日本の高校野球は世界的にはガラパゴス?

どの程度注目されたかわかりませんが、今年は米国のフロリダ州を会場に、16歳から18歳の選手が出場できる野球の国際大会“WBSC U-18ワールドカップ”が開催されました。

テレビでは中継されないため、この大会が開催されたことを知らない人もいた(?)かもしれません。

国際大会といいましても、大会に出場できるのは野球が行われている国や地域に限られるため、参加チームも多くなく、大会の開催異議も問われかねません。

高校野球の盛んな日本は当然のように出場し、銅メダルを獲得しています。

高校野球は、地方大会を会場まで足を運んで観戦するぐらいの関心を私は持ちますが、U-18ワールドカップは、それほどの関心が持てません。

気が向けばネットで中継されている試合を時折見る程度で、あとは、結果を確認するぐらいでした。

この大会の報道に接したことで、いくつかのことを考えました。それを順に書き、自分なりの考えを加えておきます。

野球といえば9回まで行われますが、本大会は、それがいつの大会から始まったのか私は知りませんが、7回まで戦うようになっています。

それはおそらく、投手の球数を減らす意図があるのかもしれません。また、その分試合時間が短くなり、ほかの選手への負担も軽減できます。

日本の高校野球は、テレビや新聞が毎回積極的に取り上げ、やたら感動的に伝えるため、投手や選手への負担が大きくなります。

夏の高校野球でも、ひとりの投手がすべての試合に先発し、ひとりで投げきったりすると、偉業のように報じられます。

日本ではそれが美徳のように考えられていますが、高校生の投手の肩への負担を考えれば、無茶な話です。投げれば投げるだけ、肩は消耗してしまいます。

高校を卒業したあと、大学へ進んだり、プロ野球を目指そうという選手であれば、なおのこと、将来のことを考えた投手起用が求められます。

プロ入りして活躍している投手に佐々木朗希選手(2001~)がいます。佐々木選手は岩手の県立高校で投手をしていましたが、彼が3年生の夏、決勝戦で登板しなかったことが話題になりました。

【日本記録!?】大船渡高校 佐々木 163キロの剛速球

たしか、前の試合にも登板しており、肩への負担を心配した同校の監督が、彼を決勝戦に登板させず、同校は敗れて、甲子園出場を逃しています。

監督は佐々木選手が将来有望な選手であることを熟知しており、それを考え、甲子園の出場を逃しても、彼の肩を守ったといえましょう。

時代が違いますが、佐々木と対照的な使われ方をした投手が千葉にいました。当時、常勝校だった銚子商業で投手をしていた土屋正勝氏(1956~)です。

土屋をエースに立てて戦った同校は、1974(昭和49)年の夏の甲子園で全国優勝をしています。甲子園で5試合戦い、土屋が相手校に与えた失点は、5試合合計で1点のみです。

打線が活発で、すべての試合に圧勝しています。

銚子商(土屋)決勝で防府商を完封 昭和49年
本日の豆発見
上に埋め込んだ動画を見て、あることに気がつきました。決勝に進んだ両チームとも、試合開始の時点でユニフォームが汚れているように見えることです。もしかしたら、今のユニフォームと生地の材質が違い、洗濯しても汚れが落ちにくかった可能性もありますが。

この土屋氏ですが、投手の命である利き腕の肘を傷め、治療をしながらの投球となりました。

以前に新聞の記事で読みましたが、練習の合間に、たしか、千葉の我孫子(あびこ)まで(だったかな)、成田線を使って通い、治療をしてもらっていた、というように記憶しています。銚子(ちょうし)から我孫子では、距離がありますね。

監督はもちろん土屋の状態を知っていましたが、それでも試合で使い続けました。

甲子園に出場して勝ち進み、後半は連投になったでしょう。

卒業の年の1974年のドラフト会議中日ドラゴンズから1指名されて入団します。しかし、高校時代の無理がたたり、プロに入ってからも、肘や腰の故障に悩まされ、活躍できないまま引退を余儀なくされました。

高野連も投手への負担を考え、遅ればせながら、2020年選抜大会から、投手の球数制限を始めました。しかしその制限は、あまり意味を持ったものでないように思います。

一週間で500球を超えた場合、それ以上投球できないという決まりだからです。500球に達するまでは、連日試合で投げることができ、これでは肩への負担は高まるばかりです。

