2013/06/18 真相を覆い隠した「NHKスペシャル・尼崎事件」

ネットが普及したことを一番苦々しく思っているのは誰でしょう? おそらくは、今まで情報発信を独占することができたマスメディアではなかろうかと私は考えます。ネットがない時代であれば、テレビや新聞が報じることを大方の人が信じ、それを疑ってかかる人は、「あんたはホントに疑い深い人だねぇ。アナウンサーがああいっているんだから、そうなんだろうよ。そんなに何から何まで疑っていたら、一緒にいるこっちまで疲れちまうよ」なんてことを妻にもいわれたりしたかもしれません。

あとになってみれば、マスメディアが報じることを疑いの目で見ていた人の直感が、何でもマスメディアのいうことを信じていた人より、感覚的には勝っていたことが実証されました。今でもテレビや新聞で報じられることをそのまま信じ続けている人も少なくないかもしれませんが、疑惑の目で画面や紙面を見つめる人は確実に増えています。

そんな疑惑の目で、今月9日夜にNHK総合で放送された番組「NHKスペシャル」を振り返ることにします。

私は、この番組の放送が確認されると、本サイト内で私が気になったテレビ番組を勝手にピックアップする「私のTV指定席」にリストアップします。が、昔ほどは熱心にこの番組を見なくなり、今はリストアップするだけで、実際には見ないことの方が圧倒的に多くなってしまいました。これは、NHKの報道に対する信頼を失ったことに比例しているかもしれません。

そんな「NHKスペシャル」ですが、9日放送分は、ちょっと意地悪な意味で楽しみに放送を待ち、録画をして見ました。その日は、「未解決事件 File.03 尼崎殺人死体遺棄事件」が放送されています。

兵庫県尼崎に住む犯人一味が引き起こした一連の事件に迫り、真実を伝えよう、とNHKがどこまで本気になったかわかりませんが、伝える番組です。

正直いいまして、私は途中までこの事件に特別関心を持てませんでした。事件が多岐にわたり、また、この事件に関係する人間関係がとても複雑で、それを追うことが大変だったことも、関心をそれほど持てなかったことの一因だったかもしれません。それでも、この事件を追った週刊誌は保存してあり、今回はそれを読み返し、「NHKスペシャル」で報じられたことを“検証”もどきしていくことにします。参考にするのは、昨年11月1日号の『週刊文春』です。

この事件が発覚してしてからしばらくの間、事件の中心人物であった角田美代子(すみだ・みよこ)(既に死亡)の顔写真として、和服姿の中年女性の写真が新聞やテレビで報じられました。本日分の冒頭で書いているマスメディアを信じやすい人は、その写真に写る女を事件の主犯格と信じて疑わなかったでしょう。

しかし、信じられないことに、その写真に写る和服姿の女性は、事件とはまったく関係ない別人であることが明らかになりました。

今回参考にさせてもらう『週刊文春』にも、別人の女性の写真が、凶悪犯人の顔として紹介されています。なぜ顔写真が別人に入れ替わってしまったのか。事件を報じるニュースを捜査関係者も見ていたにも拘わらず、指摘されるまでそれに気がつかなかった(←逮捕した時に顔写真を必ず撮影するハズですから、報道された顔写真が違うことに警察が気がつかないのは考えにくいです)のかなど、発覚当初から、この事件はある条件で共通する深い闇を感じさせました。私は、顔写真が入れ替わっていたことがわかった頃からは、この事件に別の方向から関心を持つようになりました。

「NHKスペシャル」では、いくつもある家族崩壊に導く地獄絵さながらの事件の中から、香川県高松市に暮らしていた谷本家がそのひとつとして検証されています。どのようないきさつで谷本家が事件に巻き込まれてしまったのか、「NHKスペシャル」はまったく触れていません。

私も初めに断った通り、発覚当初は熱心に事件を知ろうとしなかったこともあり、なぜ谷本家が角田に狙われたのか理解しようとしませんでした。私と同じように、この事件を詳しく知らない人は、兵庫県から離れた四国に暮らしていた家族の身に、突然変異のように災厄が降りかかったように感じているかもしれません。

事件の複雑な人間関係を見ていきますと、事件の主犯格につながる人間と無関係ではなかったことがわかります。

ここで、谷本家とつながるキーパーソンに登場してもらうことにします。約1時間半の放送時間があった「NHKスペシャル」で、この重要人物は冒頭近くでたった一度紹介しただけでした。それは男で、名前は「李正則(り・まさのり)」といいます。事件が発覚してから長いこと、NHKがこの事件を報じるとき、男の名を決まって「角田正則」と報じました。なぜ凶悪事件の被告を本名で報じることをNHKはしなかったのでしょうか。

