若い男性タレントを数多く抱え、芸能界とマスメディアで極めて強い影響力を有する芸能事務所の「ジャニーズ事務所」と、ジャニーズ事務所と呉越同舟状態にある日本のマスメディアの問題は、今の日本の悪しき状況を象徴しています。
マスメディアは今になってジャニーズ事務所を創業したジャニーズ喜多川(1931~2019)が生前、芸能界でタレントとして働きたいのなら俺のいうことを聞け、と青少年に性加害行為をしていたことを問題視しています。
そんなマスメディアの報道に接するたびに、マスメディアのご都合主義には辟易させられます。
今の事態を生んだのは、今年の2月でしたか、英国の英国放送協会(BBC)で記者をするモビーン・アザー記者が取材し、BBCの番組で3月にドキュメンタリー番組を放送したことです。
日本では『週刊文春』がそれを記事にし、多くの日本人が認識するところとなりました。
これがもしも、『週刊文春』単独の報道であったら、その後の展開は異なったものになったかもしれません。
昔から日本は外圧に弱い面があります。今回もBBCが取り上げたことで、日本のマスメディアもこれ以上頬被りできない、と上げたくもない腰を上げたように見えます。
本日の朝日新聞は「社説」でこの問題を取り上げています。今月7日になって、ジャニーズ事務所はようやく記者会見を開いています。
それを受け、朝日は「ジャニーズ 出直しと言えるのか」の見出しで、ジャニーズ事務所の対応が未だに不十分であることを書いています。
朝日の社会面には、アザー記者が今回の記者会見を見た感想を載せています。アザー記者は「喜多川氏の問題はまだ初期段階だ」「徹底的に調べる必要がある」と朝日の取材に対し、事務所の対応を批判的に述べたことが伝えられています。
私はジャニーズ事務所の記者会見を見ていません。朝日の本日の「社説」によって、事務所の社長だった藤島ジュリー恵子氏(1966~)が、今回の問題の責任をとって辞めるのを知りました。
替わって社長に就くのは、同事務所のタレント、東山紀之氏(1966~)です。
朝日の「社説」はこのことについて、次のように書いています。
新社長の東山氏は加害者のジャニー氏に近く、旧体制の中心的存在でもある。後継を打診したのは藤島氏だ。同族経営と決別したようには見えない。東山氏によるハラスメントを訴える声があることも会見では話題になった。
ジャニー喜多川による未成年男性に対する病的ともいえる性加害は今になって始まったことではありません。
今回、ジャニー喜多川の性加害問題がマスメディアで表立って取り上げられるようになったことで、ある人が自分の性被害を告白しています。
その人は、作曲家、服部良一(1907~1993)のご次男で俳優をされている服部吉次(本名は「良次」)です。
吉次氏が記者会見を開いて事実を明らかにしています。服部良一は若き日のジャニー喜多川氏とビジネス上で付き合いを持ち、家族ぐるみで交際をしていたそうです。
その縁でジャニー喜多川が服部家に泊まることがあり、1953年、当時22歳だったジャニー喜多川は、8歳だった吉次氏に性加害をしたそうです。
その後も、吉次氏はジャニー喜多川から百回ぐらいの被害を受けた、と記者会見で述べています。
これがジャニー喜多川の性加害のはじまりかどうか知りませんが、ジャニー喜多川にとってこの行為は、生きていくうえで欠かせないことだったのでしょう。
彼と関らざるを得ない青少年にとっては、迷惑この上ない彼の性癖です。
ジャニーズ事務所を作り、魅力的な青少年をタレントとして雇い、マスメディアで彼らに仕事を見つけることは、自らの歪んだ性欲求を満たすための手段であったというよりほかなさそうです。
ジャニー喜多川に性のおもちゃにされた青少年の多くは、それを交換条件にするように、芸能界へタレントデビューするという夢を果たしている形です。
自分の子供をタレントにしたい「ステージママ」の存在は昔から知られています。
吉永小百合(1945~)も、彼女の母がそのような立場であったと聞いたことがあります。
