福岡県の遠賀川(おんががわ)流域で生きる「川筋者(かわすじもの)」といわれる気風の荒くれどもの親分的存在へとなっていきます。

当時、主要なエネルギー源は石炭です。それを採掘するための炭坑が全国各地にありましたが、中でも九州の筑豊炭田は、全国の全出炭量の40%ほどを賄うまでになり、一躍主要拠点となります。

炭坑を控える九州北部の町は好景気に沸き返り、炭坑や石炭の運搬などに携わる男どもが息抜きをする歓楽街は開拓時代のアメリカ西部の町のような賑わいだったそうです。

町には、栄えるにつれてよそ者がドンドン流れ込んでくるようになりました。人が増えれば増えただけ争い事は起こりやすくなります。それが命知らずの男ども同士の争いともなれば、地元の警察力だけでは対応しきれなくなります。

そこに、治安維持を後方援護する町の用心棒役を買って出たのが、肩で風を切るような男どもで、それがいつしか組を作り、ヤクザ組織へと発展していったようです。そして、ここでも元締め役となったのは吉田磯吉という男なのでした。

私は角力(すもう)の成り立ちについては何も知りませんでしたが、「角力は近世以来ヤクザの一種」と宮崎さんは書いています。そして、大衆芸能も含め、興業のほとんどはヤクザによってしきられる伝統があるのだそうです。このように、角力(=相撲)とヤクザは歴史的に持ちつ持たれつの関係にあるようです。

その角力の世界で、明治42(1909)年、ある騒動が持ち上がります。

この騒動以前、角力協会は関東と関西とに分かれて存在し、それぞれ競い合う関係にあったようです。そうした状況下、一方の協会がもう一方の人気力士を引き抜くという事態が起こります。

当時、大阪角力協会で人気を誇っていた放駒(はなれごま)が、東京大角力協会への移籍を表明したのです。宮崎氏が書いているわけではありませんが、おそらくは東側の協会が西の協会の放駒に好条件を提示して引き抜きに成功した結果でしょう。

協会にとり、人気力士は興業という商売上の大切な商品です。ですから、自分の商品を取った相手をやすやすと許すわけにはいきません。当然のように、東西の協会は激しく対立します。

この騒動の調停役を買って出たのも吉田磯吉でした。吉田は両方の顔を立てる筋の通った調停ぶりを見せ、これがきっかけとなり、吉田は相撲興行でも頼りの大親分となっていくのでした。

こうした相撲の歴史を見ると、今に続く業界は、裏社会との関係なしには成り立たない構図であることがわかると思います。お金を取って見てもらう商売である以上、楽しんでもらわなければなりません。

映画作品でもそうですが、筋書きが読める話では見客を楽しませることはできません。相撲興行でも同じことで、裏方はそれに日夜腐心(ふしん:〔ある事を実現しようとして〕心をいため悩ますこと。苦心=広辞苑)しているに違いありません。

いつまでも同じ力士が強いばかりでは飽きられてしまいます。そこで、頃合いを見計らって、新しいスター力士を育てることもするでしょうし、そのためには、力士同士の星(=勝ち星・負け星)の貸し借りだってありましょう。綺麗事ばかりいっているわけにはいきません。何せ、商売であり興業なのですから。

こうした角力興業が見せ物小屋の中だけで行われていた時代であれば、そうした“裏事情”に目くじらを立てる(めくじらをたてる:目角を立てて他人の欠点をさがし出す。ささいな事に、むきになる。目に角を立てる)人もなかったのではないでしょうか。

見に来る見客は、日頃の仕事の憂(う)さ晴らしが目的で、目のまで繰り広げられる大男の力比べが面白ければそれで良し。それが仕組まれた八百長であったとしても、問題にするまでもなかったでしょうから。

しかし、現代は話が違います。そもそもの間違いは、公共放送であるNHKが場所中の取り組みを毎日放送するようになったことです。

NHKは国民から受信料の名目でお金を徴収することで経営が成り立っています。その準国営機関が、ヤクザ社会とつながりの深い興業を盛んに宣伝までして公共の電波で放送している現実があります。

つまり、取り組みが八百長かそうでないかの問題以前に、極めて裏社会とつながりの深い角力をコンテンツとして扱い続けることが公共放送にとってどうなのかが真っ先に問われるべきことだと私は思うのです。

NHKは先頃、暴力団組長との深い付き合いがあったことが発覚したとして、演歌歌手5名をしばらく番組に出演させない措置を決定しています。これはこれでいいとしても、結局ポーズにしか見えないのは、一方で裏社会とつながりの深い歴史を持つ相撲を未だに“スポーツ”として局の重要な番組に位置づけているからです。

一方が悪くて、もう一方は悪くないでは話が通りません。同じようなことでいえば、国民的行事ともいわれる「紅白歌合戦」でも同様の問題を抱えています。何せ、大衆芸能は吉田磯吉の時代から筋の人間抜きには成り立たない歴史があるのですから。

この問題が発覚したとき、NHKで象徴的なニュースが報じられました。相撲協会の規律を外部から監視する役員3名が決まったというニュースです。

それで協会の体質がどう改善されるのかについて、NHKはそれほど関心がないのだと思います。要は、体質が変わるという印象を視聴者である国民に植え付けることだけがNHKの目的のように私には思えました。

だとすれば、確信犯的にNHKは国民の印象を操作したことで、ますます相撲協会との関係が深くなり、それはイコール、裏社会との関係がこれからも続けることをある意味表明したことになりはしないでしょうか?

この角力界と公共放送NHKとの深い関係について、たとえば「クローズアップ現代」で、イージス艦と漁船の衝突事故のときに見せたような異常な熱心さで検証するおつもりはございませんか?

これに付随することがまだ書き足りませんので、次は芸能とヤクザの関係を書いてみたいと思います。

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