その点、U-18ワールドカップの球数制限は理に適ったものに感じました。

この大会では、投手が50球の投球をすると、中1日開けた登板とします。また、100球を超えた投球の場合は、中4日は休ませなければなりません。

こうした決まりを作ってこそ、投手の肩を守ることにつながるでしょう。

ただ、これを今の日本の高校野球に当てはめますと、試合が成立しないケースが増えてしまいそうです。日本の高校野球の大会は、基本的に、短期間に多くの試合が組まれることが多いからです。

夏の大会を考えれば、地方大会が、決まった期間に行われ、出場校の多い地方であれば、7試合から8試合にすべて勝たなければ甲子園の出場は敵いません。

また、甲子園に出場したら出場したで、短い期間に集中的に試合をすることになり、投手が肩を休める暇が持てません。

しかも、50球と100球の制限を設けたら、エース投手のほかに、ほぼ同等の控えの投手が必要になります。それも、3人や4人と多いほど楽に戦えますが、それほど多くの投手を用意できる高校は限られるでしょう。

それでなくても、今は全国的に、高校球児の数が減っています。地方の大会に参加する高校の数が減り、一校だけではチームが組めず、数校が一緒になって戦う合同チームが増えています。

そのようなチームに、複数の投手を用意しろ、というのは無理な注文です。

それでも、50球や100球の球数制限を設けるとしたら、大会の期間を十分にとり、試合の間隔を開けるしかありません。甲子園の大会にしても、中4日で試合を組んだら、大会期間はどれほど長くなるでしょう。

もうひとつ、U-18ワールドカップの報道を通じて考えさせられたのは、日本と米国、あるいは日本以外の国とのストライクゾーンの違いです。

蛇足ながら、野球をよく知らない人のために補足しておきますと、ストライクゾーンとのは、決められた範囲に投球することで、球審にストライクをとってもらえます。

日本のチームが、台湾チームに9対2で敗れました。その試合のあと、代表チームの監督をする明徳義塾高校の馬淵史郎監督(1955~)の談話が紹介されていました。曰く、「ど真ん中に投げたボールをストライクにとってもらえない。球審にも相性がある」というようなことでした。

その試合の経過を確認すると、日本の投手は四球を多く出し、塁が埋まったところで適時打が出て点差が開いています。

それにしても、ど真ん中の球をストライクにとってもらえないというのは本当でしょうか。

私はその試合を映像で見ていません。ですのでこれは想像ですが、その裏には、日本と米国や外国とで、ストライクゾーンに対する考えが異なっていることがあるのでは、と考えました。

簡単にいいますと、日本の高校野球では、外国に比べて、ストライクゾーンが外角に広い(?)のかもしれない、ということです。

仮の話、ボールゾーンに逃げて行くような球もストライクにとってくれることがあり、その球で打者の空振りを狙うのを得意とする投手もいるでしょう。

打者としても、外角の球をストライクにとることを知っているため、少々ボールであるとわかっている球であってバットを出さないわけにはいかず、無理に振ることがありそうです。

この感覚を持ったまま国際大会で試合をしますと、日本ではストライクにとってくれる球をボールにされ、球審に不満を持ったりするかもしれません。

また、外国のチームは、狭いストライクゾーンに慣れているため、明らかにボールになりそうな球は余裕で見送り、ストライクゾーンに入って来た球を強くはじき返すことができるでしょう。

誰か、専門家が書かれたことが頭に残っています。

日本とは違うストライクゾーンで投手が勝負をしなければならないときは、ストライクゾーンにどれだけ力のある球を投げられるかで勝負が分かれる、というような話でした。

結局は、逃げてかわすのではなく、真っ向勝負で、力で打者を打ち取るのが大事ということです。

それだけの球を投げるのであれば、一週間に500球も投げてはいられないでしょう。50球投げたら一日休み、100球以上の場合は4日は休ませるというのは理に適っています。

詰め込み教育ではありませんが、日本で詰め込み型の野球大会を続ける限り、真っ向勝負ができる投手は育たず、育つことがありそうでも、肩を壊させて終わるでしょう。

この先10年、今の高校野球が存続するだろうか、と考えることがあります。それでも続けようと思えば、球数制限なり、大会のあり方なりを、抜本的に改革する必要があります。

U-18ワールドカップで戦う日本のチームの選手には悲壮感のようなものが漂っているように感じます。チームのユニフォームも型にはまりすぎ、遊びが感じられません。

野球もひとつのスポーツに過ぎません。もっと、思う存分、スポーツとして楽しんでみたらどうでしょう。その結果、勝ったり、負けたりするに過ぎません。

勝利至上主義では、投手にしても、肩に余計な負担をかけてしまうだけです。もっと力を抜いて、それでいて、活きのいい球が投げられるよう、練習しましょう。

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