フランシス・フォード・コッポラ監督(1939~)の作品に『ゴッドファーザー』三部作があることを知っている人は多い(?)でしょう。
私も知っており、三部作とも見ていると思いますが、象徴的な部分を断片的に憶えている程度です。
この三部作が今週月曜日(14日)から水曜日(16日)まで、NHK BSプレミアムの「プレミアムシネマ」枠で放送が組まれました。それを知ってからも、録画して見るかどうか、迷いました。
どれも長編で、気楽に見られない印象を持つからです。
そこで、とりあえずといった感じで、昨日放送された一作目の『ゴッドファーザー』(1972)を録画しつつ、オンタイム(「放送されている時間」ぐらいの意味で使っています)で見ました。放送時間は約3時間です。
登場人物はだいたい把握しているつもりでしたが、忘れた部分も多く、復習するようなつもりで見ました。
本作は、マーロン・ブランド(1924~2004)が演じるヴィトー・コルレオーネ一族を描きます。ヴィト―は、名前からもわかるように、シチリア出身の移民で、米国のニューヨークで、マフィア組織のドンについています。
コルレオーネ一家に属する人間は皆シチリアの出身か、その血を引く者です。それを米国の俳優が演じるわけですが、米国の俳優にはイタリア系が多いらしく、一目見ただけでイタリア系とわかるような、アクの強さを持つ者ばかりです。
その中に、端役として出演しているひとりの俳優がいることに気がつきました。米国の刑事ドラマ『刑事コロンボ』に端役として五、六度登場したヴィト・スコッティ(1918~1996)です。
本名が芸名になったのかどうか知りませんが、ヴィトという名で、本作のドン・コルレオーネと同名です。
ヴィト・スコッティが『ゴッドファーザー』に出演していたことは知っていました。彼がどんな役で、どんな風に登場するのかと思いましたが、意識して見るまでもなく、はじめのほうに何度も顔を見せてくれています。
彼の役は、ヴィト―の友人のパン屋の親父で、ドンの娘の結婚式用のウェイディングケーキも彼が作ったものとされています。
ドンの娘を誰が演じているかと思ったら、タリア・シャイア(1946~)ですね。彼女は、コッポラ監督の実妹で、シルヴェスター・スタローン(1946~)の出世作『ロッキー』(1976)では、ロッキーの恋人、エイドリアンを演じています。
コッポラ監督の身内としてはほかに、アル・パチーノ(1940~)が演じるドンの三男、マイケルが妻を持ち、生まれたのが男の子で、生まれたばかりのような幼子が教会で洗礼を受ける場面があります。
男の子という設定ですが、それを演じる、といいますか、赤ん坊ですから演じているわけではなく、ほとんど眠った状態だと思いますが、コッポラ監督の生まれたばかりの娘、ソフィア・コッポラ(1971~)が起用されています。
描かれるのが暗黒街の世界ですから、血生臭い場面があとを絶ちません。それもあって、有名な作品でありながら、見るのを躊躇う人が少なくないかもしれません。
ジェームズ・カーン(1940~2022)が演じる長男は猪突猛進型、ジョン・カザール(1935~1978)が演じる次男のフレドは軟弱型、三男のマイケルはマフィアを嫌う秀才型、と描き分けられています。
マイケルは大学で出会ったケイ(ダイアン・キートン〔1946~〕)と結婚し、マフィアから離れた普通の暮らしをしたいと願っています。ケイも普通の家の生れでしょう。
父親のヴィト―としても、マイケルだけは自分の世界へ引きずり込まず、ゆくゆくは米上院議員か州知事になることを望んでします。その地位を、自分の一家が有利になるように使ってくれればいい、と。
マフィアの世界には一番向かないはずのマイケルが、あることをきっかけに一気に開花し、父のあとを継いでコルレオーネ一家を率いていくことになります。
マフィアの世界は他のファミリーとの駆け引きや殺し合いがつきものです。必要なくなれば、自分のファミリーの人間であっても、命令ひとつで命を奪います。
登場人物の中で個人的に印象深く見たのは、コルレオーネ一家と敵対する一家と関係を持つソロッツォという男です。演じたのはアルフレッド・レッティエリ(1928~1975)という俳優です。
気の毒なことに、本作が公開された3年後に心臓発作で急死していますね。享年は47です。人種が違うので当たり前ですが、彼のようにアクの強い俳優が、日本には見当たりませんね。
ほかにも、コルレオーネ一家の最古参の部下を演じたエイブ・ヴィゴダ(1921~2016)も、アクが強い顔で、背も高く、見てくれがいいです。
監督が面白い作品を撮ろうと思っても、自分が望むような役者が揃わなければ、思ったような作品には仕上がりません。観客は、話の筋を追うばかりでなく、目から入って来る映像を、その作品として見るわけですから。
日本にどんな優秀な脚本家と監督がいても、コッポラが撮ったような『ゴッドファーザー』は、日本の俳優では無理ですね。
三部作の一作目を見て、予想以上に面白かったので、本日のパートIIと明日のパートIIIも録画して、しっかり見ることにします。
三部作の三作目ですが、今回放送されるのはパートIIIをそのまま放送するわけでもないらしいです。何でも、コッポラ監督が、全米公開30周年を記念し、映像と音楽を修復し、再編集した作品です。
意外なことに、編集し直された三作目が三作品の中で最も短くなっており、2時間40分ぐらいです。最も長いのは本日放送される予定の二作目で、3時間20数分です。
再編集後の作品は見たことがありませんので、それも含めて愉しむことにしましょう。
ラスト近く、マイケルが砂利道を歩くシーンがあります。足音が砂を噛むように聴こえ、意に反してマフィアの世界に入ってしまったマイケルの内面を物語っているように感じます。