2ボール、1ストライクの次の攻め

前回は高校野球の話題を取り上げました。今回はプロ野球の話題を書きます。

といっても、今の話ではありません。58年昔の1965年の話題です。東京五輪の翌年になりますね。

今は大谷翔平選手(1994~)の活躍もあり、野球ファンの眼はメジャーリーグベースボール(MLB)に向かいがちです。今から60年ぐらい前は、日本のプロ野球、中でも長嶋茂雄1936~)や王貞治1940~)らスター選手が揃っていた読売ジャイアンツ(巨人)が注目の的だったでしょう。

巨人は日本シリーズ(日本選手権シリーズ)で9連覇し、V9などといわれたりしますが、それが始まったのが1965年の日本シリーズです。巨人の監督は、1961年に就任した川上哲治19202013)です。

その年、巨人と日本一を争ったのは南海ホークス(現 福岡ソフトバンクホークス)です。南海の当時の監督が誰だったか知りませんが、野村克也19352020)が在籍していただろうことは私でも想像できます。

その日本シリーズの第4戦のある場面について山口瞳19261995)が書き、これが記録としても面白く読めます。

本コーナーで何度か取り上げた山口が『週刊新潮』に連載していたコラム「男性自身」11月20日号の「これが野球だ」で書いています。

日本シリーズが始まり、巨人が3連勝したあとの第4試合です。その試合は巨人が後攻めですから、巨人のホーム球場で11月4日に行われた試合になります。

巨人のホーム球場は後楽園球場でしょうが、南海の本拠地がわからなかったのでネットの事典ウィキペディアで確認してみました。当時は大阪スタギアム(通称「大阪球場」)になりましょうか?

その日の先発投手は、巨人が中村、南海が林だったことがわかります。

また、巨人の1番から9番までが山口のコラムでわかりますので、それを書いておきます。

この日の試合は、巨人の中村と南海の林俊宏1944~)による投手戦で、5回の表を終わって、安打は、南海が2本、巨人が1本だったそうです。巨人でここまで唯一のヒット(左前)を打ったのは長島で、王が四球をひとつ選んでいます。

5回裏の巨人の攻撃は、先頭打者の柳田が四球を選び、ノーアウトで1塁に歩きました。南海の林という投手はサウスポーのようです。山口が「左に強い柳田を歩かせてしまった」と書いています。

迎える打者は土井です。ボールが2球続き、2ボール、0ストライクとなります。

そういえば、前回、高校野球の試合の一場面に注目しましたが、そこでも、同じカウントになり、それまでバットの構えをしていた打者が、2ボールのあとの3球目を、ヒッティングに出ています。

プロ野球のバッターであっても、ボールが2球続いたあとは、ストライクボールが来ると山勘を張ったりするする(?)ものでしょうか。

もっともそのときは、土井個人の判断ではなく、ベンチからの指示だったようです。巨人のベンチは、打者と走者にヒットエンドラン(エンドラン)のサインを出します。

これがうまくいけば、先取点につながるか、チャンスが大きく広がります。

結果は、痛烈なライナーとなり、2塁手のジャック・ブルームフィールド1930~)のグラブに収まり、1塁へ送球して、ダブルプレーが成立してしまいます。

テレビ中継の解説者は、「これが野球ですね」といったそうですが、それを聴いた山口は、本当にそうだろうか、土井が2ボール、0ストライクで打って出たのは「当然の策」だろうか、と思案を深めています。

結果オーライで、そのヒット・エンド・ランが成功していれば、「当然の策」か云々の懐疑は消し飛んでしまいます。

山口は、たしか、中学(旧制中学?)の頃まで(だったかな?)は熱心に野球をし、それなりの実績も残しています。

そんな山口は、独自の戦略を立て、それを文章にしています。

2ボールのあとは、絶好球が来たとしても、見送らせるのはどうらだろうか、と。打者は投手と心理的な駆け引きをし、投手を心理的に焦らせることで、打者有利に持って行くことができます。

それは投手の側からも同じことがいえ、打者が疑心暗鬼になるような配球もあるでしょう。

そういえば、以前の本コーナーで、野村克也は打者を打ち取るため、2球続けてボールを要求することがある、というようなことを書きました。

打者としても、次はストライクを取りに来るだろうという心理になりがちです。その心理を読んだうえ、ストライクコースに投げさせます。

打者は「しめた!」とばかりにバットを強振します。しかし、バットは球を捉えられず空振りをするか、ゴロで仕留めることができます。

ストライクコースに要求したのはチェンジアップだったりするため、打者がタイミングを完全に狂わされるからです。

野球経験ない人でもほぼ投げられるカットボール講座。〜Youtube変化球バイブル by Yu Darvish〜

山口は、3球目を見送らせ、カウントが2ボール、1ストライクとさせた上、4球目がストライクであれば、バントという手もあったのではないか、と書いています。

1アウトで柳田を2塁に送り、8番の広岡が不振であっても、期待してみてはどうか、と。結果的にその回に点が入らずに終わっても、6回は1番の柴田から始まることになる、と。

しかも、投手の中村の打順を終えておけば、6回表に守備のピンチが訪れた場合も、投手を換えやすい、といったこともある、というわけです。

58年前はずいぶん昔の話ですが、その時代から見て「昔」の黄金時代には、巨人の千葉茂19192002)、南村侑広(旧姓は「南村不可止〔ふかし〕 19171990)、宇野光雄1917~ 1994)といった打者がいて、彼らであれば、2ボール、0ストライクのケースでも、3球目を簡単に打ちに行かなかっただろうと書いています。

2ストライクが入るまで投げさせ、嫌いな球が来たら右に左にファウルし、四球を得るか、好球が来たら痛打しただろう、と。

前回は高校野球のタイブレークについて書きました。

今は、タイブレークになると、第一打者にバントをさせることが大半です。仮に打たせたら、ダブルプレーにとられる可能性がなきにしもあらずだからです。

しかし、投手の心理を考えれば、一刻も早くアウトカウントをひとつでも増やしたいでしょう。その心理を読み、2ストライクまで待たせるのもひとつの策では、と野球の経験がない私は無責任なことを考えてしまいます。

コントロールの良い投手であっても、タイブレークでは心理的に追い込まれ気味にあるでしょう。いつもは簡単にストライクが入るのに、タイブレークではそれが難しいこともあるかもしれません。

粘った末に、四球を得れば、ノーアウト満塁になり、チャンスが広がります。

凡退に終わっても、ゴロを転がして、バントをしたのと同じように、2人の走者を3塁と2塁に進めることができるかもしれません。

ほかの場面でも、日本では送りバントを多用する傾向にあります。見方を変えれば、これはアウトを相手にプレゼントするようなものです。

ひとつのアウトも無駄にせず、すべてを打ちに行くという戦法もあるのではないでしょうか。もっとも、私は「外野」で好き勝手なことをいっているだけです。

現場でプレーしている選手には、そんなに簡単にいったら苦労しない、といわれてしまうでしょう。

勝ち負けの結果だけでなく、場面場面で選手同士の心理的な駆け引きを見ることをすれば、ひとつの試合を何倍にも愉しめそうです。

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