「ジャニタレ」を望んだ母親たちの中には、己の希望を叶えるため、自分の息子をジャニー喜多川の「生贄(いけにえ)」になることを承知したうえで、ジャニー喜多川のもとへ息子を送った人もいたかもしれません。
ジャニー喜多川の悪事は、ずいぶん昔から、私のような一般市民にまで漏れ伝わっていました。ですから、マスメディアがそれを知らないわけがありません。
テレビ局や新聞社、雑誌社などは、ジャニー喜多川の悪事を知った上で、商売上に旨味があることから、悪事を知っていても眼を瞑り、関係を深めてきました。
世界的に見ると歪な関係はおよそ半世紀にもわたります。
その点については朝日の「社説」も認め、「メディアも真価を問われる局面」と書いています。
ジャニー喜多川は故人となり、過ぎ去った半世紀を取り戻すことはできません。できることは、このあとどうするかです。
朝日の「社説」は次のように書いています。
自社が取引先の人権侵害にどう加担したのか検証し、是正を強く求め、履行状況を確認することは、今やあらゆる企業に課せられた社会的責務だ。これまでの経緯の検証をしないままジャニーズに関り続けることは、朝日新聞社も含め、もはや許されない。
私は一度も見たことがありませんが、朝日新聞とは同じ系列のテレビ朝日の音楽番組「ミュージックステーション」は、ジャニーズ事務所のタレントを重用することが業界では有名だそうですね。
それもあってのことでしょう。このたび、ジャニーズ事務所が初めて行った記者会見をテレビ朝日は取材したものの、テレビ朝日の記者が質問を控えた、という記事を見かけました。
本記事で指摘されたことの真意はわかりませんが、テレビ朝日の「ミュージックステーション」がジャニーズ事務所に最大限の配慮をしてきたのであれば、今回のことがあっても、態度を急に変えられずにいるでしょう。
朝日の「社説」に「あらゆる企業」とあるように、この問題は、マスメディア以外の企業でも問われることです。
マスメディア以外の企業がジャニーズ事務所と関わりを持つことがあるとすれば、それぞれの企業の広告にジャニーズ事務所所属のタレントを起用したり、ジャニーズ事務所所属のタレントが出演するテレビ番組のスポンサーになることです。
ジャニーズ事務所が記者会見を開いたことで、早速、ジャニーズ事務所のタレントをテレビコマーシャルに使うのを控える企業が出始めています。
以前、テレビ朝日の「ミュージックステーション」のスポンサー企業を調べてみたことがありますが、よく知られた企業が多かったように記憶します。
これからもテレビ局が姿勢を変えなかったり、ジャニーズ事務所に忖度するテレビ番組のスポンサーから降りない企業があれば、社会の風当たりは強くなることが予想されます。
メディアの受け手である一般市民も、本問題は一過性のものにして、すぐに忘れてしまうのではなく、しつこいくらいに、その是正をマスメディアや関係する企業に求め続けるべきです。
本問題をBBCで取り上げたモビーン・アザー記者は、次のように指摘しています。
事務所名の変更は常識的であり、出発点だ。
類するような性的被害は、ジャニーズ事務所に限ったことではないのではありませんか? ほかの芸能事務所やテレビ、映画、CMの制作現場や、雑誌のモデル撮影現場の現状はどうなっていますか?
今回のことがきっかけとなって、それらの現場が風通しよくなればいいと思います。
そうはいっても、タレントが関わるような業界は、それ以外の業界に比べて、人が本能的に持つ欲が幅を利かせるところがありそうで、いつまでたっても、浄化が望めないのかもしれません。
それだから、これからも同じような問題が生まれては消えていくのでしょう。変えられることがあるとすれば、マスメディアがその種の問題を把握したら、それをいち早く報じ、世に問うことです。
本事案の最大の問題は、半世紀にもわたって、マスメディアが見て見ぬふりを続けたことです。
今後は、見て見ぬふりは止めることです。
それが、マスメディアとして採れる最低限の「出直し」であることが、本事案から得た教訓だといえましょう。