2002/02/28 映画『沈みゆく女』

新聞に載っていた試写会の記事を見たときから見たいと思っていた映画を見てきました。

新聞に載った同作品の試写会プレゼント

『沈みゆく女』というカナダの映画(2000年/上映時間92分)です。

この映画の最大の魅力は、主人公のレイラという女性であり、それを演じる女優でしょう。私もそれに惹かれて見たいと思ったのでした。

同作品の当日鑑賞券

ストーリーを、ネタばれしない程度に書いておきます。

舞台は、カナダの緑豊かな自然の中にポツンとあるモーテルです。ちなみに、日本でモーテルといいますと、もっぱらラヴ・ホテルのイメージしかありませんが、欧米では「自動車旅行者のための宿泊所」というのが一般的のようです。

モーテルの近くには、白鳥が羽を休める河があり、深い森が広がっています。

主人公のレイラは、そのモーテルでフロント係をしています。彼女は既婚者で、家には夫が彼女の帰りを待っています。2人の間に子供はいません。

客の数は多くなく、予約客がポロポロと訪れます。その日も初老の男がフロントへやってきました。一人旅をするというその男に、レイラが魅力的な眼差しで尋ねます。

「一人で寂しくはありませんか?」

男が「話し相手が欲しい」と答えると、「もう60ドル払ってくれたら寂しさを解消して差し上げますが」といいます。男から60ドル受け取ると、レイラは自分のポケットにねじ込みました。フロントが暇になった時間を見計らって、レイラは先ほどの男が泊まっている部屋を訪れ、男の身体を慰めてあげるのでした。

作品は直接的な描写を描くことはしません。モーテルの付近に立ちこめる霧のように、静かに見る者の心理に冷たくしっとりとしたイメージが降りてきます。作品全体が、カナダの自然を舞台にしていることも手伝ってか、淡い水彩画のような印象です。

見終わったあとに思い浮かぶシーンのことごとくが雨の日であるかのように、空は薄く曇り、陽射しは一切感じられません。

彼女の性的な施しの噂を聞きつけた男性客がポツリポツリと訪れます。

ある日、ゲイラーという男性客がやってきます。見るからに一癖ありそうな男です。彼には妻子がいるようですが、今は別れて暮らしているとのことでした。レイラが彼の部屋を訪れると、彼はいきなりレイラを殴り飛ばしました。そして、「オレはなぜか暴力を振るってしまう」と告白します。

その後、やはり噂を聞きつけてやってきた別の男にレイプ紛いに犯された彼女をかばったことをきっかけに、レイラはその男に心を許し始めます。

私は映画の中のレイラを見ながら、「何でこうも、つまらない男どもに次々と自分の身体を提供していくのか?」と思い続けていました。年老いた男や暴力的な男。特に、ゲイラーという男には、胡散臭さをずっと持ちながら映画を見続けました。

そしてまた、彼女が何のためにそんなことをしているのか、最後まで描きません。ただ一度、次のような台詞を彼女にいわせるだけです。

「お金が欲しくてしているわけじゃないのよ」

レイラの行動を見て、私はある意味必然的に、泰子の姿とだぶってしまったことを書き添えておきます。本コーナーでもたびたび書いています東電OL殺人事件の被害者の女性です。

彼女ももしかしたらお金が真の目的ではなかったのかもしれない、とふと思いました。

見終わったあと、心の中には、爽快感は残らず、煙った雨の情景と冷たい河で羽を休める白鳥の姿だけが重苦しく残りました。

この作品は、2002年3月8日(金)まで、東京・渋谷の東急百貨店・本店の向かい側にありますCINE AMUSEのWESTで上映中(全席自由席/入れ替え制)です。

気になる投稿はありますか?

  • 子豚の「視線」の意味子豚の「視線」の意味 映画やドラマを漠然と楽しんでいる人は、俳優がどのように演技し、監督やカメラマンが、何を意識して撮影しているかまでは考えたりしない(?)ものでしょうか。 私は古い米国映画が好きですが、いつもそれに注意して見ているわけではありません。しかし、いつもとは違う俳優の「視線」であることに気がつくと、なぜその視線を監督が採用したのかが気になります。 映画における俳優の「視線 […]
  • 撮像管時代を感じさせるドラマ撮像管時代を感じさせるドラマ 現在は、誰もが手軽に動画の撮影ができるようになりました。 デジタルカメラには、レンズから入った光に感光し、像を定着させる撮像素子が搭載されています。 撮像素子が登場する以前は、撮像管が使われていました。 私は昔から映像に興味を持ち、そのときどきに発売される民生用の映像記録機器に興味を持ち、順繰りに使うことをしました。 8ミリ映画を楽しんだあとは、ビデ […]
  • 映画を見る愉しみは人それぞれ映画を見る愉しみは人それぞれ 本コーナーの前回の更新で、話のついでに、アルフレッド・ヒッチコック(1899~1980)が監督した『見知らぬ乗客』(1951)に触れました。 どんな作品でも、印象的なシーンがあります。そして、それが本筋から離れたことであれば、自分にとっての印象深い場面になります。『見知らぬ乗客』にもそんな場面があったことを思い出しました。 作品の中頃、モートン上院議員の家の応接 […]
  • 花嫁の父はつらいよ花嫁の父はつらいよ 私は古い米国映画が好きで、それなりに見ているつもりです。それでも、まだまだ見たことがない面白い作品があることに気づかされました。 今週の木曜日(18日)に、NHK […]
  • 2003/06/21 『男たちの旅路』音声データ2003/06/21 『男たちの旅路』音声データ 本日は、ある事柄について考えていただきたいと思い、サンプルとしてひとつの音声データを用意してみました。 その番組が放送されたのがいつだったのかを本サイト内の「私のTV指定席」(現在このコーナーはありません)で確認したところ、5月31日でした。それはNHK衛星第2で放送されている「BS思い出館」という番組です。 この番組では、NHKが以前に放送した数々の名作ドラマ […]