チャップリンの長編4作品

依然としてレコーダーに録りためた米国映画を見ることをしています。それも、古い映画ばかりです。個人的には古い映画が好きで、最近の映画はほとんど見ていません。

今回も古い作品ですが、このところ本コーナーで取り上げた作品でも最も古い作品になります。

今回は、「チャールズ・チャップリン特集」の形となります。全部で4本の作品をまとめて紹介しますが、4本を続けて見たわけではありません。

この1カ月、あるいは半月の間に、つまみ食いをするように見ました。見た順に、次の4作品です。

黄金狂時代1925

キッド1921

街の灯1931

モダン・タイムス1936

チャップリンをよく知らない人も、映画に少しでも関心を持つ人であれば、題名ぐらいは聞いたことがあると思います。私ももちろん知っていましたが、じっくり見たのは今回が初めてです。

それぞれの作品の一部分は、ネットの動画共有サイトYouTubeに上がっており、見ていましたが、通して見ることで、この場面がネットに上げられたのかと納得しました。

チャップリンは「チャールズ・チャップリン」18891977)が正式名称(?)なのかもしれませんが、今回の4作品でいえば、その名義でクレジットされているのは『黄金狂時代』だけで、ほかは、「Charlie(チャーリー) Chaplin」となっています。

チャップリンは、それ以前に短編作品を70本以上作り、主演していますが、長編作品は意外と多くなく、全部で11作品です。その中で、今回の4作品は、初期から中期にかけての主要作品です。

『殺人狂時代』(1947)と『ライムライト』(1952)もレコーダーに録画してありますので、いずれ本コーナーで取り上げるかもしれません。

Charlie Chaplin – Le Kid – Présentation du film (VF)

はじめに見た『黄金狂時代』は、ゴールドラッシュに沸いた時代、一獲千金を求めて金鉱探しに加わった男を巡るドタバタです。

Charlie Chaplin – The Gold Rush – Cabin Rocking Over Cliff Edge

今回の4作品は、基本的には音を入れていないサイレント映画です。『キッド』と『黄金狂時代』は、あとになって、音楽を入れたサウンド版が作られたようです。

『街の灯』と『モダン・タイムス』は、登場人物の台詞はありませんが、音楽や効果音ははじめから入れて作られています。

『モダン・タイムス』では、チャップリンが扮する男が、キャバレーで即興の歌を歌って喝采されますが、チャップリン自身が歌っており、映画で初めて地声を披露した作品です。

Chaplin Modern Times ‘non-sense song’

どの作品を見ていても、チャップリンの動きには計算された面白さがあり、天才的なエンターテイナーであることを納得させられます。

『街の灯』では、放浪者のチャップリンが、街のショーウィンドウに飾られている彫像を芸術家になったつもりで見るシーンがあります。

絵画展で、絵がわかりそうな人が、絵に近づいたり、離れたりして見るような感覚です。

そんな動作をするチャップリンを、ウィンドウのこちらから撮影し、チャップリンの後ろには歩道とその先に道路があります。

チャップリンのすぐ後ろの地下で何か工事が行われているようで、道路のアスファルトが畳一畳分ぐらい切り取られ、工事用の鉄板が上下しています。

チャップリンが後ろを見ずに下がり、その鉄板の上まで移動することを何度か繰り返します。

何度目かに、鉄板が下降し、洞穴が出現します。チャップリンが後ろに下がると、鉄板が上昇し、前に移動するとまた下降して穴になる、といったようなことが繰り返され、観客をひやひやさせる趣向です。

Chaplin City Lights Clip 2

最後には、チャップリンを載せたまま鉄板が下降し、慌てて、地面に這い上がります。

同じように、観客をひやひやさせるシーンとしては、『モダン・タイムス』のデパートのシーンがあります。

デパートの夜警の仕事を得たチャップリンが、親を亡くした少女を、誰もいないデパートに招き入れ、おもちゃ売り場にあったローラースケート靴を履いて、デパートの中を移動します。

チャップリンはどんなことも器用にこなし、見事なスケーティングを披露します。

1階まで吹き抜けになった4階のフロアでスケートをし、一歩間違えば、1階まで落ちてしまいそうなところを、目隠しをしてスケートをしてみせたりします。

Charlie Chaplin – Modern Times – Roller Skating Scene
How Silent Movie Special Effects Were Done

