2001/02/14 彫刻家・舟越 桂

今日2月14日は世の中、ヴァレンタイン・デイだそうですが(←まるで他人事(^^;)、それとは全然関係のないことを書いてみたいと思います。

しかし、そう書きながら実は、最後の部分ではソレに上手く話をつなげたい、という“野望”も持っていたりするわけであり、、、果たして思惑通りに行くことやら。そんなこんなで、いざ_。

私の手元にはかなり昔に録画したビデオ・テープが結構あったりします。

私には元々「収集癖」のようなところがあり、ビデオでも結構マメに録画したりします。もっとも最近では、録画してもあとでそれをあまり見ないという事実に思い当たり、以前ほど熱心ではなくなりました。実際、旅先で撮った写真を撮影後はあまり見ないのと同じように、ビデオの場合も録画することだけに熱心で、そのあとは1度も再生していないテープも数多くあります。

その一方、何度も繰り返して見る録画テープもあります。今日書いてみようと思っているテープは、後者の何度も繰り返し見ているテープの一つです。

それは、『一点中継 つくる』(NHK総合)という番組です。これは10年以上前の1989年に放送されたもので、放送曜日は「毎週日曜日」、放送時間は「23:25~23:45」とテープには記されています。

で、肝心の内容はといいますと、その当時現役で制作していたアーティスト(収録作家の内、須田刻太、工藤哲己など数人は既にこの世を去っています)の制作風景を紹介する番組です。今思い起こすと、私はその番組は途中から見始めた模様で、全放送の内の9人の放送分が録画されています。

先ほども書きましたように、私はこの古いビデオ・テープを何度も再生しているのですが、その中でも私がよく見ているのは舟越桂の回(1989年4月2日放送)です。

ご存じの方はご存じでしょうが、舟越は楠を素材にした具象彫刻作品を制作している彫刻家です。このビデオが制作されてから10年以上経っているため現在はどうかわかりませんが、そのビデオの中の彼は今はなき俳優の松田優作ばりの風貌をしています。

私が舟越の制作場面を好んで繰り返し見る理由にはいくつかあると思いますが、その一つを挙げれば、ただ単に、制作の過程が眼に面白く、また興味深いといった点があります。

舟越は東京芸大大学院に在学中(彼は東京造形大学を卒業後、東京芸術大学大学院美術研究科で彫刻を専攻)、ある寺の住職から仏像彫刻制作の依頼があったそうです。そして、そのことをきっかけにして、彼は木彫の世界に強く心引かれていったようです。

舟越は自宅の物置を改造したという四畳半ほどの狭いアトリエに1日の内の12時間も籠もっては制作を続けています(1989年当時)。

真っ赤な毛糸の帽子を被り、煙草をくわえ、目の前に置かれた木の塊から、まずは粗彫あらぼりで形を整えることから始めます。それは、見ようによっては、無造作にチェーンソーを操っているようにも見えますが、その実、とても緊張を強いられながら作業をしているそうです。なぜなら、この粗彫りの段階で失敗してしまうと、それがその後の作品造りに大きく影響してしまうからです。

今「まずは粗彫りから始める」と書きましたが、実はその前段には長い準備段階があります。それは、モデルを見つけ、その人からモデルの了解を得ること。それから、実際に制作する彫刻のためのデッサンをすることです。

デッサンの話は別にしましても、モデルの方は実際大変なようです。

舟越の場合、職業モデルは使いません。

もちろん、モデルのいない彼のイメージだけを作品にしたものもあるにはありますが、それ以外の場合は、街で見かけた人や飛行機にたまたま乗り合わせた人などで、強く彼の制作意欲を刺激した人にモデルをお願いすることになるようです。ただ、簡単にモデルの依頼に応じてくれることはないそうです。

ある時には、モデルの了解を得るまでに一年半とか2年かかったとか、あるいは相手に申し出る決意をするまでに1年を要した、というようなことを番組の中で語っています。

モデルを得、デッサンが出来上がったら、あとは制作です。

彼のアトリエでは、午後4時になると決まって流れるラジオ番組があるのだそうです。それは何かといいますと、なんと『気象通報』(NHKラジオ第2/周波数:693kH/放送時間:9:10~9:30 16:00~16:20 22:00~22:20)です。

ご存じですか? 気象通報。これは日本全国はもとよりアジアの各地をも含めた気象見測地点や漁船から寄せられる気象データを淡々と読み上げる放送です。私も時々思い出したように聴いたりするのですが、独特の味わいを持った番組です。

番組の中で紹介された舟越のエッセイにもあるように、ただの言葉の羅列のはずなのに、そこには独特のリズムがあります。そして確かに「自らが風となって広いアジアの空を往く」気分にもなります。ともあれ、舟越の好きな番組の一つがこの『気象通報』であるというわけです。

この舟越の場合もそうなのかもしれませんが、画家や彫刻家にとってのモデルというのは、ある種“恋人”の存在に近いのでは、と思わないでもありません。また、いってみれば、出来上がった作品それ自体も恋人であるのかもしれません。

1カ月以上かけた舟越の彫刻作品の完成近く、彼は大理石で出来た眼球をその彫刻にはめ込みます。手鏡の中の反転された画像でデッサンの狂いを確認しながら、彼は細心の注意を払って眼球の向きを微調整します。その時間は長く続き、彼は鏡の中に恋人の姿を見ているかのようです。

何はともあれ、ヴァレンタイン・デイであるないに拘わらず、創作意欲をかき立ててくれるような魅力的な恋人=モデルには出逢ってみたい、というのが私の偽らざる願望、、、だったりf(^_^;)

特別インタビュー「舟越桂、自作を語る」

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