苗字を見ることで、純粋な日本人でないことがわかるでしょう。NHKで長いこと「角田正則」の名で報じられた「李正則」は、1974年に生まれていますが、父は大阪のヤクザで、母は韓国人だそうです。韓国人の母は、結婚前は東大阪市紡績工場で縫い子の下張りをしていた、と『週刊文春』の記事にはあります。

李正則の母は男運がないといいますか、最初の結婚生活はすぐに破綻し、生まれたばかりの子供(李正則)を連れて離婚し、尼崎へ戻り、そこで再婚しています。

嫁ぎ先は皆吉(みなよし)家といいます。この家も事件の舞台となり、母の再婚相手である義父のほかは死亡するか行方不明になったあとのことはまだ詳しく追っていませんので、行方がすでにわかっているかもしれません。

再婚の相手も、「酒と博打(賭博」)を絵に描いたような男」(←『週刊文春』から引用)だそうで、またしても同じようなどうしようもない男と結婚してしまうあたり、男運が悪いというよりも、男を見る目がなかったというべきでしょう。幸せになろうと結婚したのに、結婚したことで前よりももっと苦労してしまうという最悪のパターンです。

皆吉家の長男である二番目の夫は、2年で警察官をやめ、そのあとは小学校の用務員をしていたそうです。競馬、麻雀なんでも好きで、給料が入ると、その日のうちに使い切ってしまうような生活態度だったようです。元警察官なのに、酔ってはもめ事を起こし、ときにはかつての“商売道具”であった警棒を振り回したりしたそうです。

そんな男ですから、家に帰ってきても、良き夫や父でなかったでしょう。連れ子の正則にもきつく当たり、酔うと板の間に正座させ、ぐだぐだと説教をしたそうです。

正則は野球部に入り、高校の時は愛知県内にある強豪校の中軸打者を務めたそうです。その頃まではまじめな生活態度だったようですが、高校卒業後は地元の尼崎に戻り、製鉄会社に就職しています。金遣いの荒い義父の借金取りが正則の会社までやってきたりしたこともあったからか、2年ほどで会社を辞めています。そのあとに人生が暗転し、背中に入れ墨を入れるなど、悪の道に落ちていきます。

高校を卒業して10年ほど経った2002年頃といいますから、日本が韓国と共催した(させられた?)サッカーの「ワールドカップ」があった年、角田美代子にクスリを買うためのお金を借りに行ったことが縁となり、角田の犯罪で暴力を担当する“暴力装置”としての役目を請け負うことになっていったようです。

正則の母親の再婚相手だった義父は4人兄妹で、正則の義父のすぐ下の妹が嫁いだ先が高松の谷本家なのでした。まったく縁もゆかりもない家に角田一味が突如乗り込み、家族を崩壊させたわけではなかったということです。NHKが緻密な取材を基に再現ドラマなどを交えて番組にするのであれば、李正則の存在抜きには高松の事件を語れないハズです。が、NHKは何に遠慮をしたのか、そのことに全く触れず、天から降ってわいた災難のように伝えています。

正則から事情を聞いたであろう角田美代子は、谷本家を崩壊させるチャンスを狙っていたのでしょう。2002年の初冬といいますから、すぐ上で書いていますが、正則が角田美代子と知り合った直後、谷本家に嫁いだ妻の実家である皆吉家から、素行の悪くなった正則をしばらく預かってくれと頼まれたそうです。おそらくは、そういう話にし、谷本家に弱みを作らせる一味の計画だったのでしょう。当時、谷本家の上の娘が二十歳で、妹は高松高校の2年生でした。そのため、30歳近い正則を一緒に住まわせることはためらわれ、いくら妻の実家からの頼みとはいえ、預かることを断るつもりだったそうです(尼崎事件>T一家事件:きっかけ)。

しかし、角田一味の犯罪に特有の強引な脅しでもあったのか、谷本家は正則を預かり、矯正させることを渋々受け入れます。そうさせることが角田一味の狙いだったのか、谷本家は正則を数カ月で尼崎に戻してしまいます。そうさせて年が明けた2003年、いよいよ角田一味が大変な剣幕で谷本家に乗り込み、でたらめの悪事を展開します。

角田一味が谷本家に乗り込んで家族を滅茶苦茶にしていく様子はドラマでも再現されています。映像化するのは躊躇われたのか、流れた映像以上の地獄絵図が展開されたようで、家族の羞恥心を奪う目的と逃亡を防ぐ意味もあったのか、服をはぎ取って家族全員を全裸にしたりしたそうです。

