前回の続きのようなことを書いておきます。
私がこのところハマっている、自分の朗読もどきを録音する際、できるだけ自分が考える良い音で撮ることを探る研究のようなことです。
前回分では、江戸川乱歩(1894~1965)の全集から、乱歩が終の棲家となる東京・池袋に引っ越したいきさつが記録された文章を朗読しました。
この録音には、私が持つコンデンサーマイクのMXL-V67を使い、録音するソフトとして、スタインバーグのWaveLab Castを使っています。
元々の私の声の良し悪しは別にして、低音がそれなりに録れた、と自己満足したわけですが、同じ結果を、ZOOMのフィールドレコーダー、F2と、F2に付属しているラベリアマイク(ピンマイク)を使って得られないか、確かめたくなり、前回と同じ、乱歩の次の文章を朗読してみました。
池袋三 丁目に移転
芝区車町の家は高輪の大木戸あとに近く、京浜国道と東海道線からすぐの場所にあつたので、土蔵の洋室が気に入つて住みついては見たものの、汽車と電車と自動車の騒音が、だんだん耐え難くなつて来た。汽車はときたまだけれども、電車と自動車はひつきりなしに走つているので、殊に自動車のクラクションの音が、神経衰弱になるほど、身にこたえた。一年ほどは何とか辛抱したが、もう我慢ができなくなつて、二た月ばかり借家を物色したあとで、池袋三丁目の今の住居を見つけて、七月に引越しをした。
池袋の家にも昔風の土蔵がついてい た。実はそれが気に入つたのである。地面も広く三百五十坪あり、平家建てで、八、六、六、四半、四半、四、三、三、三、二の十室に湯殿。土蔵は二階建てで延坪十五坪であつた。家賃は月九十円、大きな門がついていて見かけもなかなか立派であつた(但しこの門は後に戦災で焼失した)庭木も豊富であつた。私は土蔵の階下に、車町の洋室の書棚を運ばせて取りつけ、例の彫刻のある大机もそこに置いて数年の間は、この土蔵の中を書斎に使つていた。夏は冷々してよろしいが、冬は寒いので、反射式でなく、動力線を引かなければ取りつけられない、環流式の電気暖房を設けて、寒さを防いだ。
貼雑帳を見ると、池袋に引越した当座は、また新聞雑誌社の訪問があつたようである。文士というものは、度々引越しをすると、その度に新聞や雑誌に新居の写真などが出て、宣伝になるという説があつ たが、なるほどそういうこともあるなと感じ たものである。
江戸川乱歩. 江戸川乱歩 電子全集19 随筆・評論第4集 (Kindle の位置No.11532-11545). 株式会社小学館. Kindle 版.
その結果できたのが、下に埋め込んだ朗読の音声ファイルです。
自分で朗読をして、それを録音し、できあがった音声ファイルの出来を自分で判断するのですから、主観的な感想でしかありませんが、悪くない、と感じました。これで良いのであれば、フィールドレコーダーのF2と付属のピンマイクさえあれば、いつでも手軽に、それなりの独り語りが録れることになり、今後も便利に使えそうに考えます。