現在は、誰もが手軽に動画の撮影ができるようになりました。
デジタルカメラには、レンズから入った光に感光し、像を定着させる撮像素子が搭載されています。
撮像素子が登場する以前は、撮像管が使われていました。
私は昔から映像に興味を持ち、そのときどきに発売される民生用の映像記録機器に興味を持ち、順繰りに使うことをしました。
8ミリ映画を楽しんだあとは、ビデオテープに映像を記録するビデオカメラで映像を撮影しました。
出はじめの頃のビデオカメラは、今からは想像できないほど大きな物でした。私が初めて使ったのは日本ビクターのビデオカメラですが、このカメラは映像を取り込むことができるだけで、映像を記録するビデオレコーダーが別に必要でした。
私が使ったビクターは、VHS方式を開発したメーカーで、その方式のビデオテープに記録するレコーダーでした。レコーダーは、テレビ番組を録画するデッキからテレビビューナーをなくしただけのような仕様で、4、5キロはあったのではないか、と記憶しています。あるいはもっと重かったかもしれません。
肩に載せて使うタイプのビデオカメラと重いビデオテープをセットで使うため、素人がどこかへそれを持って撮影に行くなどということは、非現実的な話でした。
カメラとビデオレコーダーを接続するケーブルは、直系が1センチ程度ある太いもので、それだけで、物々しい感じがしました。
このビクターのビデオカメラに搭載されていたのが、今の撮像素子が登場する前の、撮像管です。
今のテレビはほとんどすべてが薄型テレビですが、それが登場する以前は、奥行きのあるブラウン管のテレビでした。ビデオカメラの撮像管と撮像素子の関係は、テレビのそれと似たようなものといえましょう。
昔のことを思い出してこんなことを書いたのは、先週の金曜日(19日)に放送された昔のテレビドラマを見たからです。
今月の12日と19日に、二週続けて、NHK BSプレミアムで、山田太一(1934~)の脚本として有名なテレビドラマ『男たちの旅路』(1976~1979
)が放送されました。
このテレビドラマは一話完結の三話構成で、第一部から第四部まで制作されています。今回はそのうち、第一部から第三部まで、全九話が放送される予定で、今週の金曜日に第三部の放送が予定されています。
第四部には、清水健太郎(1952~)が警備員の役で出演しています。清水は以前、薬物使用で逮捕されるなどしたため、それで放送が見送られたのかもしれません。
舞台は架空の警備会社で、司令補役の鶴田浩二(1924~1987)のほか、若手部下の役で、水谷豊(1952~)が第一部の第一話から第四部の第一話まで出演しています。生真面目を絵に描いたような鶴田と対照させるように、水谷をちゃらちゃらした若手社員に山田は描いています。
私は昔からこのドラマが好きで、本コーナーでも何度か取り上げてきました。今見ても、水谷の演技を面白く見ることができます。
先週の土曜日に放送された第三部の第三話『釧路まで』のラスト近く、事件が終わったあとに、水谷が、桃井かおり(1951~)が演じる同僚社員とじゃれ合うシーンは、ふたりとも、自然とこみ上げる笑いを堪えて演技をしているように見えました。
ふたりは撮影が終わったあと、大きな声で笑いあったかもしれません。
水谷はその後、キャンディーズ(1973~ 1978)のひとり、伊藤蘭(1955~)と1989年に結婚しています。そのキャンディーズが、26日に放送される第三部の第二話『墓場の島』にゲスト出演しています。
それが放送されたのは1977年ですから、キャンディーズが解散する前年にあたります。のちに結婚することになる水谷と伊藤が、この番組で初めて一緒に仕事をしたことになります。
そのときに、ふたりの間に何かが芽生え、十年以上のち、一緒になったのでしょうか。
そのあたりのことを含めて、26日の放送を見てみましょう。
放送を確認しました。キャンディーズは、ステージで「シンでレア シンデレラ」と歌うごく短いシーン(1分もなかったかもしれません)が流れただけで、演技はまったくしていません。ですので、水谷と顔を合わせることもありませんでした。
それはともかく、19日に放送された第三部の第三話『釧路まで』は、もともとはカンボジアのアンコール遺跡周辺にあった石像を、北海道のデパートで催される展覧会に展示するため、カーフェリーで北海道の釧路まで運ぶことになり、無事に送り届けるよう警備するため、鶴田浩二と水谷豊、柴俊夫(1947~)が演じる警備員が乗船する設定です。
同僚の桃井かおりと五十嵐淳子(1952~)は、男性警備員に内緒で、観光目当てで乗船していたことが、あとでわかります。
カンボジアの人民に関心を示さず、石像を商業目的で展示することに反対する人物から、展覧会を中止しないと石像を爆破する、と展覧会をするデパートに脅迫状が届き、敵の裏をかいて、飛行機で運ぶ予定を秘密裏に変更し、船で運ぼうというわけです。
本シリーズは、全話をビデオカメラで撮影しています。1970年代ですから、カメラには撮像管が搭載されています。
私がかつて使った民生用ビデオカメラも同じでしたが、撮像管を使うビデオカメラは、使用上の注意が必要でした。それは、強い光にレンズを向け続けると、「焼き付き」が起こってしまうことです。
たとえば、太陽を撮影し続けると、焼き付きが比較的簡単に起きるといわれました。
焼き付きを起こした撮像管は修復ができず、撮影した映像には、焼き付いた部分が黒く写ります。
今回のドラマの主な舞台はカーフェリーの中です。おそらくは、これらの撮影にはスタジオは使われず、フェリーの中で撮影されたものと思います。
フェリー内での撮影ですから、撮影機材が限られた状態であったでしょう。ビデオカメラも、機動性がある、小型のものであったと思います。
また、フェリーですから、出港したら、途中で撮影カメラを交換するわけにもいきません。
その限られた撮影カメラの撮像管が、途中で焼き付きを起こしています。水平線に沈む夕陽でも撮影したため(?)でしょうか。ドラマを見ていると、焼き付いた黒い点のようなものが写っています。
ドラマ自体には影響がありませんが、今であれば、撮り直しの対象になるかもしれません。
デジタル技術を使えば、焼き付いて黒くなっている部分を修復できそうな気がします。
それも含めて、時代を感じさせるドラマということにしましょう。