18歳以下の選手が参加するU-18野球ワールドカップが韓国で開催されています。大会が始まる前、日本は優勝を目指すのだとマスメディが大いに盛り立てていました。
私は高校野球に関心があり、特に地方の大会にはそれが強く、地区予選が始まれば、春、夏、秋とどの大会も球場に足を運びます。
そんな私ではありますが、U-18の大会には関心を持つことができず、テレビで中継されてもまったく見ませんでした。
新聞やネットで結果だけを確認しましたが、昨日行われたオーストラリアとの試合に1-4で敗れ、5位が確定しています。その試合は日本時間の午後1時から行われたのでしょう。下に紹介するのは、昨日の朝日新聞のテレビ欄でその試合を生中継する番組です。

この試合を放送するテレビ朝日は、午後3時まで2時間の番組枠を取ったことがわかります。同じ日の午後2時56分から午後4時まではBS朝日で同じ試合の中継を放送していますので、こちらでは録画分を放送したのでしょう。
ほかに、インターネットテレビのAbemaTVでも今大会の試合はすべて放送しているようです。AbemaTVの資本の半分はテレビ朝日が持ち、放送技術は同局が担当しますので、実質的にはそれも朝日新聞系列ということになります。
夏の大会は朝日新聞社が主催ですし、朝日新聞系列は高校野球には大変な熱の入れようですね。
今日の日曜日、決勝戦と3位決定戦が行われるのかどうか私は知りませんが、そうであれば、朝日新聞グループは大乗り気でテレビ中継をしたでしょう。しかしあいにくなことに、昨日オーストラリアに敗れたことで5位が決定し、決勝戦はおろか、3位決定戦にも進めずに終わりました。
今日の番組表を見ますと、テレビ朝日は午後2時から映画『あん』を放送しますが、おそらくは、U-18の試合中継がなくなったことによる穴埋めの番組でしょう。
これはスポーツに限ったことではありませんが、昨今、テレビや新聞が物事を煽って伝える傾向が制御不可能なほど強まっています。
今回のU-18にしても、代表選手の選出から始まり、合宿と必要以上に煽って報道していました。
注目選手は大船渡高校の佐々木選手です。昨日の番組表でも「最速163キロ佐々木」の活字が躍っています。マスメディアは夏の大会前から佐々木選手を集中的に報じ、地方大会の決勝戦に同選手が出場せずに敗れると、監督の佐々木選手起用について議論させることもしています。
いずれかの試合で佐々木選手が163キロの速球を投げると大々的に報じ、その最速163キロが彼の代名詞のように使われるようになり、テレビ欄でもその数字を誇らしげに使う有様です。
私は、野村克也氏が書かれた『執着心 勝負を決めた一球』という本を、Amazonの電子書籍で途中まで読んだところです。
私は高校野球に関心があると書きましたが、自分ではプレイしたことがなく、技術的なことはわかりません。プロ野球選手や監督として野球に長く関わった野村氏の専門的な話を読ませてもらうことで、頭で技術的なことを理解しようとしています。
野村氏の本は、2012年当時サンケイスポーツで野村氏が担当した試合観戦記をまとめたものが中心となっています。ですので、佐々木選手の存在はまったく想定していないのですが、速球を持っていれば打者を打ち取れるわけではないと随所に書かれています。
では、打者を打ち取るのに何が必要かを一言でいえば「投球術」になります。
現役時代に捕手をしていた野村氏らしく、これが実に巧妙で、読んでいて感心することが少なくありません。たとえばこんな感じです。
打者を打ち取る計画を立て、1球目と2球目にボールコースの球を要求するそうです。そうしておいて、3球目には真ん中よりの球を要求することがあるのだそうです。
打者としても、相手投手の配給を見ながら次の球を想像してバッターボックスに入っています。2球続けてボールになれば、相手投手はこれ以上カウントを悪くしたくないはずだから、次はストライクを取りにくるに違いないと考えます。
そんなところへ、おあつらえ向きに真ん中付近の球がくれば、「しめた!」とバットを出すだろう、という作戦です。
それが打者を打ち取るバッテリーの狙いで、真ん中の直球に見えて、実は、急激にブレーキがかかるチェンジアップだったりするのだそうです。
打者はボールの変化に対応できず、バットが空を切るかボテボテのゴロになる、というような解説でした。いつもそのようにうまくいくのかどうかはわかりませんが、それらの頭脳プレイが捕手には求められるということらしいです。また、その作戦を成功させるには、球速よりも絶妙な制球力が投手には求められるというような話だったと思います。
一概にはいえないのかもしれませんが、野村氏がおっしゃることには、米大リーグの投手というのは、日本の投手によくあるように、コーナーに投げ分けることが少ないようです。
基本的にはストライクコースを狙い、あとは高低の変化をつけて打ち取る、といった感覚でしょうか。
高校野球でもそうかもしれませんが、バッタボックスに立つ打者は、捕手の動きにも神経を使っているようです。それを熟知した現役時代の野村氏は、打者の心理の裏をかくように、ミットを構える位置を工夫したそうです。
