2003/06/20 「流れに掉さす」とは?

「流れに棹(さお)さす」_今ではほとんど使われないいい方ではあります。が、これの正確な意味はご存知でしょうか?

今日の日経新聞一面には、このほど文化庁が行った「国語に関する世論調査」に関する記事が載っています。気になるのは、逆の意味で使っている人が半数以上いた、と書いていることです。

この調査は、全国の16歳以上の男女3000人を対象に実施されたもので、その内の2200人(73%)が調査に応じ、昨年の11月、12月に個別の面接が行われたとのことです。

冒頭にも書きました「流れに掉さす」ですが、私も恥ずかしながら逆の意味だと思っていました。「流れに棹をさすんだから、せっかくの流れを止めてしまうことかなぁ、、、」などとぼんやり考えていました。

これは不正解です。

ということは_正解は「傾向に乗り、事柄の勢いを増す行為をすること」です。

今回の調査でも、正解率は12%で、私と同じように逆の意味に捉えていた人が64%にも上ったそうです。

同じようなことは「役不足」にもそのまま当てはまります。これも、「自分にとっては物足りないこと」のような意味に捉えられがちですが、これも不正解です。

正解は、「本人の力量に対して役目が軽すぎること」だそうです。

ですので、サラリーマンが上役から責任の重そうな仕事を与えられたときなどに、自信のなさから「ボクにはちょっと役不足です、、、」などと応えると、上司からは訝しがられてしまうことでしょう。もっとも上司の方でも間違って理解していたら、そこで波風は一切立たないでしょうが(^o^;

このように、間違って意味を捉える傾向があることについては、そもそも、こうしたいい方そのものが現実の会話の中で極端に減ってきていることがあるのでは、と指摘する向きがあります。実際問題、棹を使って舟を漕ぐことはもちろん、そうした場面を目にすることさえ確実に減っています。また、「役不足」に関しては、「力不足」という似通った言葉と混同する向きが少なくないようです。

さらに今回の調査では、いわゆる「お役所語」に対する苦言も呈されています。中でもカタカナ語の氾濫が挙げられます。以下は今日の日経新聞の記事にある「理解度が低いカタカナ語ワースト15」ですが、果たしていくつ日本語の意味と結びつくでしょうか(理解度の低い順。カッコ内は日本語の意味/理解度のパーセンテージ)。

  1. インキュベーション(起業支援、育成/3%)
  2. エンフォースメント(法律などの施工・執行/3)
  3. コンソーシアム(起業連合体/4)
  4. タスクフォース(特定任務のため編成された部隊/5)
  5. メセナ(企業などによる芸術や科学の擁護、援助/6)
  6. エンパワーメント(権限の付与/6)
  7. トレーサビリティー(生産流通の履歴を追跡できる仕組み/6)
  8. リテラシー(読み書きの能力、識字率/6)
  9. ガバナンス(支配、社会的統括/7)
  10. バックオフィス(後方で事務処理を行う部門/8)
  11. デジタル・アーカイブス(デジタル情報で保管すること/9)
  12. ジェンダー(社会、文化面の性差/10)
  13. スキーム(公的な計画、枠組み/10)
  14. インセンティブ(誘因、刺激、動機/10)
  15. モラルハザード(道徳的危険、道徳的節度を失った行動/11)

逆に、同じカタカナ語でも広く理解が進んでいるものもあります。理解率の高いカタカナ語のベスト15は次のようなものです。

  1. ストレス
  2. リサイクル
  3. ボランティア
  4. テーマ
  5. レクリエーション
  6. サンプル
  7. リーダーシップ
  8. スタッフ
  9. フルタイム
  10. ホームページ
  11. キャンペーン
  12. リフレッシュ
  13. インターネット
  14. プロジェクト
  15. ドキュメント

いずれもが、80%から90%の理解率となっています。確かに、ベスト15については今さら日本語の意味は必要ないでしょう。ただ、10番目の「ホームページ」に関しては本来の意味とは違う、という指摘もありますが。

また、ファミリーレストランやコンビニなどでよく耳にする「千円からお預かりします」や「お会計のほう_」といったいわゆる「バイト敬語」についての調査も行われ、その結果、年齢が上になるほど「気になる」という結果が出ています。その反面、彼らと同世代の若者の場合は、「気にならない」が「気になる」を上回り、上の世代との間で逆の結果が出ています。

こうした日本語の乱れについては、私がいつも聴いていますNHK-FMのリクエスト番組「サンセットパーク」木曜日でも盛んに取り上げられており、身近な問題です。こうした言い回しというのは、結局のところ直接的ないい方を避ける意識が働いていることによるものと思われます。

そういえば「○○のほう_」で思い出しましたが、違法に消火器を売りつける押し売り商法では、「消防署のほう(方角)から来た者ですが、、、」といった常套句があるそうです。この場合は、消防署そのものから来ているわけではないので、「消防署から来た者ですが、、、」とは間違ってもいえないわけですが、これも広い意味で「直接的ないい方を避けている」ことになるのでしょうか?

いずれにしても言葉の乱れについては年齢が上に行くほど敏感に反応する傾向を見せていますが、言葉というものはこのように良くも悪くも変化していくものだ、ということもいえそうです。平安時代の言葉が今も使われていたらそれはそれで面白いとは思いますが、実際にはあり得ないことですしね。

外国でも10年、30年単位で言葉遣いは変化していくでしょう。ですから、日本でも変化するのは避けられません。それにしても最近の日本語の変化にはめまぐるしいものがあり、さすがに気になるところではあります。

ですので、この辺でそうした変化に対して「流れに掉さす」ことも必要かな、と思わないでもありません。あ?! これだと、さらに日本語の乱れを助長することになってしまうんだったf(^_^;)

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