新聞に載っていた試写会の記事を見たときから見たいと思っていた映画を見てきました。

『沈みゆく女』というカナダの映画(2000年/上映時間92分)です。
この映画の最大の魅力は、主人公のレイラという女性であり、それを演じる女優でしょう。私もそれに惹かれて見たいと思ったのでした。

ストーリーを、ネタばれしない程度に書いておきます。
舞台は、カナダの緑豊かな自然の中にポツンとあるモーテルです。ちなみに、日本でモーテルといいますと、もっぱらラヴ・ホテルのイメージしかありませんが、欧米では「自動車旅行者のための宿泊所」というのが一般的のようです。
モーテルの近くには、白鳥が羽を休める河があり、深い森が広がっています。
主人公のレイラは、そのモーテルでフロント係をしています。彼女は既婚者で、家には夫が彼女の帰りを待っています。2人の間に子供はいません。
客の数は多くなく、予約客がポロポロと訪れます。その日も初老の男がフロントへやってきました。一人旅をするというその男に、レイラが魅力的な眼差しで尋ねます。
「一人で寂しくはありませんか?」
男が「話し相手が欲しい」と答えると、「もう60ドル払ってくれたら寂しさを解消して差し上げますが」といいます。男から60ドル受け取ると、レイラは自分のポケットにねじ込みました。フロントが暇になった時間を見計らって、レイラは先ほどの男が泊まっている部屋を訪れ、男の身体を慰めてあげるのでした。
作品は直接的な描写を描くことはしません。モーテルの付近に立ちこめる霧のように、静かに見る者の心理に冷たくしっとりとしたイメージが降りてきます。作品全体が、カナダの自然を舞台にしていることも手伝ってか、淡い水彩画のような印象です。
見終わったあとに思い浮かぶシーンのことごとくが雨の日であるかのように、空は薄く曇り、陽射しは一切感じられません。
彼女の性的な施しの噂を聞きつけた男性客がポツリポツリと訪れます。
ある日、ゲイラーという男性客がやってきます。見るからに一癖ありそうな男です。彼には妻子がいるようですが、今は別れて暮らしているとのことでした。レイラが彼の部屋を訪れると、彼はいきなりレイラを殴り飛ばしました。そして、「オレはなぜか暴力を振るってしまう」と告白します。
その後、やはり噂を聞きつけてやってきた別の男にレイプ紛いに犯された彼女をかばったことをきっかけに、レイラはその男に心を許し始めます。
私は映画の中のレイラを見ながら、「何でこうも、つまらない男どもに次々と自分の身体を提供していくのか?」と思い続けていました。年老いた男や暴力的な男。特に、ゲイラーという男には、胡散臭さをずっと持ちながら映画を見続けました。
そしてまた、彼女が何のためにそんなことをしているのか、最後まで描きません。ただ一度、次のような台詞を彼女にいわせるだけです。
「お金が欲しくてしているわけじゃないのよ」
レイラの行動を見て、私はある意味必然的に、泰子の姿とだぶってしまったことを書き添えておきます。本コーナーでもたびたび書いています東電OL殺人事件の被害者の女性です。
彼女ももしかしたらお金が真の目的ではなかったのかもしれない、とふと思いました。
見終わったあと、心の中には、爽快感は残らず、煙った雨の情景と冷たい河で羽を休める白鳥の姿だけが重苦しく残りました。
この作品は、2002年3月8日(金)まで、東京・渋谷の東急百貨店・本店の向かい側にありますCINE AMUSEのWESTで上映中(全席自由席/入れ替え制)です。