油絵具を使った色の表現を自分なりに「研究」しています。
油絵具が透明水彩絵具と違うのは、色を不透明に使うのが一般的であることです。これは、印象派絵画の時代に油絵の技法が本格的に入ってきた日本で顕著なことといえましょう。
印象派画家は、産業革命によって登場したチューブに入った絵具とカンヴァスを持って戸外へ飛び出し、自然の風景などを前にして、素早いタッチで描いたりしました。アラプリマで描いてしまうため、絵具は不透明に使うよりほかなくなります。
それはそれで魅力的な作品に仕上がることがありますが、油絵具の長い歴史を見ると、印象派画家の描き方は、古典絵画を描いた画家たちとは描き方が大きく異なります。
ただ、古典絵画といってもすべてが同じというわけではありません。時代や地域、また、画家ごとに独自の絵具の扱い方があります。
それはともかく、油絵具を不透明に扱う限り、輝かしい色彩を得ることが難しくなります。
たとえば黄色く塗られた絵具をイメージしてください。
チューブから絞り出した黄色をそのままカンヴァスにのせたら、チューブに入っていたままの黄色です。それが明るい黄色であれば、それはそれで鮮やかに見えるでしょう。しかし、輝かしく見えるかといえば、そうではありません。
輝かしい黄色、あるいは、深みのある黄色にするには、油絵具が持つ透明性を利用する必要があります。
具体的には、白い絵具をカンヴァスにのせます。できれば、物質性を持たせるように、厚塗りである方が効果的です。
その白い絵具をよく乾かします。その乾いた白い絵具の上に、透明性の高い黄色を溶剤で水のように薄く溶き、薄く塗り伸ばします。
このような技法を専門的にはグラッシ(仏語)、あるいはグレーズ(英語)といいます。
このように塗った黄色は、外からの光を下地の白い絵具まで透過させ、跳ね返った光は透明な黄色い絵具の層を透過することで色に輝やきを与えます。不透明に塗った黄色の絵具と比較すれば、見た目の違いは一目瞭然です。
実に緻密な作品を描いた画家にヤン・ファン・エイク(1395~1441)がいます。
彼が描いた絵を見ると、色に深みを感じます。彼の作品を研究する専門家によれば、グラッシのようにして、薄い絵具の層を、乾かしながら、何層も塗り重ねたという話です。
そのようにして表現された色は、赤にしろ緑にしろ、不透明な絵具で塗られた色とはまったく違う輝き方をしています。
こんな描き方ができないか、自分なりに「研究」しています。
グラッシを使った描き方は、私がアクリル絵具を使って描くときの基本的な描き方です。同じことを油絵具でできないか、これまでに何度も試しています。
これがなかなかうまくいかないのは、油絵具の乾燥が遅いからです。アクリル絵具のように、すぐに乾いてはくれません。
もっとも油絵具の油は、アクリル絵具と違って、乾燥することはありません。油は酸素に触れて固まる性質です。そのために長い時間が必要となります。そんなわけで、アクリル絵具で描くようにはいかなくなります。
その描法にまた「挑戦」したくなりました。輝かしい色彩の表現をしたいからです。
今日、透明な黄色をグラッシしてみました。それがどの程度で加筆できるようになるか、確認することにします。
時間のかかる「研究」ですが、やってみるだけの価値はあります。