地上デジタル放送の放送開始を間近(12月1日放送開始)に控え、ここ数日、新聞各紙のそれについての報道が急に増えてきました。
ただ、マスメディアの無理矢理な盛り上げぶりを余所(よそ)に、視聴者である一般国民の関心は決して高いとはいえないようです。
それは、放送開始当初から同放送を受信できる地域が限定されていることが原因しているようで、今日の産経新聞の記事によれば、NHK総合の受信エリアは東京・名古屋・大阪の一部地域に限られ、世帯数は1200万世帯だそうです。ただ、意外だったのは、主要三都市のごく限られた地域だけで全国の総世帯数の4分の1をカバーできるという事実です。
現代は核家族化が進んでいるため、世帯数がそのまま人口に正比例しないのかもしれませんが、それにしても、日本の人口がいかに大都市に集中しているのかを意外なところで知らされた気になりました。
ということで、その対象世帯が全てデジタル放送用受信機を備えたなら、開始当初からそれ相当の視聴者数になりそうですが、現実的にはそうならず、そのうち、実際に受信機を備えた世帯は30万世帯に留まっているようです。何しろプラズマ式にしろ液晶式にしろ決して安くはないですからね、目新しさがあってもすぐすぐには手が出ず、致し方ありません。
ともかくも、あと数日で放送が始まる地上デジタル放送の大きな特徴の一つが「双方向放送」であるといわれています。
実際の放送を体験してみないと、それがどの程度のものかわかりませんが、その試金石(しきんせき:価値・力量などを判定する材料となる物事=広辞苑)となりそうなのが暮れの国民的歌番組「NHK紅白歌合戦」である、と今日の産経新聞の記事では伝えています。
「紅白歌合戦かぁ、、、(-_-;)」と紅白嫌いを自認する私としては溜息をつかずにはいられない心境です。過去の遺物でしかない紅白でこれからのテレビ放送の未来を占うのだとしたら、何とも皮肉めいて感じられます。
そんな私の思いは別にして産経の記事に目を通すと、紅白での「双方向放送」の実例が書かれており、以下の三つの条件を満たしている視聴者は「紅白お茶の間審査員」になれるのだそうです。
- 地上デジタル放送の受信可能地域にいる
- 専用受信機かデジタル放送受信チューナーを持っている
- 受信機かチューナーと電話回線がつながっている
以上の条件を満たした「紅白お茶の間審査員」は、番組を見ながら手元のリモコンで「投票画面」を呼び出し、「これは白組が優勢だなぁ」と思ったら青いボタン(なぜに白いボタンではないのか?)、逆の感想を持ったら赤いボタン(こちらはそのまま赤いボタン)を押すことで“審査員”として番組に参加できることになるそうです。
全国のお茶の間審査員の点数を総合したものが2点分用意され、これに会場の特別審査員(今年一年各界で活躍したゲスト審査員)11人(=11点)と会場であるNHKホールの見客審査員(=2点)と加えた15点で勝敗の行方が決まるそうです。
でも、こんなことして一体何が楽しいのでしょうか。私にはその楽しみが理解できません。
第一、音楽に勝ち負けなんてあるんですか? それぞれがいいと思ったらそれでいい世界ではないのですか? というのは余計なお世話で、これも楽しいと思う人だけが楽しめばいいだけの話かもしれません。
ただまじめな話、大げさに「双方向放送」を謳っている割に、実際はこの程度でお茶を濁すということであれば、お茶であるだけに茶番(ちゃばん:ばからしい。底のみえすいたふるまい。茶番劇=広辞苑)と思えなくもありません。
私の場合は今年も「紅白歌合戦」には全く関心は持てず、一年でも早く番組が消えてくれることを願うのみです。
そんなこんなの放送開始が間近に迫った地上デジタル放送ですが、先日(25日)の朝日新聞・経済欄に、ちょっと気になる記事が載っています。大見出しには「ネット家電 統一本格化」とあり、世界のIT(情報技術)関連企業が、テレビやオーディオ機器などを家庭内ネットワークで結ぶための規格統一の作業を進めていることを伝えています。
記事を詳しく見ていくと、その統一規格の必要性を打ち出しているのは、世界のIT企業17社が今年の6月に設立した「DHWG(デジタル・ホーム・ワーキング・グループ)」という団体で、その後25社がこれに新たに加わり、さらに150社以上が入会を検討している、と記事では伝えています。
