久しぶりで松本清張(1909~1992)の小説を読みました。おそらくは初めて読んだ『黒の回廊』です。読み終わって作品名を見ますと、話と結びつかないような気がしないでもありません。
少なくとも、私がこの作品名を聞いて、本作で描かれている話をイメージすることはできそうにないです。
本作を読むきっかけは、Amazonの電子書籍で、該当する書籍にはポイントが50%つくキャンペーンが展開され、本作がそれに該当したからです。
本作について、ネットの事典ウィキペディアで確認すると、1970年代に文藝春秋社(1923~)から、月1回ぐらいの割合で刊行された第1期(1971年4月~1974年5月)の松本清張全集に添えられた月報で連載された作品だそうです。
連載によって作品が発表されることは多いですが、月報に連載するというのは変わっています。しかも、3年にもわたっており、プロの作家とはいえ、モチベーションを保つだけでも大変そうに、素人の私は想像してしまいます。
文藝春秋社が同社の60周年を記念して刊行した松本清張全集は私も定期購読しました。おそらくは、56巻すべて購入しているはずです。ですから、その月報とやらも当然目にしているはずです。しかし、それで『黒い回廊』を読んだ記憶が消えています。
手元にある同全集から、45巻の『棲息分布 / 中央流砂』を引っ張り出してきました。これは、全集の第2期の第4回配本になるようです。
箱に入った本の扉を開けると、なるほど、月報が入っていました。月報は1枚の紙を折って4ページにしています。
この巻に入っている月報は、清張の『着想ばなし(4)旧い「着想」日記から』です。1ページ目には、清張が16歳だった夏に撮られた写真が添えられています。清張の文章は3ページで、4ページ目には、講談社開発室長で、『ペントハウス』日本版編集長(いずれも当時)の名田屋昭二氏の『”名人芸”のころ』という随筆が刷られています。
それにしても、月報もそうですが、本の活字がとても小さく見えます。私がAmazonの電子書籍の活字の大きさに慣れてしまったせいでしょうか。虫眼鏡を使わないと読めない感じです。昔はこれを当たり前に読んだわけですが、今からこれを読み返すのは億劫です。
『黒い回廊』は、王冠観光旅行社が企画した、ヨーロッパへの女性だけの団体ツアー「ローズ・ツア」(「ツア」と清張は書いています)を舞台に起こる事件を描いています。時代背景は昭和40年代(1960年代)で、日数は25日間、費用は595,000円です。
ついでまでに、コースは次のように計画されています。
《東京 ⇒ コペンハーゲン ⇒ ロンドン ⇒ エジンバラ ⇒ ロンドン ⇒ チューリッヒ ⇒ ベルン( ユングフラウ登山電車で)⇒ クライネシャイデック ⇒ ジュネーブ ⇒ パリ ⇒ ローマ ⇒ アテネ ⇒ テヘラン ⇒ バンコック ⇒ 香港 ⇒ 東京
今、同じコースを回ったら、費用はどの程度になるでしょうか。
これを読む読者は、自分も一緒にヨーロッパの国々を回っている感覚でページを繰るのでしょうか。私は旅行には興味がなく、実際、どこへも行ったことがありません。これから先行く予定もないです。
そんな私が読むからでしょうか。私は、いつ事件が起きるのかとページを読み進めましたが、半分を過ぎても事件は起きませんでした。
外国で事件が起きれば、その国の警察が事件を調べます。外国語でのやり取りを扱わなければならず、清張も苦労しているように感じます。
どの都市でどのような事件が起きたかは、まだ読んでいない人のために、触れずにおきましょう。
その事件が起きる背景は、清張がその作品以前に書いた作品に類似しています。結末がわかった上でもう一度読むと、別の楽しみ方がありそうです。