角田は因縁をつけてお金を無心していきます。財産を根こそぎ一味に奪われ、それでも足りないといわれたのか、谷本家の夫が妻を背負い、叔父の家に叔父を呼びに来たことがあったそうですが、そのとき、ふたりは素っ裸だったそうです。可愛い娘たちも、裸で街中を走らされたりした、というようなことがネットの事典「ウィキペディア」の記述にありました。こうした人間の尊厳を根こそぎ奪うような場面は、「NHKスペシャル」の再現ドラマにはありませんでした。

谷本家に嫁いだ女性は、李正則の義父の妹です。自分の母が谷本家に嫁いだ女性の兄と再婚したことで、子供時代の正則は義父から厳しくされ、義父の借金取りのために就職した会社も辞めざるを得ないようなことになっています。その恨みを晴らすために凶行に及んだ、と見えなくもありません。

素人の 私でもこんな風に想像できるのですから、NHKの取材班や番組制作のスタッフがそのことに気がつかないはずはありません。それなのに、谷本家に対する犯行を描く場面で、その一番重要なポイントであった李正則との関係をNHKの番組は臭わせることもしませんでした。

そうしておいて、狂言回し的な役回りで出演した作家の高村薫さんには次のようなことをいわせています。

角田美代子という一人の日本人の女性が、どうしてこの土地に生まれてきたか。どうしてこういう犯罪を犯したか。(中略)(事件が)こういう形で結末を迎えるほかなかったということは、同時代に生きている私たち日本人として、許し難いというか、情けないことなんですね。決して自分とは全く関係ない、どこか別世界の話ではない。私たちの社会が、そういう残酷な犯罪を内包しながら、回っている。そういう認識をまず持つことだと思います。

これは、取材のカメラが回り、「この事件についてはどのようにお考えですか?」といったような抽象的な質問を受け、何かしゃべらなければならない、といったような状況で無理矢理しゃべった印象があります。それだから、高村さんはご自分でしゃべりながら、何をしゃべっているのかわからなかったのではないかと私は考えました。

お話になっていることがバラバラで、まとまりを欠くように思います。また、これはネットでも取り上げられていますが、ことさら「日本人」を強調しているのも気になります。主犯の角田美代子を日本人と決めつけていますが、これは正しくないようです。このことについては、次回にこの事件を本コーナーで取り上げるときに書こうと思いますが、少なくとも角田美代子の父は北朝鮮出身であることがわかっています。

また、本日分で書きましたように、角田の一番の手下であった李正則は、母親は韓国出身で、最初の夫であったヤクザの男も、純粋な日本人であったかどうかはわかりません。少なくとも正則の体に流れる血の半分は日本人ではありません。こんなふたりが中心をなす一味が起こした事件を「日本人の犯罪」と決めつける高村さんは、この事件に強い関心を持つというのに、事前の取材が足りなかったのか、それとも、番組を制作したNHKともども別の意図をお持ちなのでしょうか。

角田一味は、相手の弱みに付け込んで追い詰めるのが共通する犯行の手口です。それを伝えるNHKの番組は、被害者を助けて欲しいという通報に耳を貸さなかった警察を厳しく追及しています。確かにそうした面もあり、私も見ていて警察の頼りなさを痛感しました。

しかい、泥棒を取り逃がした警察を責める前に、泥棒を強く責める必要があるのと同じ理屈で、角田一味の犯行そのものを非難すべきです。それなのに、被害者を助けられなかった警察ばかりを問い詰めるような番組を作るのは、事件に関係した警察関係者の弱みに付け込む角田一味のいやらしさに通じるように感じられます。

屁理屈が得意だったであろう角田美代子は、警察に捕まって取り調べを受けても、「捕まえられなかったあんたら(警察)が悪いんやないの!」などと恫喝していそうな気がします。NHKも一緒になって、「そうや、そうや! 被害者を助け出せなかったニホン人のケーサツが悪いんや!」と番組で伝えたかったのでしょうか。

今回の事件を番組で本気になって取り上げるつもりであれば、日本に暮らしている在日韓国・朝鮮人の問題は避けて通れません。それを回避してしまったことで、この「NHKスペシャル」は芯を欠く作り物になってしまいました。

NHKの中にジャーナリストとしての志を持つ人がいるのであれば、もう一度在日の問題と真正面から向き合い、今回の事件を鋭くえぐって見せてください。

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