たとえば、球審に近づいてあとずさりするといったようなことです。こうすると、打者は、すぐうしろ脇にいるはずの捕手が消えてしまったような感覚になったりする、というような話でした。
打者の感覚を攪乱させたのち、内角に投げ込むと信じ込ませたうえで外角の球を要求し、想定外の投球に打者が対応できずじタジタジとなることを狙ったりするのでしょう。
そうしたことを考えますと、投手の良さを引き出す捕手の重要性も考えなければならなくなります。2012年のペナントレースを見て観戦記を野村氏は書いていますが、プロの捕手に物足りなさを書くことが多くなっています。
しかしながら、高校野球の捕手でそこまでのことを要求するのは無理といえましょう。
今回のU-18に選ばれた選手でいえば、星稜高校から投手の奥川選手と山瀬選手が選出されています。山瀬選手は捕手で、2人は中学時代からバッテリーを組んでいます。ということは、山瀬捕手は奥川投手の良さを引き出す引き出しを多く持っているといえましょう。
この2選手を選出していたのですから、肝心なところでこの2人に任せるといった構想が監督やコーチなど日本のベンチにあれば、違った展開になることもあったかもしれません。
今回のU-18チームの結果には、野球に関心を持つ人を中心に、ネットで見る限り、厳しい意見が寄せられています。
曰く、選出された選手が投手や遊撃手に偏っており、慣れないポジションをやらされた選手が気の毒というようなものが多く見受けられます。
また、全国制覇した履正社高校から1人も選ばれていないのも不自然という声もありました。前回に続いて今回も監督を任されたのは兵庫県の強豪・報徳学園出身で、同校を率いて何度も全国大会出場を果たした永田裕治氏です。
監督1人で選手を選んだわけではなく、高野連の専門家らも加わってメンバーを選出しているはずです。ただ、はじめにも書きましたように、朝日新聞グループが新聞やテレビで書いたり、放送したりすることが前提となっており、話題となっている佐々木選手などは外せないといった、いわゆる“大人の事情”が大きく働いたであろうことは想像に難くありません。
当の佐々木選手から見れば、自分が望まないところで人気取りのパンダにされてしまっており、気の毒です。
国を挙げての大会の選手に選ばれたとなれば、断ることもできなかったでしょう。おまけに、大会が始まってからは、いつ自分が登板するかも事前に知ることができず、不安な気持ちで大会に臨んでいたでしょう。
結果的には、日本チームの敗退につながった韓国戦に先発し、1回だけ投げて終わりとなってしまいました。指に豆ができたことによる降板だそうです。
途中で、野村氏が書いた本の中にあった投球術について書きました。あとでそれがどこに書かれているか確認しました。やはり記憶だけで書いたため、ニュアンスが多少違います。
それは、2012年7月12日に東京ドームであった巨人×広島戦の観戦記です。この試合で先発し、勝利投手になったのは巨人の澤村 拓一投手ですが、その投球術に注文を付ける形で次のように書いています。
標準以上の速球を持ち、 低めにも落とせる。 強烈な印象に残っ て いる投手がい た。 村山実( 阪神、 故人)である。
長嶋茂雄( 巨人)の打ち取り方を質問したとき、その答えは、目からうろこが落ちるものだっ た。
「ポンポンと2球、ボールにして、打ち気になるカウントに仕立て た ところ で、 真ん中周辺に フォーク(ボール)を落とすんです」
内角、 外角については、打者も選球眼を働かせようとするため、 見送られたり、ファウルで逃げられる。ところが真ん中周辺は、その意識が薄れる。しかも高めと低めの見極めは、実は内外角より難しい。村山はまさに、明確な目的意識という包丁さばきで、しかも真ん中周辺という〝 隠し 味〟まで入れて、打者を料理していたわけだ。
野村 克也. 執着心 (Kindle の位置No.852-858). . Kindle 版.
漫然と見ていたのでは見えないところで、その道のプロたちはぎりぎりの勝負をしているのでしょう。
アマチュアの野球でそこまで要求するのは酷かもしれませんが、それが高校野球であっても、捕手の重要性はもう少し注目されてもいいのかもしれません。
近年は高校野球でも打撃に力を入れ、140キロ程度の速球には対応できるチームが少なくありません。その場合、投球術や捕手の配給術を磨くことで、必要な時に併殺で切り抜けられたりできると、試合を有利に運ぶことができたりするでしょう。
ま、これはまったく野球経験のない私が頭の中で空想するだけのことで、グラウンドの上で実際にプレイしたり、プレイしたことがある人には、「それが簡単に実現できたら苦労しない」と馬鹿にされるのがおちですが。
今は、高校野球の選手も、たとえばYouTubeなどを見て、投手であれば球の握り方や投げ方の参考にするそうです。
ポジションが捕手の人は、たとえば野村氏が書いた本などを参考にして、投手の持ち味をより活かすような工夫をすると、試合をしていても楽しくなるかもしれませんね。
見るのが専門の私としては、ときにはそういったことを思い出し、配給にも注目して見ることにしましょう。