焦点距離感覚を変化させる要素

レンズ交換式カメラを使っている人、あるいはこれから使おうと考えている人であれば、撮像素子のサイズに注意が向かうでしょう。

フィルムカメラ時代のフィルムに替わるのが撮像素子です。厳密にいえば、違うところがある(?)のかもしれませんが、細かいところは大目に見てください。

デジタルカメラが登場する以前、私はフィルムの一眼レフカメラを長いこと使いました。といっても、純粋に趣味として使いましたので、特別の知識や技術を持つわけではありません。

2000年代に入り、カメラの世界は大きく変わりました。デジタルの一眼レフカメラが登場し、年と共に入れ替わって行ったことによってです。

そんな変化を横目に見つつ、私は今にして思えば無駄な抵抗をし、「フィルムがある限り、フィルムの一眼レフカメラを使おう」と考えていました。

そんな私でしたが、時代の変化に抵抗し続けることはできず、2009年4月9日に、初めてのデジタル一眼レフカメラを購入し、以来、デジタルで写真を愉しむようになりました。

初めてのデジタル一眼レフカメラを購入するにあたって、デジタル一眼レフカメラでも、撮像素子の違いがあることを意識させられました。

大きく分けて次の3種類です。

フィルムカメラの時代、私はヤシカから出ていたCONTAX RTSおよびRTS IIを使っていました。このカメラの交換レンズが、カール・ツァイスであることが私には魅力的に感じ、このカメラを選んでいます。

ヤシカ・コンタックスRTSⅡボディ

あとになってみれば、ブランドに踊らされた格好にならないでもありません。それでも、カール・ツァイスのプラナー50ミリF1.4が大のお気に入りで、レンズが交換できるカメラを使いながら、カメラにはいつもこのレンズばかりをつけていました。

カール・ツァイスのプラナー50ミリF1.4

交換レンズは他に次の3本を揃えました。いずれも焦点距離が固定された単焦点レンズです。

私が50ミリのレンズが好きなのは、自分の眼の延長のような画像がファインダー越しに見られることです。あとで書くことになりますが、このことには訂正が必要です。

このようなカメラ体験をしてきたため、私はデジタル一眼レフカメラでも、フィルム時代のカール・ツァイス50ミリが使えることを前提にカメラ選びをしました。

その結果、キヤノンのデジタル一眼レフカメラであれば、マウントアダプタを介すことで、ヤシカ製コンタックス(ヤシコン)レンズが使えることがわかり、キヤノンを選びました。

私の亡き父はメカニックなものをあまり得意としませんでしたが、半分は私が使いたい理由で、カメラを勧め、父にはニコンの一覧レフカメラを使ってもらいました。

ついでまでに、8ミリ映画用カメラは、私が富士フイルムのカメラを使い、父には、私の関心から、ニコンの8ミリカメラ、R10を使ってもらっています。R10は今も使える状態です。

An Ektachrome Christmas 3

というわけで、私はキヤノンのカメラにはそれまで縁を持ちませんでした。

私にとって初めてのデジタル一眼レフカメラは、様子見というような意味もあって、撮像素子が35ミリフルサイズよりひと回り小さいAPS-Cサイズ(APS0C)を採用したカメラを選びました。

APS-Cの撮像素子ですが、ニコンとキヤノンでは微妙にサイズが違います。ニコンは35ミリフルサイズの1/1.5で、キヤノンは1/1.6です。

私ははじめからカール・ツァイスのレンズを使うつもりだったので、レンズは新しく買いませんでした。のちに何本か、純正レンズと社外メーカーのレンズを買いました。

購入する以前から、ネットでいろいろな情報に当たり、APS-Cで35ミリフルサイズ用レンズを使うと、キヤノンの場合であれば、焦点距離が1.6倍になる、というような話でした。

結局、この情報は、正確ではないことを、自分で使ってみて確認しました。

撮像素子のサイズが変っても、焦点距離は変わりません。考えてみればそうです。レンズは物理的にできており、撮像素子のサイズが違うカメラに装着した時、焦点距離が変化することは起こりません。

ネットの情報が意味していたのは、ファインダーで確認できる画像が1.6倍の焦点距離に相当する、というようなことでした。

ただ、実際に自分で試してみると、APS-Cのカメラに50ミリのレンズをつけてファインダーを覗いたとき、フィルムの一眼レフのファインダーで覗いたときと変わらないように感じ、喜びました。

私がいっている「変わらない」というのは、被写体との距離の見え方です。それはそうでしょう。50ミリの焦点距離には変化がないからです。

違うのは見える範囲です。APS-Cは、35ミリフルサイズの上下左右を黒い紙で覆い、狭くしたように見えます。それでも、ファインダーに映る画像の大きさは変わらず、その分、真ん中の部分が大きくなり、キヤノンであれば、焦点距離が1.5倍望遠になったように感じるというわけです。

私にはそれが窮屈に感じ、一年後には35ミリフルサイズの撮像素子が搭載されたカメラに変更し、今に至っています。今からもう一度APS-Cのカメラを使いたいかと訊かれれば、私は遠慮したい気分です。

カメラの進歩は続き、一眼カメラも、反射鏡がつかないミラーレス一眼カメラに入れ替わりました。それに合わせ、個人ユーザーだけでなく、プロの現場でもミラーレス一眼カメラで動画が撮影されるようになりました。

