昔に聴いたある噺を憶えています。それをテレビで披露したのは桂米丸(4代目)(1925~)であったかもしれません。
主人公は中年の会社員で、医院を受診し、自分の困りごとを医師に相談します。その相談というのは、体の疲れが取れないことです。
夜はぐっすり眠れるといいます。そうであれば、睡眠によって体の疲れが取れそうに思います。しかし、眠っても眠っても疲れが取れないというのです。
その男の話を聴くと、理由がわかります。
男をAさんとして話を続けましょう。
Aさんは会社員で、日中は仕事をし、疲れた体で自宅へ戻ります。夜になると、疲れているのですぐに眠ってしまいます。Aさんは毎晩、必ず夢を見ます。その夢がAさんを疲れさせるのです。
Aさんの見る夢は毎晩同じです。その夢は、朝、自宅を出るところから始まります。Aさんは夢の中でも会社員をしているのです。
現実の世界と同じように、Aさんは夢の中でも一日仕事をして過ごし、疲れて帰って、眠ろうとするところで夢が覚めます。
夢から覚めた現実世界のAさんは、出社の準備をし、現実の会社へ行きます。
こんな風に、Aさんは寝ても覚めても仕事のしっぱなしで、体が疲れてどうしようもない。先生、私を助けてください、というわけです。
誰もが見る夢ですが、目が覚めたとき、直前まで見ていた夢を憶えていることがあります。昨夜、暑くて寝苦しかったからか、夜中に目が覚めました。そして、目が覚める直前まで見ていた夢を憶えていて、それが面白い夢であったことに気がつきました。
私はひとりで電車に乗って、どこかへ行こうとしているのでしょう。おそらくは、東京都内を走る電車です。
乗り換えて、別の路線の電車に乗ったりします。乗っている最中に何かあったと思いますが、それはよく憶えていません。
たしか、丸ノ内線の電車に乗ったりしたはずです。丸ノ内線であれば、地下鉄ですね。どこかの駅で降りると、都内の駅とは思えないようなところで、ヘンなところだなあと感じたりします。
ほかにも駅に降りた人がいて、その人が階段を上がっていくので、あとをついて上がっていったりしました。
前後のつながりはよくわかりませんが、自分が乗っている車両に、子熊が乗っています。子供でも熊ですから、丸々として大きな体です。
どうやら、その子熊の母熊が別の車両に乗っているらしいです。その母熊が、私も乗っている子熊がいる車両へ移って来たら、危ないのじゃないか、とぼんやり考えたりしています。
夢は荒唐無稽な内容だったりしますが、それらは、自分の頭に残る記憶が基になったりするでしょう。
私は最近、録画してあった昔の古い映画を見ました。その映画に熊が登場していました。
私が見たのは、チャールズ・チャップリン(1889~1977)が監督して主演した『黄金狂時代』(1925)です。この作品は過去にも見て、本コーナーで書いたことがあったはずです。
ほかに見るものがないので、チャップリンの本作を久しぶりに見たというわけです。
本作を見たことがある人であれば、どんな場面に熊が登場するか、憶えている人は憶えているでしょう。
ひとりの人間が持つ想像力には限界があります。面白い夢を見たいと思ったら、映像作品を大量に見るか、人一倍さまざまなことを体験するか、夢の基になる映像を記憶に蓄えておく必要があります。
エロティックな体験が豊富な人が見る夢は、色っぽい内容のものが多いのでしょうか。
冒頭で書いた働きずくめの夢に悩まされる中年会社員に忠告できることがあるとすれば、仕事以外に趣味を見つけ、楽しんでみたらどうですか、といったことぐらい(?)でしょうか。
毎日が会社と自宅の往復だけでは、見る夢の内容も限られたものにならざるを得ないように思えなくもありません。
面白い夢、見ていますか?