で、規格が統一されるとどんなメリットがあるかですが、今はメーカーごとにバラバラな規格のものが乱立しており、ネット家電と謳われながら実際には家庭内ネットワークを結べないのが現状ですが、それが一挙に解消され、個人ユーザーは自分の好きなメーカーを自由に選んで簡単に接続することができるようになるそうです。
具体的には、ホームサーバとなるような核となるべきPCを設置し、そこに各部屋のネットワークに対応したいわゆるネット家電をつなげば、各部屋でインターネットはもとより、映像や音楽を共有し、楽しむことができるようになるらしいです。テレビ視聴環境でいえば、ソニーのコクーンのようなネット対応家電で反自動録画された番組を、どこの部屋からでも視聴できるといったイメージでしょうか。
これが実現され一般化すれば、パッケージ化されたDVDやCDといったものは姿を消すのかもしれません。つまりは、それらは店頭で購入するのではなく、ネットを通じてホームサーバのようなものにダウンロードし、楽しむことになるのでしょうから。
ここでも問題になるのが違法コピーの防止で、それへの対策ができない限り家電ネットの普及はないわけで、DHWGとしてもそのあたりを最重点にして今後、統一普及を目指してくるものと思われます。
私自身の感想としては、ネットが普及してきた時点で、従来のアナログ放送は終焉(しゅうえん:死に臨むこと。いまわ。末期。臨終=広辞苑)を迎え、それ以降は光ファイバーを通じたデジタル放送に移行するものと近未来像を描いていました。つまりは、全てがネットに集約されるという姿です。
しかし、間もなく始まる地上デジタル放送は、これまでのアナログとは方式が違うとはいえ、概念的には同じように地上で電波を飛ばし、それを旧態依然としたアンテナで受信して視聴することになり、何ともアナログチックなものを感ぜずにはいられません。
加えて、NHKが「紅白」で実現する「双方向放送」にしても、受け手が放送局へリアクションを起こすために用いられるのはアナログ電話回線(驚き!)なわけで、今現在光ファイバーでネットに接続している私としてみれば、時代遅れの感を強く持ってしまいます。果たして、これが“近未来テレビ”の理想型といえるのでしょうか。
そんなことから、12月1日にスタートする地上デジタル放送も通過的措置にしか過ぎず、本来押し進めるべきは、光ファイバー網を通じた本格的な双方向放送ではないのか、と個人的には思わずにはいられません。
受け手も送り手もない、いい換えれば、送り手が同時に受け手となり、なおかつ、受け手が同時に送り手であるのが本来望まれるべき双方向の姿というべきでしょう。
ですから、12月スタートのデジタル放送をもって「双方向」というのなら、これは全くの子供だましというよりほかにありません。
私が思い描く近未来の放送は、今あるような既存の大放送局といったものはむしろ必要悪(悪ではあるが、社会の現状からいって、それが〔やむを得ず〕必要とされるような事柄=広辞苑)でしかなく、もっと専門的な映像プロダクションのようなものが無数に存在し、それぞれが特定のマニアックな視聴者向けに「中身の濃い番組」を提供するといったスタイルです。
その理想とかけ離れているのが今現在の最大公約数的な放送で、よくいえば万人向けですが、結局は取るに足らない薄味の番組ばかりのオンパレードとなっています。NHK教育の教養番組にしても、いつまで経っても「初心者向け」ばかりが繰り返し放送され、中級者や上級者には物足りないものばかりが放送されています。
著作権の問題があるため、今後、理想の姿にどれだけ持っていけるかわかりませんが、できることなら、最終的には個人放送局のような単位での放送が核になり、個人レベルで個人をターゲットにした番組を自由に選択して視聴でき、かつまた、自分でも放送を発信できるようになったら楽しいだろうとは思います。
少なくとも、「紅白歌合戦」のようなそれこそ万人向けの番組はもう時代にマッチしていないことだけは明らかです。誰もが納得するような番組の作り方は、結局は誰をも納得させることは無理です。
今年の紅白の出場者の顔ぶれを見て、万人が納得しているとは到底思えませんもの。ですから、来年以降もNHKが「紅白」を放送し続けるのだとしたら、少なくとも感覚的には、NHKに将来性はないといえましょう。
NHKさん、もういい加減、紅白やめにしませんか?