わからないことは、自分でわかろうとして、実際にわかるようになるまでは、わからないままです。
今、私の関心は音に向かっています。音の世界も、私にはわからないことだらけです。
本コーナーの前回の更新では、アップルのデジタルオーディオプレーヤー(DAP)のiPod classicで再生する音楽を、オーディオのスピーカーで聴くため、昔に手に入れて、使わないままだったDockという専用のアクセサリーを使うことで、実現できることを話す動画を作り、ページに埋め込んで紹介しました。
その動画は、動画に登場するものを紹介する自分の声を録音するのが別の目的でした。
録った自分の声を編集する過程で、私が初めて使ったプラグインがあり、そのことも、前回の更新では簡単に取り上げています。
音声の編集に私はiZotopeのRX 10 Standardを使っています。このaudio editorで使えるプラグインをいくつもインストールしてはありますが、これまで、積極的には使っていませんでした。
そのため、今回、自分の声を編集する過程で、何の知識もないまま、あるプラグインを適用してみました。
そのプラグインは、Shadow Hills Mastering Compressorというものです。私が使ったのは、PCで使えるようにプログラミングされたプラグインで、格安で提供された期間に手に入れました。
プラグインの基となった実機があり、主に、音楽を制作する人たちに使われているようです。
実機およびその機能を模したプラグイン名には”compressor”がついています。
その昔、私はエアブラシを使ってイラストを描きました。エアブラシを使った作品は、水で薄く溶いた絵具を、精密な霧状にして支持体に吹き付けて描きます。
エアブラシを使いこなしたアーティストで有名なのは、映画『エイリアン』(1979)に登場する生物を作り出したH・R・ギーガー(1940~2014)です。ギーガーは、エアブラシだけを使い、フリーハンドで、どんなものも描けました。
絵画技法のひとつに点描画法があります。絵具を筆で点を置くように描く描法です。その点を極限まで細密にしたのがエアブラシを使った描法です。
エアブラシは、ハンドピースの先から溶いた絵具を拭きつけますが、ハンドピースには圧縮した空気を送るための管がついています。

管の先にはコンプレッサーがあり、それが空気を圧縮し、ハンドピースに圧縮した空気を送っているのです。
そんなような経験を持つため、コンプレッサーがどんなものであるかは想像がつきます。しかし、それが、音で行われるときは、どのような効果を生むのかを、私はよくわかっていません。
わからないのですから、自分で理解ができないまま、自分の声にそれを適用し、動画の語りに使ってしまいました。
その動画を作ったあと、Shadow Hills Mastering Compを理解してみたくなり、ネットの動画共有サイトのYouTubeで関連する動画を何本も見たりしました。
それらを見たことでなんとなく見えてきたのは、音をどのタイミングでどの程度圧縮し、圧縮した音をどのように戻すかを調節するのがShadow Hills Mastering Compという専用機器であり、それを模したプラグインである、というようなことです。
こんな風に書いても、私の理解は、まだ全然足りていませんね。
Shadow Hills Mastering Compにいくつもあるつまみを見ると、「THRESHOLD(スレッショルド)」や「RATIO(レシオ)」などと書かれています。
スレッショルドは「しきい値」のことで、それを上回る音のレベルをレシオでどの程度圧縮するか、自分で設定できるようです。それがわかれば、つまみについている数字の意味がわかります。
Shadow Hills Mastering Compのレシオのつまみには、1.2、2、3、4。6、FLOODの刻みが設けられています。
たとえば、2にしたら2:1ですから1/2、4にしたら4:1で1/4に圧縮する、ということでしょう。
ほかには「ATTACK(アタック)」というのがありますが、これは、音を圧縮させるのにどのくらい時間をかけるか、ということのようです。
ほかには、「RICOVER(リカバー)」のつまみがあります。これは、アタックとは逆に、圧縮した音を元に時間を設定するのに使うのでしょう。
Shadow Hills Mastering Compで特徴的なのは、NICKEL、IRON、STEELと3段階に変更できるつまみがあることです。これは、音色を変化させるのに使うのでしょうか。
Shadow Hills Mastering Compでもうひとつ独特なのは、OPTICALとDISCRETEの2種類のコンプがあることです。これをどんな風に使い分けるのか、私はよくわかっていませんね。
Shadow Hills Mastering Compは、音楽制作で、別々に録音したボーカルや楽器の演奏をミックスときに使うものなのでしょう。
私のように、何かをしゃべっている声のエフェクトに使うのは、極めて特殊な使い方になりますね。私が録音するのは自分の声ぐらいですから、ほかに音の素材を持たないので、自分の声でやるしかほかに方法がないわけですが。
楽器の演奏などであれば、つまみを操作することで、違いがよくわかるのでしょうが、声の場合は、適用前と適用後の違いが、私にはよく聴き取れません。
このように、結果的には無駄なことであっても、それを楽しいと思えれば、個人にはそれが楽しみとなります。
ともあれ、Shadow Hills Mastering Compを使ってみたいことから、芥川龍之介(1892~1927)が自殺した年に執筆した中編小説『河童』(1927)の序を音訳して、その音声ファイルに適用してみました。
録音に使ったのは、ZOOMのフィールドレコーダーF2とそれに付属するラベリアマイク(ピンマイク)です。

マイクは無指向性のコンデンサーマイクで、どの方角からも音を拾えます。このマイクを胸元につけて収録しています。
まだテストの段階で、設定は滅茶苦茶だったかもしれません。今後、何度もトライし、少しずつ、使い方のコツを掴んでいこうと考えています。