逃げられない恐怖 清張の『神と野獣の日』

昔、子供向けの雑誌に載っていた話を思い出します。詳細は憶えていませんが、地球上の空気が一斉に数分間なくなるという話です。

普通の人は、呼吸を止めている時間はせいぜい1分間程度でしょう。個人差はありますが、高齢者や幼児はもっと短いかもしれません。

そんな人類にお構いなしに、2分間か3分間、あるいはそれ以上、呼吸ができない事態が目前に迫っていることを知り、人々がパニックに陥る話であったように記憶します。

これを思い出したのは、松本清張にしては珍しいSF的作品を読んだことによってです。

『神と野獣の日』という作品です。1973年に発表された作品のようです。

断魚荘に十六島 清張の『数の風景』

松本清張の自宅の書庫は、夥しい蔵書で埋まっていたそうです。しかも、それらは常に新陳代謝を起こし、書き終えた作品のために使用した資料の本は処分される一方、次に書く作品のための資料が加わったと聞きます。

多方面に関心が向き、ひとたびある方面に関心が向かうと集中してその分野の本を資料として集め、確かめることをしていたのでしょう。

清張はサービス精神が旺盛だったのか、自分が得た知識を自分だけで楽しむことをせず、自作で読者に提供するのを好んだように感じます。

時にはそれが過剰となり、あらすじの展開に必要でないと思われるほど、さまざまな事柄を活字にします。

私は今回も、Amazonの電子書籍サービスのKindle Unlimitedを利用し、追加料金なしで清張の作品に接しました。

私が選んだのは、『数の風景』という長編です。

しっくりこない清張の『山峡の章』

このところは松本清張の作品を読むことが多く、気になる作品に出会うたび、本コーナーで取り上げています。

いずれも、Amazonの電子書籍で読んでいますが、おととい、昨日でまた一冊読み終えました。これも、Kindle Unlimitedの対象の一冊で、追加料金なしで読みました。

清張はデビューが遅かった作家ですが、その割には多くの作品を残しています。名が知られるようになってからは、同時並行でいくつもの作品を連載したりしたでしょう。

片手間仕事で執筆することはなかったと思いますが、これから紹介する作品は、やや粗い作品の印象を持ちました。

その作品は『山峡の章』という長編です。月刊誌の『主婦の友』に、1960年6月号から1961年12月号まで、一年半にわたって連載されています。当時の題は『氷の燈火』であったようです。