やっぱり古い米国映画はいいですね。シリアスでなく、カラッと明るいのが私は好きです。
少し前、『花嫁の父』(1950)を本コーナーで取り上げました。
これを監督したのはヴィンセント・ミネリ(1903~1986)です。
ミネリが監督した『バンドワゴン』(1953)を、レコーダーのハードディスクトライブ(HDD)に残してあるので、久しぶりに見ました。
フレッド・アステア(1899~1987)が主演するミュージカル映画です。公開されたのは1953年で、その頃になると、いかに一世を風靡したとはいえ、アステアもやや落ち目となっていた(?)のでしょうか。
そんな現実のアステアをモチーフにして作られたのが本作です。
とにかく明るいアステアの演技やダンスと歌は見ているだけで楽しくなるのですが、今回久しぶりに見たら、ひとりの女優がとてもチャーミングに見え、彼女に首ったけとなりました。
私の心を捉えたのは、アステアの相手役のガブリエルを演じたシド・チャリシー(1922~2008)ではありません。
アステアが演じるトニー・ハンターの人気を復活させるため、コンビで脚本を書くマートン夫妻が、舞台演出家のゴルドバに掛け合って、ミュージカルとして演出してくれるように頼みます。
ゴルドバの得意分野は時代がかったものです。トニーが演じてきたアップテンポなものとは百八十度違います。そのため、トニーは乗り気でありません。それでも、マートン夫妻は、何とか実現するため、トニーとゴルドバの仲を取り持ちます。
このマートン夫妻の妻リリーを演じるナネット・ファブレー(1920~2018)がいいのです。リリーは脚本を書くだけでなく、舞台で歌や踊りを披露する女優も兼ねています。
舞台で歌い踊る彼女も、舞台を降りた彼女も、いつも明るく、トニーに顔いっぱいの笑顔を向け、トニーを励ましつつ、自分でも愉しんで演技をします。
ネットの事典ウィキペディアで確認すると、本作の脚本を書いたベティ・コムデン(1917~2006)とアドルフ・グリーン(1914~2002)は、自分たちをマートン夫妻として本作に登場させたようです。
グリーンとコムデンは、約60年にわたって、ハリウッドやブロードウェイで脚本や歌を共作したため、世間ではふたりを夫婦と思っていたようです。ところが、ふたりは結婚していなかったのだそうです。
本作でナネット・ファブレーが演じるリリー・マートンが、ベティ・コムデンの役回りとなります。コムデンは脚本や歌を書くだけで、本作のリリーのように、舞台に立つことはなかったようですが。
ゴルドバの時代がかったミュージカルは一度の上演で失敗に終わり、トニーが持ち味の軽妙なミュージカルに作り直して成功します。
演目のひとつに「TRIPLETS(三つ子)」があります。向かって左から、トニー、リリー、ゴルドバが三つ子に扮し、歌うものです。
ここでも、リリーに扮したベティ・コムデンが楽しそうに演技していますね。
これから先も、彼女を見たいがために、本作を見ることになりそうです。