昔の一時期、私は脚本家になりたいと考えました。そんなこともあり、その頃は日本のテレビドラマも熱心に見ました。
今思い出すドラマとしては、市川森一(1941~2011)の「淋しいのはお前だけじゃない」(1982)「港町純情シネマ」(1980)、ほかにNHKの土曜ドラマ「男たちの旅路」シリーズ(1976~1982)あたりになります。
それよりも前に見ていたのは、市川森一も何作か脚本を担当した『傷だらけの天使』(1974~1975)でした。
今は日本のテレビドラマはまったくといっていいほど見ません。秀作も数多くあるのかもしれませんが、見てみようという気になりません。
そんな私ですが、ちょうど一週間前の3月28日夜にBS朝日で放送されたドラマは、放送される朝になって気がつき、録画しました。
少し前に原作を読んだばかりの小説がドラマ化されたことを知ったからです。原作の小説を書いたのは松本清張(1909~1992)です。後で知りましたが、BS朝日は、清張没後30年を記念し、3月25日から30日の期間、清張原作のドラマを連続して放送しています。
私が28日に録画したのは、清張の『黒い樹海』をドラマ化した同名のドラマです。予備知識なしに録画したドラマを再生しましたが、出演している俳優は現役の人ばかりで、今回の企画のために新しく作られたドラマ(?)でしょう。
以前にも、BS朝日が放送したドラマを録画して見たことがありますが、そのときのドラマの出来は感心できませんでした。そんなことがあったため、今回のドラマも期待はしていませんでした。
それほど見たくもない気持ちで録画のドラマを再生すると、予想が当たり、見続けるのがつらくなり、まだ三分の一ほどしか見ていません。再び見る気が起きなければ、続きを見ないまま、消去してしまうことになりそうです。
原作の『黒い樹海』が『婦人倶楽部』(1920~1988)という月刊誌に連載されたのは、1958年10月号から1960年6月号です。今から60年以上も前の作品です。これを現代に置き換えてドラマにしているのですから、無理がありすぎます。
清張の作品で特徴的なことは、主人公が自分の頭の中で展開する推理を追うことです。本作では、事故で急死した姉の死の真相を、妹が執拗に追います。
BS朝日のドラマは、2時間強の時間枠でそれを描こうとしていますが、はじめから無理な相談です。若手の人気俳優を主役にあて、安っぽい演技をさせているだけで、妹の心理状態がちっとも描けていません。
本作に限らず、文字の世界で完結している小説は、小説として堪能することをそれを書いた小説家は望んでいます。わざわざ映像化する必要はありません。
とはいえ、たとえば、アルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980)の作品には原作の小説があります。完結している小説を映像化できるのは、それができるだけの才能を持つ者に限られるでしょう。
無能な人間が展望も持たずにドラマを作ってみても、時間とお金が無駄になるだけです。
日本の芸能界には、これはという俳優が育っていませんね。
私は、毎週土曜日の夕方に放送される米国のテレビドラマ『刑事コロンボ』シリーズを楽しみに見ています。好きなシリーズであっても、すべてが優秀なできとはいえません。しかし、俳優の演技を見るだけで楽しくなることがあります。
たとえば、脇役として旧シリーズに5回、新シリーズにも1回出演した、ヴィト・スコッティ(1918~1996)という俳優の演技が私は好きです。
『刑事コロンボ』シリーズについてまとめた本には、コロンボを演じたピーター・フォーク(1927~2011)がお気に入りの俳優、と書かれています。
彼の出演シーンをまとめた動画がネットの動画共有サイトYouTubeのコロンボチャンネルにありましたので、下に埋め込んでおきます。
スコッティがシリーズに初めて登場したのは、シリーズの中でも人気の『別れのワイン』(1973.10.7|1974.6.29 初回放送日 米国|日本 以下同)です。そこでは、高級料理店の恐縮する支配人(※実はコロンボは、犯人を欺くため、裏で工作をした結果なのですが)の役を演じています。
二番目に紹介された出演シーンは、シリーズ34作目の『仮面の男』(1975.11.2|1977.9.24)ですね。
三番目は、『別れのワイン』の次に放送された『野望の果て』(1973.11.4|1974.8.17)です。本作のスコッティは、コロンボに冷たい仕立て屋を嫌味たっぷりに演じています。義兄も『コロンボ』シリーズが好きで、本作を見たあと、スコッティの演技を義兄と称賛しました。
四番目は、カントリーの大御所ジョニー・キャッシュ(1932~ 2003)が犯人役を演じた『白鳥の歌』(1974.3.3|1974.9.21)で、コロンボに熱心にセールスをする葬儀屋を演じています。スコッティがあまりにも達者な演技をするので、話を聴くコロンボの顔が思わずにやついてしまいます。
五番目は、最近放送された(3月26日放送)ばかりの『逆転の構図』(1974.10.6|1975.12.20)に出演した時のものです。ちなみに、本作で犯人役を演じるのは、私の好きな映画『メリー・ポピンズ』(1964)で煙突掃除などをする大道芸人を演じたディック・ヴァン・ダイク(1925~)です。
その犯人が、廃車置き場で口封じの殺人をしますが、その廃車置き場で寝起きする降両者をスコッティが演じ、ピストルの音を聴いていたのです。しかし、アルコール中毒で、証言者にはふさわしくないのでした。
六番目は、シリーズ50作目の『殺意のキャンバス』(1989.11.25)に出演したものです。本作が米国でオンエアされたのは1989年ですから、1975年に出演したときから14年の間が空いています。髪が薄くなり、髭も白いものが多くなっていますね。
コロンボとは絡んでいませんが、本作で犯人の画家を演じた俳優が、スコッティと楽しそうに演じているように見えます。
途中で見るのを止めたBS朝日の『黒い樹海』は、流し見するのも億劫なできで、俳優の演技を注意して見る気にもなりません。若い俳優にありがちな演技としては、驚いたときは眼を大きく開くことです。あれで演技をしているつもりなのでしょうか。
学芸会レベルの演技ともいえない演技に、オーケーを出してしまう監督もどうかしていますね。はじめから、何かを表現する心づもりもないのでしょう。