本日も油絵具と接する時間を持ちました。
前回の本コーナーでは、油絵具の扱いについて書きました。なかでも、油絵具が持つ透明性を活かしたグラッシ(仏語)、グレーズ(英語)について書いています。
この技法を使わなかれば輝かしい色の表現は難しいと。
これはたしかにそうですが、不透明に使っても、輝かしく見える表現ができます。
私は昨日、透明性を活かした描き方を「研究」するため、描きかけの絵の表面に透明な黄色をグラッシしました。私が使った溶き油は速乾性のため、今朝には表面がカラカラに乾いていました。
これであれば、アクリル絵具を使って描いたときのように、絵具を不透明と透明に交互に使う描き方で油絵具を使えそうだと感じました。
しかし、描き始めると、絵具を不透明に使った描き方に夢中になっていました。前回の本コーナーで書いたことに矛盾したことをしたことになります。
絵具は、チューブから絞り出した状態で、そのまま使いました。乾性油を主な成分として練られた絵具は、適度な粘り気があり、溶き油を使わずに描けます。
パレットに出した絵具から必要な色の絵具を筆にとり、カンバスにのせていく作業は心を愉しくさせます。
輝きのある色にするには、なるべくほかの色と混ぜないことです。
肌の色を作るのであれば白い絵具が中心となります。私が使う油絵具の白はシルバーホワイト(鉛白)です。これに、ほんの少し、ほかの色を加え、その色を必要な部分に、置いていきます。
薄く塗り伸ばすのではなく、筆で盛り上げるような感覚です。
そのように塗った絵具の上に、別の色の絵具をのせると、下に塗った絵具と混じり合い、色の鮮度を保ちつつ、別の色の表現を見せてくれたりします。
レンブラント(1606~1669)も、こんな風にして描いていったのでは、と空想します。
細かい部分も、軟毛の細筆を使わず、豚毛の平筆の端を使い、描いてしまいます。
ベラスケス(1599~1660)は長い筆を使って描いたのでは、と考える専門家が日本にいます。ずっと昔、NHKの「日曜美術館」でベラスケスを特集した時、スタジオに招かれたスペイン美術史を専攻される大高保二郎氏(1945~)がそんな話をされたのを憶えています。
ベラスケスは宮廷画家として、国王をはじめ、宮廷の人々の肖像画を数多く描いています。彼のモデルとなった人々は着飾り、煌びやかなアクセサリーを身にまとっています。
それらをベラスケスの筆は奔放に描きました。近寄ってみると、絵具がデタラメに塗られたように見えます。それが、遠く離れたところから見ると、実に的確に描かれたように見えるのです。
これがベラスケスの描法のマジックで、長い筆で描くベラスケスを大高氏は想像したわけです。
出来不出来を別にすれば、油の具を使って絵を描く時間は、心が充実します。文章を書いているときとは反対に、頭が休まります。
頭が疲れている人は、たまには油絵具に接する時間を持つことをお勧めします。描く題材はなんでもかまいません。絵具と接すること自体が愉しいのですから。