チャップリンは完璧主義者で、気に入るまで何度も撮影するため、製作日数と製作費が当初の計画より大幅に嵩んでしまったそうです。

ネットの事典ウィキペディアによれば、『街の灯』で、放浪者のチャップリンと盲目の花売り娘が街で初めて出会う3分ほどのシーンの撮影を、342回撮りなおしたそうです。

本作の撮影日数は534日になってしまったそうですが、出会いのシーンの撮影だけに、368日かけた、とあります。

撮影の旅にフィルムを使うわけですから、使えないフィルムが山のようになり、制作費に跳ね返ることになったでしょう。

Charlie Chaplin – Flower Girl Sequence – City Lights

ディズニーのアニメーションと日本のアニメの違いが何かわかりますか?

ディズニーのアニメは、動きそのものに凝り、その動きだけで観客を楽しませます。それに対し、日本のアニメの多くは、動きそのものよりも、ストーリーを優先します。

それは、人間を使った実写の作品でも共通する点があるでしょう。

特に、サイレント映画で動きを重視するチャップリンの作品は、退屈な動きはありません。その分、ストーリーはシンプルなものが多いです。日本の実写作品とは対照的です。

ひとつのシーンに、考え得る限りの動きを詰め込みます。

日本の作品では省略してしまうところ、一切の省略なしで、できる限りの動きを取り込みます。この動きがパワーとなり、同じ作品を何度見ても愉しむことができます。

『モダン・タイムス』でチャップリンがキャバレーのウエイターの職を得ますが、例によって失敗続きで、客をイライラさせます。

ウエイターのチャップリンが、大きな銀のトレイに料理を載せて客のテーブルに運ぼうとすると、フロアでダンスが始まり、人でフロアが埋まってしまいます。しかも、ダンスで人が激しく動いています。

トレイを人の頭の上まで片手で掲げ、人波をかき分けて客のところへ進もうとしますが、行っては戻され、右に旋回し、左に旋回で、行くことができません。

それを5分とか、それ以上見せます。こんなシーンは、日本映画では撮ろうとしないでしょう。しかしチャップリンは、それこそが画が動く映画の面白さと考えているのです。

Charlie Chaplin – 1935 – Modern Times

動きの面白さでいえば、『街の灯』のボクシングの場面の有名です。

翌朝までに25ドルのお金を用意しなければ、盲目の女性と祖母が、アパートから追い出されてしまいます。盲目の女性から金持ちと勘違いされているチャップリンは、手っ取り早くお金を得るため、それまでやったことがないボクシングの試合に出るのです。

その滑稽なボクシングの場面は、その作品の一場面とは知らず、あまりにも面白いので、YouTubeに上がっていた動画を本サイトで紹介したことがあります。

Charlie Chaplin – Boxing Match (City Lights, 1931)

その場面を撮影するため、試合場のセットを作り、大勢の観客役を集め、その中で撮影を何度も繰り返したのでしょう。

大がかりなセットといえば、『モダン・タイムス』に出てくる製鉄工場のセットも大がかりです。

本作が公開されたのは1936年で、まだテレビ放送はなかった(?)と思いますが、社長は工場の中にある部屋の壁の大きなテレビモニターで工場の様子を、画面を切り替えて監視し、チャップリンが働く5班は作業効率が落ちているから、機械の回転を速くしろ、と支持を出したりします。

工場では大きな歯車やベルトなどが回転し、チャップリンらがその機械に巻き込まれ、歯車の間を移動したりします。

チャップリンの作品には、食べ物も多く登場し、それが顔にぶつかって、顔が生クリームだらけになったり、ボトルに入った酒をズボンの中に注ぎ入れたりするシーンがよくあります。

どの作品も、しっちゃかめっちゃかのドタバタのあと、チャップリンとチャップリンが手を差し伸べた相手が幸せになってエンドマークとなります。

『モダン・タイムス』では、身寄りのない少女とチャップリンが、一度はエンターテイナーとして成功しかけますが、それを失い、それでも、ふたりでいれば何とかなる、と誰も歩いていない道路をふたりで歩くシーンでエンディングとなります。

Charlie Chaplin – Modern Times ending (1936)

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