動画の撮影をメインに考えた場合、撮像素子は、35ミリフルサイズより、APS-Cの方が適しているのではないか、という声があります。

ネットの動画共有サイトで動画を配信されている、プロの映像制作者である桜風涼(はるかぜ・すずし)氏(1965~)も、そのような考えをお持ちで、実際に、APS-Cの撮像素子が搭載された一眼ミラーレスカメラを映画の制作にも使われています。

フィルムで映画の撮影をする場合もフォーマットはいくつかありますが、その中のスーパー35であれば、APS-Cとほぼ同じと聴きますので、理に適(かな)った考え方かもしれません。

映画の撮影で思い出すのは、小津安二郎監督(19031963)が好んで使ったレンズが50ミリのレンズであったことです。

小津作品といえば、常に低い位置から撮影された映像が思い浮かびます。これは、「ローアングル」ではなく、「ローポジション」だそうです。同じような意味に思えますが、レンズの角度が地面と水平にして、なおかつ低い位置から狙った映像です。

『東京物語 ニューデジタルリマスター』予告編

古い時代の日本を描くため、日本家屋の中で撮影することが多くなります。その中で座敷のシーンでは、畳の縁(へり)が必要以上目立たないよう、小津監督はそのポジションを選んだようです。

小津作品は、画面の縦横のアスペクト比が、【1.33:1】の「スタンダードサイズ」です。のちに横長の【1.66:1】などのアスペクト比ができ、それが主流になっても、小津監督は「郵便受けの穴から外を覗いているようだ」といったような理由で嫌った話があります。

小津の映像作りではほかに、画面転換のためのディゾルブなどをほとんど使わなかったことが知られています。

小津の時代のスタンダードサイズといわゆるスーパー35が、フィルムの面積でほぼ同じだった(?)のか、あるいは、違うのか、私は詳しいことを知りません。

そしてもしも、スーパー35とほぼ同じであれば、今のAPS-Cサイズの撮像素子が搭載されたミラーレス一眼カメラで50ミリのレンズを使って撮影していたことになります。

そうであれば、撮影できる範囲が狭く、50ミリの焦点距離のレンズを使いながら、感覚的には、75ミリか80ミリの中望遠レンズで撮影するのに近いのでは、と私は考えてみたりします。

もっとも、そうであっても、被写体から1.5倍程度離れれば画面内に収まる計算ですから、支障にはならないでしょう。

ここで、撮影距離の感覚の話をします。

私はフィルムの時代も、そして、デジタル一眼カメラを使う今も、50ミリのレンズは、自分の眼の延長のような感覚でいました。しかし、数日前、本当にそうなのかと疑問に思い、「実験」というほど大げさなことでありませんが、試してみて、今にしてやっと、あることを「発見」しました。

レンズ交換式カメラに装着されているファインダーの「倍率」が1倍であれば、50ミリのレンズを装着した時、ファインダーは目の延長のように見えるでしょう。

しかし、実際には、多くのカメラのファインダー倍率が1倍よりも小さくできています。多くの場合は0.78倍程度ということです。

ちなみに、私が使っているキヤノンのEOS RPのファインダー倍率は0.7倍です。ということは、使うレンズの焦点距離より0.7倍広角に見えるということです。

EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STMをつけたEOS RP

私が好きな50ミリのレンズで考えれば、35ミリのレンズをつけて覗いたのと同じ画像に見えるというわけです。なるほど、そんな画像に見えます。被写体に少し使づくことで、ようやく、被写体の大きさが目で見たのと同じになります。

ファインダー倍率を調べて、面白いことに気がつきました。

どんなカメラでもいいのですが、富士フイルムのH-X2に当てはめて検証してみます。

【X lab #28】X-H2 開発秘話 ~前編~/富士フイルム

このカメラの撮像素子はAPS-Cですから、50ミリのレンズは、75ミリレンズ相当になります。一方、このカメラのファインダー倍率は0.8倍であることがわかりました。

そこで、75に0.8をかけると、60になり、50ミリに近い60ミリのレンズ相当の画像がファインダーで確認できることになります。

ファインダー倍率の0.8倍が、「APS-C効果(?)」によって、実質1.2倍になり、理想的な1倍に近づいたことになります。ただ、見える範囲が、35ミリフルサイズに比べ、面積が1/1.5であることには変わりがありません。

映る範囲は、被写体から遠ざかることで広がりますので、小津が当たり前にしていたように、その分遠くから被写体を狙える環境が作れるのであれば、問題にはなりません。

こんな風に考えますと、APS-Cも悪くないように感じます。ただ、私はミラーレス一眼で動画を撮ることもありますが、基本的には動画にはビデオカメラを使えばいいと考えていますので、動画のためだけにAPS-Cのカメラを選ぶことは、今のところ、考えません。

映像作品を作るのであれば、それなりの機材が必要でしょうが、私の場合は、身の周りの、愛猫や草花、風景などを動画で撮影しているだけですからね。

考えてみれば、何十年、同じような被写体ばかりを飽きもせずに撮影してきました。この先も死ぬまで、変わりなさそうです。

キヤノンのビデオカメラ iVIS-HF-M41

ビデオカメラで撮影するときは、不思議なほど、焦点距離は意識しません。私が使うビデオカメラには10倍のズームレンズがついており、写したい範囲をズームレンズで作り、撮影するだけです。

ミラーレス一眼カメラとビデオカメラは、レンズの使い方で、大きな違いがある(?)といえましょうか。

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